小説 失神国民健康保険 その7 関本ぶりき

 なぞが多い。なぞが多すぎる。どういうことだ。
「前の店長がな、透析せなあかんてことなったんや。そんなもん透析うけながらSMクラブの店長なんかできるかいな。せやろ、せやからやな、人が困ってるねんから、な、幸作ちゃん、もうこっから先はなにも聞かんと、うん、ていうてくれ、聞きたいことは山のようにあるかもしれんけどな、何も聞かんとうんていうために来たんやろ」
 そんなことはない。何も聞かんとうんというために来たわけではない。とはいうものの、生活を考えるに失業保険の支給は終了しここからさきはなんとかいきていかねばならないわけで何かをかんがえていたわけでもなく、タイムカードさえ押せば1万円やる、なんてことも言われて断る理由もどこにもない。そうか、断る理由はどこにもないか。車のおじさんとこの店の関係性をまったくっといっていいほど説明されていないのにもかかわらず、簡単に引き受けるのは間違いだったのではなかろうか。
 ここにきて一週間。おじさんからこれで定期を買いなさいと言われ先に5万円をもらった。え、日本橋までの定期こんなにしないけどな、思っているとおじさんはこういった。
「どうあれ、三か月分の定期を買っといたらええねん」

 どうあれ、である。といわれて、正直に三か月の定期を買うのはばかげているようにも思ったので、いまだかってない。定期、定期か。定期はかわなかったが、いかにも現代人という感じの人間が使ってる改札に触れてつうかしていく、ピタパと呼ばれるあのカードは買った。あれを使っているとなんだが仕事をしています。私は移動が多いです、なんて気になる。実際はSMクラブのぶひっとねの店長代理なのだが。正午ぐらいに店にはいり終電で帰る。行きの電車は座れるのは嬉しいが、帰りは立つのだ。20分くらいたってもいいのだが。
そう、終電で帰るのだ。いかがわしい店と思いきや、終電で帰れるというのが、どういうわけか。法律で定められた時間内には終わる。どういうわけだ。

 SMクラブぶっひっとね、の店長代理になって1週間。店長代理とはいうが、ここでは女王様6人以外には俺しかいない。だいたいなんだ、女王様ってのは。どこの国を統治してるんだ。女王さまはムチで人をたたくだろうか。いや、たたかない。悪政によって民を困らせることはあるが、ムチでたたくなんて女王様はこの世にいないのではないだろか。

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