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スパロウとブッチ(1)

私の好きな漫画・アニメにBlack Lagoonという作品がある。その作中に出てくる「逃がし屋」がいる。自他共に認める重度の薬物中毒者の男で、仕事の最中でも休憩中にはドラッグをやっている。愛車のジープ・チェロキーのシートを汚されることを非常に嫌っており、警告の時だけは正気に返る。後にヤク中の症状が悪化して精神科医の下で暮らしている、というキャラがいる(この濃さでわき役)今回はそういう人たちのお話。なんで前振りにこんなキャラの話を振ったかというと、Black Lagoonと、このキャラをご存じの方には、あぁ、あの感じかとわかっていただけるかもと思ったから。

友人に二人、薬のやりすぎで脳みそショートしちゃった人たちがいる。一人は、スパロウ。彼は会った時にはもうすでに頭がイっていた。もう一人は、ブッチ。この人は、普通の頃に知り合って、後に薬から抜け出せなくなり、頭のイってしまった人。今回はそんなお話。

スパロウ。あの海賊映画の主人公と同じ名前。ただし彼は名前がスパロウ。苗字はついぞ知ることもなく亡くなってしまった。彼は、そもそもドラッグ大好きな人で、会ったのは彼が18くらいの時だったけど、私が会った時にはすでにドラッグで脳みそがショートしちゃって、知的な障碍者になっていた。

当時、「周りが暗くなったら絶対に行くな」と言われていた大きな公園があった(今もあるけども)そこにはガラの悪い人、ギャング、ドラッグ中毒者などがいて、強盗やレイプの被害者が多発しているから、夕方以降は絶対に、絶対にいくなと留学生にはものすごく何度も言われる、そんなとこで出会った。当時はそこがアルゴとその友達らのたまり場だったのだ。カフェやバーに行くお金がないから、公園でうだうだする、そんなありがちな若者たち。そこで紹介されたアルゴの友達の一人がスパロウだったのだ。

スパロウは「東京」と刺繍された真っ赤なキャップをかぶり、遠視用のものすごく分厚い眼鏡をかけていてHelloooooooo, I am Sparooooowwwww, I Looooove Japaaaaaan とこんな感じで自己紹介してくれた。はーーーーろぉぉぉ。あいあむ、すうぅぅぅぱぁぁぁろぉぉぉ。日本語にするとこんな感じであろうか。

彼はパーティで誰かが彼のドリンクに大量のアッシド(LSDの俗称、幻覚剤)を入れ、それを知らずに飲んで、それ以来、ずっとハイなんだそうだ。

ちなみに、アッシドの過量は呼吸麻痺をおこす。また、脳血管に蓄積性に影響を与えることがわかっており、過量投与では脳血管障害により死に至る。過度使用によると推定されている死亡例によれば、LSDの血中濃度から、320 mgのLSDを静脈注射したためだと推定された。スパロウの血からは、死亡するかしないかのギリギリの量が検出されたらしい。だから、スパロウが死なずに生き続けていたのは、ラッキーな話だったし、なんせ本人は常にハイなのだ。そりゃ幸せだろう。毎日、ハイなのだ。そのハイなところに、さらにアルコールや別の薬物を投入しているのだから、ハッピーハッピーであろう。

アッシドは過剰摂取することで、サイケデリック体験なるものをするらしいが、なんぞ……それ……サイケデリックとは?私が想像もつかないハッピーワールドで暮らしていたスパロウ。スパロウのドリンクを仕込んだ犯人は見つからなかったが、スパロウはその精神状態のせいで国や州から生活援助をもらえるようになっていたので彼はもらったお金で毎日、楽しそうにお酒を飲んで、薬をやっていた。

スパロウには親がおらず、スパロウがまだ普通だった頃からの何人かの友達が一緒に支えながら暮らしていた。スパロウは、脳に何らかの障害が起こったらしく、うまくしゃべることができなかったし、LSDを過剰摂取したときによく起こるフラッシュバック、被害妄想、妄想による無謀な行動をよく起こしていたので、警察にもよく捕まっていた。よく奇声を発しながらストリートを走り回ったりしていた。

