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【エッセイ】退職のお知らせとご挨拶【完全版】

 まいど。

 ちょっと長い。
 19日の終業式で僕の異動が発表されたので、ひとまずfacebookで退職のご挨拶を書いた。しかし、スマホからのfacebook投稿はやっぱりやりづらいのと、あんまり長々書いてもタイムライン上で読みにくいやろがいってことを思ったりしたので、思ったことをあまり書けなかった。なので、完全版(といっても大筋は大して変わらないのだが)をここで綴らせていただく。


 香川に来てもう3年というべきか、いやまだ3年というべきか。

 本年度をもちまして僕は職場を退職いたします。

 突然のお知らせとなり申し訳ありません。
 3年前香川に来たときは、本気でこの地で教員をやっていくという気持ちでした。決意して来たといってもいい。「ウソつけ」と思われる方もいらっしゃいましょうが、半端な気持ちで引っ越し代ウン十万も払って移住なんてしない。
 3月の引っ越しは結構高いんだ。

 多くの人に支えられた。だから多くのことに取り組ませてもらえた。
 僕が高松で肩で風を切って歩くように見えたのも、みんな人に支えられてのことだった。やはりここでも僕は人を求めた。
 僕がやってきたことは教育改革といえば聞こえがいいかもしれないが、無闇やたらに引っ掻きまわしたばかりのようにも思える。いや、事実そう思っている人の方が多いんじゃなかろうか。けれど、それができたのも、みんなの支えあってのことだった。
 何と言われようと、「ありがとうございました」この一言に尽きる。

「なんで高松に来たん?」
 この3年間で1番聞かれたであろう質問。
 どうしてなんだろう。。。そのたびに自問した。働き口があって、僕を必要としてくれたからというのが全てだった。それ以上の理由はなかった。まさに縁もゆかりもなかった。
 でもどうしてか、偶然ではないように思えた。必然だった。〈物語に銃が出てくれば、発射されなければならない〉とでもいうように。

 僕が高松に来て、去る理由。それはまさに「海辺のカフカ」そのものだった。
「カフカ」については、ラジオでも扱おうと思っている。
 高松はいいところだ。うどんだけじゃない。これといった観光地はないが、そんなもの大したことではない。梅田に比べればいささか不便だったけれど、そんなものネットがなんとかしてくれる。だいいち、比較は喜びを奪うのだ。
 高松は人がいい。ご飯もうまい。酒も意外とうまい。駐車場が安い。気候がいい。だから穏やかな心持ちでいられる。風が吹く。そして星がきれいだ。
 今思えば、僕は高松で何かを埋める必要があったんだと思う。けれどいつまでもここにいる訳にはいかない。
 僕には高松に来る必然性があった。けれどここにはまだ長居はできない。

 高松は、ある意味で、完璧であった。

 高松に来てまもない頃、悪友のテューバ吹きに「お前、香川の教育変えるつもりでやれや」と叱咤された。あの夜を何度も思い出した。その言葉で走り続けた3年間だった。たしかあの夜は地元で獲れた鯛で鍋をしたんじゃなかったけか。
 香川の教育を変えられたとは思わない。けれど、僕が関わった限りにおいてはレールのポイントを切り替えるくらいのことはできたんじゃないかと思う。「自己肯定感が高いのぅ」なんて揶揄しないでほしい。実際、僕は「自己肯定感が高い」んだから。
 ただレールの先がどこにつながっているのかは分からない。ポイントが切り替わったからといって、いい方向に自ずと進んでいくとは限らない。そこから先は、その先に携わっている人々によってどうにでもなる。本線に復帰することだってできるのだ。環状線にすることもできる。あるいは、単線一方通行で進み続けることもできる。

 教育はしばしば列車のメタファーで語られる。
 走行中の車両に不具合が出た、行き先に問題が発生したからといって、列車を止めて修理したり思案することは実際できない。ではどうするのか。列車は走らせたまま、修理や方向修正を試みなければならない。でもそれは極めて危険で、無理があって、勇気のいることである。けれど誰かがそれに着手しなければ列車はいずれ壊れて動けなくなってしまう。
 乗車する人がいる一方で、問題に着手し駆けずりまわる人がいる。
 けれどのんびりと乗車しているように見える人も、はたしてそうなのかどうかはわからない。そこにはちょっとした想像力が必要となる。想像力のない〈うつろな人間〉にはなりたくはないなと思う。

 ひとまず関西に帰ることにする。
 またウン十万の引っ越し代を払ってね。
 今後のことはまた追ってご報告いたします。
「なんやねん、ここまで読ませといて今後のことは言わへんのかい」とお思いのあなた、ここまで読んでくださってありがとうございます。
 桜が咲いて、それでも僕のことであなたの脳の容量を割いてくれているのなら、またここをのぞいてみてほしい。
 ただ僕のことで貴重な脳の容量を割くのは、意外ともったいないような気がする。

この世をばどりゃおいとまにせん香の煙とともに灰左様なら / 十返舎一九

知らんがな。

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