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Reviews-1 Book Review

Book Review, Movie Review - 読んだ本や観た映画の感想なぞ。実のところ、映画鑑賞と読書が我々、夫婦の趣味……というか、毎日やることです。なので面白かったなぁとか、考えされられたなぁなんて映画や本なぞを紹介。

今回は、Book Review-おすすめしたい料理関連本(1)

私は料理がとても好きでご飯やレシピ、料理の絡んだ小説や物語を読むのも好きなのです。これから紹介する3作は、どの本も再読しすぎて本がボロボロになった愛読書。

檀 一雄 【壇流クッキング】

私なぞがおすすめせずとも、大文豪の大ベストセラー。『火宅の人』『リツ子その愛』『リツ子その死』なども好きだがこの本が断トツで好きである。最後の無頼派文士と言われ、同時に文壇屈指の料理人として名を通した壇一雄がレシピを紹介するエッセイ本。

檀氏が9歳の時に実母が出奔し、また父が料理を作れなかったこと、そして小学校に上がっていない妹が3人いたことからやむなく料理を始めたらしいが、冒頭に書かれている『初めて片栗粉を使ってとろりとした餡を作った時の感動』的な文を読んだ瞬間、私はこの本の虜になった。だって、片栗粉を水で溶いて餡を作る、初めて自分でやってみた時の感動を共有できる人がいるだなんて知らなかったからだ。

昭和40年代の新聞連載をまとめた本なのだが、何がすごいってこの本には絵や写真が無い。それなのに、文章だけでごくりと唾をのみ、じゅるりと涎が出てくるほどにイキイキと鮮やかに料理のお話が広がり、流れるように料理が出来上がるところが想像できるのである。あぁ、この人は本当に料理が好きなのだなぁと思える。

レシピそのもの(分量とか)は割と大雑把だが、レシピ本としてご家庭に一冊、ぜひ!と力を込めておすすめしたい本。

始めて読んだのが高校生の頃だったので、かれこれ30年以上にわたり、何度も何度も読み返す本である。60種以上のお料理が紹介されているが、半分ちょっとくらいは私も再現した。その中でも、焼餅、もち米団子、心平粥、シソの葉寿司などは私の定番レシピになっている。ちなみにレシピ再現サイトがかなり多いのでそれを見るのもおすすめ。この本のせい(?)で、私はカレーを作る折は、薄切り玉ねぎをビールを飲みながらゆっくり、ゆっくり炒めるという癖がついてしまった。

最近(?なのか?)完本・壇流クッキングといって子供さんたちのエッセイも加えた本が出ているようなのでそちらの方もいつかチェックしてみたいと思っている。


谷崎潤一郎 【美食倶楽部】

私は何かと拗らせた若者だったので、耽美・デカダン作品と呼ばれるものが非常に大好きであり、『ちょっと周りの子たちとは違う風』を演ずるため(こざかしい!)に、谷崎潤一郎、三島由紀夫、澁澤龍彦、森茉莉、夢野久作、江戸川乱歩などを愛読していた。高校1年の時はほぼ、ほぼ登校拒否児であったので保健室登校ならぬ、図書室登校をしており、そこで存分にこれらの作家の本を耽読したのである。

谷崎といえば、過剰なほどの女性愛やマゾヒズムなどのスキャンダラスな文脈、情痴や時代風俗などのテーマを扱う通俗性などであろう。『痴人の愛』『卍』『刺青』などのフェティシズム、愛欲、倒錯的な愛などがテーマになった美麗な物語が有名だが、この美食倶楽部は、言うなればそのフェティシズムが性欲ではなく、食欲に向けられたお話である。

性欲、食欲、睡眠欲は人間の3大欲なので、ものすごく理にかなっているように思う。

食フェチとでもいうべき5人の美食倶楽部会員は、ありとあらゆる料理、美食を探求を追求する。その会員の一人が偶然に発見した中華料理屋のようなところで出会った謎の食べ物。