アルゴが21歳になったとき、私とその公園にいた友人たちでKeg Partyを開いた。21歳というのは日本での20歳のお祝いをするのと同じで、成人のお祝いだ。Kegというのはビールの大きい樽(58リットルくらい)をどかんと据えてするパーティのこと。当時、私たちはアパートメントの3階に住んでいたのだけど、2階へと引っ越しする予定だったので、3階と2階が使えた上に、1階の住人とはとても仲良しだったので、3部屋分の部屋を使っての大きなパーティだった。各アパートメントには、2部屋のベッドルーム、それに大きめのリビングルームがあったので結構な広さである。なんだかんだで100人くらいは人が来たように思う。当時は繁華街と呼ばれるストリートの真裏に住んでいたので、飲みに出ていた人が話を聞いて寄ってきたり、パーティにきていた人がそのまま飲み屋に出たり、そんなパーティだった。

スパロウももちろんやってきた。みんな酔っぱらっていた。明らかに薬をやっていてハイな人たちもいた。言っておくが、私は薬の関係で身内を亡くしているし、そもそも阿呆のように高いお金を払って薬を買う意味がわからない。なんせ私は、酒だけで大層酔っぱらえて、ハッピー、ハッピーなもので反薬物派である。薬に大金を払ってまでハイになりたい人たちの意味がわからなかったし、今もわからないでいる。あと、大学院にいたころはバイオニューロサイコロジー、大脳生理学とでもいうのか。脳の仕組みと心というようなことを研究していたので、ドラッグの恐ろしさは学術的に理解していた。うんと昔、すすめられて一度だけマリファナを吸ってみたけれど、即座にマーライオンのようにびっしゃぁぁぁとものすごい勢いで全方位に嘔吐し、しまくった挙句、とてもとても嫌な、ダウナー満載の気持ちになったため、ますます反薬物派になったのだ。だから自分では絶対にやらないし、大事な友達だとか近しい人がやっていた、そりゃぁ、やめなよ、と言う。常識的な意味で。

だがしかし、スパロウはすでにナチュラルな状態でハイ、薬物をキメている状態なのだ。だから、やめなよといっても聞くはずもなく、通じるはずもない。なので、そのパーティでもスパロウもスーパーハイになっていた。ハイになりすぎて、2階の部屋(これから私たちが暮らす部屋)で、たくさんの人がいる中、いきなり、排尿をして、パニックを起こした。そしてそのまま、全裸になり外に駆け出して行った。

これから住む予定の部屋に放尿されて私は激怒した。もちろん、大騒ぎになって、みんなでスパロウを捕まえにいった。30分ほどして、全裸のスパロウを公園の中の噴水で見つけた。4月とは言え、この町の4月は寒い。ジャケットが必要なくらいの気温である。アルゴ生誕祭の後、スパロウは肺炎になり、病院に運ばれたという。

それからしばらくスパロウに会うことはなかったのだけど、2年ほどして友達づてに彼が交通事故で亡くなったことを知った。そして、やはりというか、なんというか。彼は酔っ払っていて、なんらかの薬物の影響下にあって、全裸で車の前に飛び込んだ末の事故死だったという。肉親がいなかった彼は、当時、公園に溜まっていた友達たちが寄付を募って葬儀を行った。私達もいくらかの寄付をした。遺体は荼毘に付され、散骨された。

短すぎた人生。彼がシラフの状態を私は知らないからなんとも言えないけど。でも、彼と話した時に言った。

僕はいま、こんなんだけど、友達がいて毎日、ハッピーなんだよ。家族も親もいないけど、友達がファミリー。アルゴもそうだよ。だから、アルゴの大事な君も僕のファミリーさ。君は幸せ?ねぇ、トウキョウはどんな街?僕、いつか行きたいんだよね。すごくクールな街なんでしょ?

そんなことを言った。トウキョウは楽しい街だよ。あ、でもここいらみたいに簡単にドラッグは手にはいらんよ?お酒とタバコは自販機で売ってるんだけどね。路上でさ。

そう答えた私に、お酒が?!ビールが?!路上の自販機で?!ひゃーーー!!!天国みたいな街じゃない!!!

と、大興奮状態に陥り、その話を他の友達にするために小躍りしながら私のそばを離れた。少し離れた場所から、くるっと振り向いて、満面の笑みでいった。

ねぇ!僕、いつかトウキョウにいくよ!君とアルゴと一緒にさ!君がだいすきだ!アルゴがダイスキだ!僕はハッピーさ!!

あれから何年も経つけれど、あの時の会話と、スパロウの笑顔が忘れられない。世間的には、ただの薬物中毒者、生活保護、障碍者保護を受けている将来性の無い青年なのだと思う。

でも彼は生きていた。笑っていた。

(続く)

ちなみに冒頭であげたブラックラグーンは、ただいま、連載スタート20周年記念で、毎週、公式がYoutubeにアニメをあげているのでおすすめ。




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