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子ザメちゃんの力─『おでかけ子ザメ』によせて

こんなにおいしそうなナポリタンの絵はみたことがない。
そう思いました。
twitterで子ザメちゃんを初めて見たときのことです。

おでかけ子ザメ』はペンギンボックスさん著書の
少しレトロな町におでかけしてくる
子ザメちゃんとお友だちとのハートフルストーリーです。

昔から食べ物が出てくるお話が好きで
ついファンになってしまいます。

でも、絵の中の食べ物は
いつもあまりおいしそうにみえません。

寺村輝夫さんの王さまシリーズ『おしゃべりなたまごやき』とか、
『グリとグラ』の大きなカステラとか、
『バムとケロのにちようび』の山盛りドーナツとか、
好きなお話に出てくる食べ物シーンの一つです。

でも、あまりおいしそう、とは思わない。
ぜひ食べたいとは思わない。

子ザメちゃんのナポリタンは、例外でした。
子ザメちゃんのいる景色があたたかで
あまりにおいしそうで
あまりに愛らしいからかもしれません。

感覚の刺激

子ザメちゃんのイラスト、おはなし、その感触は
私の感情を揺さぶります。

たとえばナポリタンを食べている子ザメちゃんは
視覚だけにとどまらず
味覚や、嗅覚や、聴覚に刺激をはこんで
見ている人を覚醒させます。

絵を見るわたしたちの脳裏に
いくつもの刺激の重ねによる
複合的なイメージが生まれるのです。

情報を受け取るわたしたち人間は
感覚器官の束です。

子ザメちゃんはその感覚に
いろいろなメッセージを投げかけます。

おでかけ子ザメ_チューチューアイス

おでかけ子ザメ@ペンギンボックス』一部抜粋

一般的に五感といわれるもの。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、という
感覚器官に対応した感覚へと届きます。

けれど、五感といっても
たとえば味覚は
口の中や舌の触覚や嗅覚が
微妙にからみあった感覚です。

ナポリタンを頬張ったときと
口まわりのソースをなめるときと
チューチューアイスを食べるときの感覚は
同じ「味覚」のなかでも違うものに感じるのです。

おでかけ子ザメ_ナポリタン2-2
子ザメ_ナポリタン
おでかけ子ザメ_チューチューアイス2


『おでかけ子ザメ ハイキング』では
子ザメちゃんが山頂でおにぎりを頬ばる姿を見るだけで
いつか見たような景色が脳裏によみがえってきます。

おでかけ子ザメ_ハイキング2
おでかけ子ザメ_ハイキング3
おでかけ子ザメ_ハイキング1

おでかけ子ザメ@ペンギンボックス』一部抜粋

どんなにその行程が辛いか。
山を歩くとどんな感じがするか。

それらは記憶の中に感覚として蓄積されていて
絵を見るだけで脳裏に再生されて
受け取るわたしたちそれぞれの
イメージをつくり上げてくれます。

心に届いて連れて帰るおはなし

子ザメちゃんのバスボールの中から生まれた
小さなしあわせ。
このしあわせと
食欲をそそるナポリタンとは
無縁ではない、と、思います。

記憶しようという努力はまったく要らなくて
すべては一瞬のうちに反応してしまいます。
わたしたちの感情を即座に刺激します。

子ザメちゃんのこの物語の構成と構図を
わたしは完璧だと思います。

わたしは自分の記憶とこのバスボールのおはなしの
子ザメちゃんの区別が上手くつけられません。

バスボールのおはなしの子ザメちゃんは
子ザメちゃんの世界の友だちだと思うし
わたしは人間世界の
子ザメちゃんの友だちだと思うのです。

すごいなあ。
人の心を惹きつけて和ませる
工夫が凝らされている。
本能に訴えかけてくるから
耐久性が高いのでは、と感じます。

上手なストーリーテラーさんは
感情や気分や性格も伝達してしまう。
物語に登場するキャラクターや情景を
生き生きと表現できる。
結果、人の心を誘導してしまいます。

子ザメちゃんコミックは
よいところがたくさんあるけれど
「連れて帰る」物語があるというのが
なんといっても魅力です。

しあわせな世界というのは
こういうモノを思い出して眠る夜じゃないかしら。
ペンギンボックスさんのセンスの一端なのだろうな。

余分のない世界

極力文字のない世界で
物語の展開を楽しませてくれるところも
ペンギンボックスさんの魅力です。

イラスト以外の情報が少ない。

デザイナーという職業柄
可能な限りの削ぎ落としを意識するわたしにとって
ペンギンボックスさんには感服させられます。

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ペンギンボックスさんは
デザイナーさん、イラストレーターさんかあ。

今は情報が溢れすぎる時代で
余分なものが多すぎるから
情報を出さないというのもカッコいいと思います。

この情報化社会で
ただただ作品を生み出し続けていく潔さ。

イラストだけで感情に寄り添ったり
不安を和らげたり
考えを良い方に誘導できるって
本当にすごい。

脳みそに勝っている本。
頭のコリもほぐれる気がします。

自分のストーリーを紡ぐ

『おでかけ子ザメ』を見ていると
物語から自分のストーリーを紡ぐことができます。

たとえば音楽のなかに生息する詩(言葉ではつくり得ない)
──があるのと同様に
絵でしか奏でられないもの(音や言葉では表現不可能)
──もあるのだとよくわかります。

具象を持ち得ないもの。
はっきりした姿・形のないもの。
一人ひとりの心の中にあるもの。

いつかの思い出とともに物語はあって
新しくて懐かしい子ザメちゃんのストーリーは
時代や国を超えていきそうな気配がします。

100年先の人にも
遠い国の人にも
届く気がします。

子ザメちゃんは動物だから
人間より抽象的な存在で物語の世界に入りやすく
たくさんの人に届くのではと思います。

漫画は読み物というイメージが強いけれど
目に訴えかける子ザメちゃんや
子ザメちゃんを見守る優しい心は
本能みたいなものに訴えかけてきます。

わたしはこんなものが見たかった、
という気持ちになる子ザメちゃんコミック。

ノックアウトされてしまいます。
簡潔で、過不足なく、絶対的。

わたしもときどき道草しながら
自分のできることをやっていきたいな。


おでかけ子ザメポスター

子ザメちゃんポスター、見ました♪ 🌻🦈✨(∩´∀`)∩
(3/30 横浜駅 東西自由通路から相鉄線へ向かう道にて)


追記:
『おでかけ子ザメ2』によせても書いています📝
よかったら読んでみてください👇🦈

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