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国民を動かすキングのスピーチ 前編~異世界自己啓発ラジオ【第7話】

「今日の相談者はなんと王様ですよ!」

 ローゼンちゃんが目を輝かせて鼻息荒く教えてくれる。
 心なしか耳の毛が逆立っているように見える。

「スゴイね! ついにキング登場だ」
「タルカス帝国のブラッフォード二世さんです。タルカス帝国は三千年の歴史を持つ大国で、狼をモチーフにした王家の紋章がすごくカッコイイんですよ。」
「お、おう」

 ローゼンちゃんのテンションがおかしい。
 人には意外な性癖があるんだな……

「王冠がまた素敵なんです! 巨大なダイアモンドから削り出されたもので、宝石がまるごと王冠になってるって感じで」

 まるごとバナナかよ。

「それから、宮殿が超ゴージャスで……」

 ブースを見ると案の定エミリオがものすごい形相をしている。

「ローゼンちゃん気持ちはわかるけど時間なくなっちゃうよ」
「あ、すみません。それではみなみさん張り切ってお願いします」

 テンション高い人見ると逆に下がっちゃうんだよな。

「はいはい、それではブラッフォードさん、お悩みをどうぞ」
「ブラッフォード二世だ」

 細かいな。
 さすが権力者。

「はい、すいません二世さん。それで、今日はどうしたの?」
「じつは私は人前で喋るのが得意ではない」
「シャイボーイなんだ」
「ボーイとは失礼な、こう見えてもうすぐ30歳になる」

 声しか繋がってないから姿は見えないんだけどね。

「アラサーなんだね、で、人前に出るのが恥ずかしいの?」
「別に公衆の面前が苦手なわけではない」
「じゃあなんで?」
「厳密に言うと、自分では上手く喋っているつもりなのに、国民からは王の話は何言っているのかわからない、気持ちが伝わってこないと不評なのだ」

 権力者のスピーチあるあるだね。
 校長先生の話とか退屈で眠くなったもんな。

「まあ、でも王様のスピーチなんてそんなもんで良いんじゃない。誰も聞いてないし」
「それがそうもいかなくてな」

 おや、急に二世さんの声から覇気がなくなった。

「なんかあったの?」
「この度タルカスはクリムゾン共和国に宣戦布告することになった」
「おっと物騒だね……争いからは何も生まれないよ」
「私も出来れば戦争はしたくない。しかしクリムゾンは友好国のウマグマ帝国に攻め入った。ウマグマには祖父の代に大変お世話になっている。見捨てることは出来ん」
「仲間のためなのね」
「その宣戦布告の演説を明日国民にむけてせねばならぬのだ」

 二世さんは大きなため息を吐く。

「なるほど、そういうことならちゃんとした演説しないとね」
「こんな私に国民の士気を高めるスピーチは出来るのだろうか」
「大丈夫、ジョージ六世だって上手くやれたし」
「ジョージ六世?」
「異世界のイギリスっていう国の王様。彼は吃音だったけど、特訓して最高の宣戦布告スピーチを国民に届けた」
「そのイギリスとやらは戦争に勝ったのか?」
「勝ったよ」
「それは素晴らしい」
「二世さんだって熱い気持ちで語ればきっとみんなに届くよ」
「想いはあるのだが……しかしどうやったらちゃんと伝わるのだ? 今日はそこをみなみ殿に聞きたいのだ」

 みなみ殿って悪くない呼ばれ方。
 そうだな……まずはスピーチの基本からかな。

「そんな二世さんには、ハンバーガー話法がオススメかな」
「ハンバーガー?」

 そうかタルカスにはハンバーガーないのか。
 おいしいのに、もったいない。

「パンで肉を挟んで食べる料理のことなんだけど」
「なんだサンドイッチか」

 サンドイッチはあるのかよ。

「そう、そのサンドイッチで例えると、パンが【結論】で肉が【中身】。ハンバーガー話法では【結論】で【中身】を挟むの」
「挟むとは?」
「要はスピーチの構成を1【結論】2【中身】3【結論】の順番で3部構成する話し方のこと」

 なんか無性にハンバーガー食べたくなってきた。

「なるほど……いきなり結論から話すのか?」
「そう。聞いている人がこれから何の話を聞かされるのかすぐに分かるでしょう。そうすると心構えが出来て、自然と話を聞くモードになる効果があるの」
「そうか……なんで結論を二回も話すのだ?」
「人は話の最初と最後が一番記憶に残りやすいの。だから一番大事なことを最初と最後に二回話すと、相手の心にしっかりと伝わるってわけ」
「そうであったか! いやー良くできたやり方だ。さすがみなみ殿」

 もっと殿って呼んで。
 なんか癖になる。

「今回は宣戦布告のお知らせが目的だから、結論としてクリムゾンと戦争することを最初と最後にしっかりと話して」
「わかった。力強く国民に伝えよう」
「そして、その間に中身として二世さんが伝えたいことを話す。この構成にすれば話が分かりやすくなるはず」
「あい、わかった」

 構成は決まったけど、あとは中身だな。

「それで中身の部分は何を話すつもり?」
「そうだな、それぞれにお願いしたい役割と、今回の作戦内容、簡単なスケジュールについて話そうと思う」
「それだけ?」
「これで情報としては十分だと思うが」

 あー中身も問題山積みだな。

「ダメダメ、そんなんじゃ伝わらないよ」
「なぜだ?」
「二世さんのスピーチには致命的な欠陥があるの。なんだか知りたい?」

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