「舌をもってその美食を味わうばかりでなく、眼をもって、鼻をもって、耳をもって、ある時は肌膚をもって味わわなければならなかった」

初めてこの文章に出会った時、私はなんだかとてもドキドキしたのを覚えている。妖艶でいやらしいなぁ、なんて制服を着た私はそう思ったのである。

大正時代、テェブル、伯爵、貴公子、胡弓の響き、木造の西洋館、アヘン喫煙。

有りと有らゆる支那料理(中華料理)の珍味佳肴が一度にどッと眼の前に浮かんで果ては喰い荒されたソップの碗だの、魚の骨だの、散り蓮華だの杯だの、脂で汚れたテーブルクロースだのまでが、まざまざと脳中に描き出された。

何だろう。引用した上の文は別に妖艶でもなんでもない気もするけど、このだらしなく、食い散らかされて、放置されている食卓の様子は、例えば情事の後のくしゃくしゃになったシーツ、むわりとこもる甘ったるく生臭い空気、そんなものを連想してしまう。隠したいような、でもむき出しの恥、とでもいうのか。

物語後半では、会員たちが実際に謎料理コースを食べるシーンがあるのだけれど、一品、一品、ものすごく濃厚で妖艶。食事をしているだけなのだが、とにかく、エロティックなのです。この話はないですが、沢山の谷崎作品が青空文庫さんで読めるのでそれもおすすめ。

因みにこの本の次に私が好きなのは『夢の浮橋』という晩年のエッセイ。「母」への想い(生母、継母)が書かれているのだけど、これを読んで、谷崎という人のフェティシズムだとか、女性への想いだとかそんなものの原理、根底みたいなものを垣間見れた気がします。


開高健 【小説家のメニュー】

世界一、素敵なアイスクリームを食べる描写のある本だと思う。

『ベトナム戦記』『オーパ』『裸の王様』など数々の名著をもつ開高健氏だが、この人もまた料理、レシピ、お酒に関する名作が沢山ある。この本では氏が旅した世界のあちこちで食べた料理の紹介をしているエッセイなのだが、ネズミの料理や、ピラニアなどの珍味、ゲテモノ系の話もあるのだけど、私はこのアイスクリームがとてもとてもおいしそうだなぁと思った。

雪の降るモスクワで食べたアイスクリーム。極寒豪雪地方在住の私は、雪の中でアイスクリームを食べるなんて想像だにしたくはないが、このエッセイにあるアイスクリームを食べる話はものすごく、私もそんな風に食べたい!と思えるのだ。特に美麗な文体ではなく、まっすぐでユーモアに富んだ文章。けれど、味や食べる瞬間を描く語彙が恐ろしく豊富で、食べ物そのもののお話に加えて、その巧みな文体は、まるで目の前で作者がおしゃべりしてくれているような気持ちになる。

ブリュッセル郊外で食べたという至高のチョコレートもかなり惹かれる。甘いものなんてちっとも好きではないのに。甘いもの好きでもないのに、そんな人に、むぅ、これは試してみたい、なんて思わせる。アマゾンで釣りたてのピラニアをさばいて刺身にして、醤油をつけて食べる話も、うわぁ、私もやってみたい、と思う。

私が改めて言うようなことでもないが、作者は好奇心の塊のような人。エネルギッシュで、活動的な人。最後の品目は水。確かに、なるほど水かと納得はするけれど、なんだか狙いすぎているような気もするなぁと思いつつ、あぁ、でも最後に人が行きつくのはやっぱり水なんだなぁと思う。

なんだかあちこちに旅をして、色んなものをモリモリ食べたくなる一冊。

ちなみに私が開高健氏の著作に出会ったのは、『動物農場』ジョージオーウエルの訳本。サブカル好きっぽく、拗らせがちだった若き私は、ジョージ・オーウェルの「1984」を読み、そこから開高健の著作に触れ始めたのだけど、開高健のオーウェル論は「1984」を読んでないと理解しきれないような気がするけれど、私は彼の独断というか、物事をきっぱり断定形で書く潔さもまたとても好きです。

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ぱっと思いついたまずの3作。料理に関するおすすめ本。意識はしてなかったけれど、全員が男性作家のものになったので、その(2)では女性作家の料理に関するおすすめ本なぞをご紹介したいと思います。




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