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時代遅れの人事考課制度

多くの企業、とりわけ大企業では、半年単位や一年単位で組織や個人の目標設定を行い、この目標を管理することを基本として人事考課を行っています。期初に組織内で、あるいは上司との話し合いで決めた目標に対して期の終わりに目標に対する達成度を振り返り、成果や能力をA、B、Cのような方式で評価するというしくみです。特に日本企業では、相対評価というやり方で、組織内の評価の分布を一定にするということが行われます。

これに対して、絶対評価といって組織内の他の人とは無関係に、その人の目標達成度を単独で評価する方法もありますが、この方法は欧米企業ではよく見られますが、日本企業ではほとんど採用されていないようです。これは、特に賞与(ボーナス)の目的が利益配分であり、総予算が決まっていてそれを公平に分配するという名目があるため、予算を決められない絶対評価の採用が出来ないことが理由なのですが、相対評価によって評価結果から個人個人の支給額を自動的に算出することができるという人事組織に都合がいいという裏事情があって、しくみ自体が組織の都合でできていると言えなくもない気がします。日本では学校での成績などでも相対評価を行うことが多いのですが、人事考課制度のひとつめの問題はこの相対評価にあると思っています。

組織間の人員の資質格差で、同じ分布での配分が不平等というのは、よく知られた問題点ですが、これも問題ではありますが、後述の問題と比べると小さな問題かもしれません。

競争軸が外に向かわずに内部に向かうこと、そして世の中の変化のスピードが上がっているということが、今の人事考課制度が時代遅れという背景です。

相対評価は、内部での競争を促進させますが、同時に外との競争がなおざりになってしまいます。人事考課は社内での出世競争の元になるものだからしかたがないと思うかもしれませんが、マネージャは口では競合に勝て!と激を飛ばしますが、社員の意識は知らず知らずのうちに内部競争に主軸が置かれてしまいます。この内部競争重視になりがちな人事制度が、今の変化の激しい時代、グローバルでの競争や協業が必要な時代には、大きな足かせになる、あるいはなりつつあることに日本企業も気が付くべきだと思います。企業が戦うべきは外の競合企業であり、人の質、つまり人材育成についても身近な競合企業だけでなく、グローバルで勝ち続けている強い企業と競争すべきなのです。

信賞必罰のような考えを社内で強化するような企業も見られます。横並びの部門間で、お互いの目標設定をストレッチなものにするようお互いにけん制させたり、結果の振り返り時点で、部門間の順位をつけて評価分布の平均点の奪い合いをさせるような事業部門の運営をするマネージャが出てきたりします。ソニーが一時、このような制度を行って組織の士気や、人材育成が滞ったという話を聞いたことがあります。

お互いを競わせることで、全体の成果を高めようとする考えなのですが、戦う場所が社内という非常に限られたところに狭められてしまい、外と戦うという意識が遠のいてしまうことに気付いてほしいと思っています。

何よりもっと切実な問題は、社内で足の引っ張り合いが起こってしまい、他部門の失敗を心の中で願ったりするような企業としてのマイナスの心理も働きます。つまり本来、力を合わせてともに戦うべき人たちが当面の敵になってしまうわけです。マクロな目で見ると愚策と言わざるを得ません。

今回、人事考課制度のことを書いているのは、実は欧米企業の間で、このような一年や半年単位の目標管理制度、人事評価制度をやめる動きが出てきているということを知ったからです。

Fortune500企業の10%程度が何らかの人事制度改革をやっているという報告もあります。

背景にあるのは、「変化のスピード」への対応です。

半年、あるいは一年というのは、今の時代には長すぎる、ということで、立てた目標自体が半年後には陳腐化していたり、変化に追いついていけてないようなことが頻繁に起こるため、臨機応変に目標を変えていくことが重要になっています。

期初に目標設定、期の終わりに振り返りというのでは時代に合わなくなっています。かといって、上司が部下ひとりひとりの目標を状況の変化に合わせて変えていくというのも無理があります。

今の多くの日本企業は、かつてのTQCの考え方に基づき、上位方針が各組織や個人にブレークダウンされていって、企業全体でひとつの方向に動いていくことを企業活動の基本にしています。

今の人事考課もこの考え方を遂行することと人事制度を同期させたものなのですが、トップ方針そのものが、半年や一年単位で行うことで「変化のスピード」についていけないとすると、実は経営そのもののやり方も変えていかなければならないのかもしれません。

企業経営も複雑さが増しています。特に大企業でひとりのカリスマ経営者がすべてを仕切っていくことが難しくなっています。企業単独で何かを成し遂げる時代から、事業単位、あるいはプロジェクト毎での外部とのコラボレーションが必須になってきています。状況に応じた方針転換も重要で、常に未来を見据えていなければなりません。

トップの方針と同様に、個々の組織や個人も、コラボレーションで会社を動かすという新しい考えと、小回りの効く方針転換で変化に対応するという考え方のもとで行動を変えていかなければなりません。

一年に一度のトップ方針をブレークダウンして、それで与えられた仕事を目標通りにこなす、という考え方から、変化を前提に、個人個人の裁量を広げて小さな単位で小回りを効かせ、周囲の人とのコラボレーション、社外の人とのコラボレーションを促進していくことで、成果達成や能力向上を図っていくこと、その中で新たな人事制度を考えていくことが必要なのかもしれません。

ピープルマネージメントということを言っている人もいます。つまり個人の裁量を広げ、その人の特質を生かした育成や仕事の配分をすることで、個を伸ばすことに力を注ぎ、その結果として企業活動としての成果が高まるような経営にすべきではないかということだと私は思います。自分で自主的に動ける人材が多いほど、企業は強くなるはずです。

多くの日本企業の旧来型のマネージャは、まだまだ組織としての仕事の進め方を主体と考え、方針を忠実に実行することを是としています。無意識のうちに企業内での競争が主体になるようなマネージメントを行っています。
マネージャ自身が、外との競争やコラボレーションというところへの変化についていけてないのかもしれません。

企業としての考え方は急には変えられないかもしれませんが、個を中心に、個々人の未来をマネージメントの重要要素として捉えていくことはすぐにできるはずです。“個”にスポットを当てた、組織の目標、個人の目標設定を促進し、変化への対応については、マネージャと部下とのコミュニケーションの頻度を上げて、任せる領域を少しずつ増やしていくことから始めることを考えていけたらと思っています。

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