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悪循環のカスタマーサービス

数日前にお届け日時を設定した荷物が届かない。冷凍便なので手渡しで受け取らねばならない。

指定したのだから不在はだめ、忘れるな自分。午前中に届くはずだが、まぁ早めに来てもらった方が助かるな。…そんな気持ちで待つが、なかなか来ない。遅れるなら連絡があるだろう。同じような経験はある。ちょっとなら大丈夫ですよ、と言うつもりだった。

正午をまわった。業者から連絡はない。日時設定を何度も確認する。やはり今日の午前中だ、間違っていない。配達状況は、「配送のため持ち出し中」から変わらない。

遅れるなら電話くらいしろよ、と苛立ちながら問い合わせる。

「この電話は録音させて頂きます、通話料がかかります」

この時点で、腑に落ちない。脅されているようだ。なぜこっちが金払わなきゃいかんのだ。

ナビダイヤルで対応してくれるのは、泣く子も黙るAI。無機質な声の主と一問一答形式のやり取りが始まる。送り状番号、住所、名前などを告げていく。こちとら来るはずのものが届いていないのだ、とりあえずまず形式だけでも、温度感のある声で「あぁそうですか、すみません!」と言うべきじゃないのか。それだけで気持ちはかなり変わってくるのに。電話口のあなたのミスではなくても、組織としてそうあるべきではなかろうか。

荷物の確認が済んだらしく、AIが淡々と告げる。

「荷物配送が遅れ、ご迷惑をおかけしております。今、全力で運んでおります。あと1時間ほどお待ち頂くことはできますか?【はい】か【いいえ】でお答えください」

「いいえ!」
食い込み気味に返す。さすがにカッとなる。

こちらの気持ちに迎合や配慮などしない(だからこそ採用されている)電話口の相手は「配送センターから改めてご連絡致します。この度はご迷惑をおかけし、申し訳ございません」

ブチっと電話が切れた。

何なんだこれは。カスハラが社会問題となっているのは承知だし、こういった対応が人件費削減や、カスハラへの事前対応になるのは分かる。分かっているけど…。

そっちのミスじゃないか。別にわたしだって、怒鳴り散らしたり悪態をつきたくて電話した訳じゃ無い。そりゃ文句のひとつは言うさ、遅れるなら一言電話するべきでしょって。もし連絡の行き違いとかシステムの不具合で届いていないなら、それだって、あんた方のした事なんだから、一言すみませんくらいあっても、さぁ?つーか、AIよ、まず形だけでも謝れ!最後に付け足すな!それとも、現場における遅延なぞ日常茶飯事で対応するまでもないってことなのか?

カスハラ対応のためのものが、結果として人の心の悪い方に働きかけているじゃないか。悪循環だ、むしろ新たなカスハラを生むことだって有りうる。本末転倒じゃないか。

んでそっから連絡も来ない!!意味わからん!ミスは起きるよ、仕方ないよ。でもそこにおける対応ってのが企業力、人間力じゃないんですか。道理に反してませんか。

もちろん、カスハラを容認するわけでも、AIの対応全てを批判するつもりはない。でもコレって、ただの不誠実じゃないか。お客様は神様?とんでもない。わたしはただ、指定された対価を払ってふさわしいサービスを受けようとしているだけの立場。それがなされず放置されている、だから怒っている。
わたしの心が狭いだけなのか?いや、違う気がするんだけどなぁ。

「人ならざるもの」との電話から30分が経ち13時を回り、ようやくトラックが来た。
遅れるなら電話してください、ずっと待ってたんですよ。
と、怒った口調で伝えると、覇気のない、痩せて顔色の悪い中年男性の配達員が弱々しい口調で「ハイ、ハイ、すみません…」

この様子じゃ伝わってない。
「いつもこんな時に連絡しないんですか?」と返すと
「すみません…夜通しやってたんですけど…あの…間に合わなくって…」
泣きそうな声で言われ、こちらももうこれ以上は責められなくなる。

「電話一本くれればそれでいいんで、これからはそうしてください」

配達員は消え入るような声で挨拶をして、またトラックに乗り込んだ。

何故かわたしの方が泣きそうだった。配達員の労働環境が問題視されているのも知っている。でも、迷惑をかけられたのはこっちだ。それは間違いない。AIの対応に腹を立てるのも自然な心理だと思う。でも配達員にあんな言い方されたら、こっちが悪者じゃないか。

まるで弱いものイジメをしたかのようで、後味の悪さを感じる。

社会における、様々な問題を突きつけられた気がした。心のどこかで、あの配達員のおじさんに凄く悪いことをしてしまったのでは、と悔やんでいる自分がいる。きっとあの人、他のお客からも散々叱られている。

結局、あのAIが言っていた【確認して改めてのご連絡】は無かった。届いたからいいでしょってか?1時間も遅れたけど?
やっぱ、おかしいよな…。

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