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バイデン大統領のOne Nationという言葉に感じる空疎

バイデン大統領の就任式のスピーチは、抜粋をラジオで聞いただけで全体を通しては聞いていない。私が接した報道では”One Nation"という言葉が何度も繰り返されたということと、ガース・ブルックスがアメイジング・グレイスを歌ったというTBSラジオの深井慎一郎記者の報告が記憶に残った。

One Nationという言葉をキーワードとして繰り返すなら、ガース・ブルックスのアメイジング・グレイスよりも、盛大に演奏して欲しいと思う曲が私にはある。

Funkadelicの1979年の名曲"One Nation Under A Groove".

バイデン氏のスピーチと同じ街、ワシントンDCでの1979年の演奏が動画で残されている。

One Nation Under a Groove (Part 1)- D.C. 1979
https://youtu.be/LaczdU5U5cs

Funkadelicは70年代、当時大不況のアメリカの象徴だったデトロイトの労働者階級から全米の大スターに上り詰めた黒人グループ。そういう彼らが人気の頂点に立った時に発したメッセージが”One Nation Under A Grooveだった。

しかしその後のアメリカ政治は、彼らの願いOne Nationを裏切り続け、格差と分断が広がり深まり続けた。しかしトランプ以前のアメリカ政治は、グローバル化と多様性の包含を謡い続け、格差拡大と分断の深刻化は、特にアメリカの外からは、見えないまま時が進んでいった。そしてトランプが触媒となりその40年以上の現実が噴出・顕在化した。

そのトランプが去った時にバイデン大統領が発した言葉が、40年以上前に黒人たちが発した言葉とまさに同じ言葉だったのだ。しかしおそらくジョー・バイデンはその言葉が40年以上前に黒人たちによってワシントンDCで叫ばれていたことを知らないであろう。同じアメリカで、同じワシントンで、僅か40年前に全米的スターグループが発したメッセージを、彼は知らない。それはFunkadelicが黒人で、ジョー・バイデンの日常では耳に入ってこないからだ。何を隠そう、ワシントンDCはアメリカ50州と特別区1区のなかで、人種格差が最も酷い最下位なのだ。そのような無知を自覚もせずにOne Nationと繰り返す彼は、私にはやっぱり表層的なエリートのように感じられてしまう。

アメリカで最も人種統合が進んでいる州は? 最下位は意外な結果に……https://newsphere.jp/national/20190710-3/2/

One Nation Under A Grooveは決して過去の遺物ではなく、今もアメリカでは黒人たちのアンセムのように歌い継がれている。現代の若者たちによる僅か1年前の素晴らしいカバーもYoutubeにある。

Detroit: One Nation Under A Groove
https://youtu.be/_WtoZvK1kB4

バイデンはそんなことなど知らずにその言葉を繰り返し、分断と格差を広げたオバマの就任式と同じ曲を自らの就任式でもやった。それがオバマ政治に嫌悪感を抱きトランプを支持した人々、今回トランプに投票した7000万人の人々に対してどういうメッセージを持つのか、彼には考えも及ばないのだろう。そんな男に、本当のワン・ネイションの実現など期待できない、と溜息をついてしまう。

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