きっと来世もダンゴムシ
およそ5年前、妊娠をきっかけに建売で購入した我が家。
新生活もほんの束の間、入居後1ヶ月でわたしは出産のため九州の実家へ。そこからの3ヶ月間、我が家は生活感のないまま企業戦士の夫が寝に帰るだけの場所と化した。
そしてその期間、ぴかぴかの我が家にあろうことか「イニシャルG」が出没したのである!深夜、仕事から帰って来た夫が「奴」と対峙したのだ、それも数回。ほとんどひと気の無いのを良いことに、夢のマイホームは害虫たちが我が物顔で跋扈する非常事態となった。疲労困憊・孤独生活の中、招かれざる客とまみえた夫の受けた精神的ダメージは甚大で、彼からの情けないメッセージが臨月のわたしの元へ何度も届いた。長年の賃貸住まいでは奴と出くわすことがほとんどなかったし、何より新築の我が家で!その胸中、察するに余りある。
以来、我々は血眼でG対策に取り組むことに。先手必勝、油断大敵!室内スプレー散布、ブラックキャップ設置、また屋外ブラックキャップ設置。これらの労力は無事結果につながった。アース様々である。(最近点検を依頼した白アリ業者にも確認済み、アース様のおかげで我が家の平和は今も保たれている。)
ところが、この盛り塩よろしく家の外周に置かれた屋外ブラックキャップが、思わぬ犠牲者を生むことに。
ダンゴムシだ。
ブラックキャップの周囲には、ダンゴムシの死骸が転がるようになった。まさしく飛んで火に入る夏の虫状態、この小さな箱には、いったいどんな恐ろしい薬剤が…。丸まった姿で生き絶えたダンゴムシたちは、もちろん見ていて気持ちの良いものではない。(他の虫と比べりゃかなりマシだが…)
玄関先で連日量産される死骸の処理を余儀なくされ、これはこれでプチ・ストレス。
「掃いて捨てるほど」のダンゴムシたちをほうきで文字通り掃いて捨てながら、近くにいた夫に聞こえるように悪態をつく。
「何でこいつらは、こんだけ仲間の死骸が目の前にあんのに同じ過ちを繰り返すのかね、何も学ばんのか?」
間髪入れず、夫が返す。
「だからダンゴムシなんだよ」
吐き捨てるような物言いに、一瞬呆気に取られる。そして笑いが止まらなくなる。
同胞の無念など想像だにせず、その骸(むくろ)を越え、ただただ突き進むその先に待つもの。
本能だけで生きるものの愚かさとひたむきさに思いを馳せつつ、今日もわたしは生き絶えたまん丸たちを掃いては捨てる。コイツらはきっと、来世もダンゴムシなのだろう。
夫の冷たい声が脳裏をよぎる。実は、わたしは割と、彼のそういうところを好ましく思っていたりする。
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