国家財政を考えてみよう その6 アベノミクスを振り返る③ 額でも率でも減り続ける歳出

前項で、一部のマスコミや野党が言う、アベノミクスは失敗だというのは、濡れ衣であり、目標に達していないものの、効果は出ている、ということを数字で確認しました。ではその結果を導くために何がなされたのか?この稿の主題は財政なので、財政に絞ってみてみます。

財政はアベノミクスの第2の矢として首相官邸ホームページで以下のように宣言されています。

「第2の矢 機動的な財政政策:政府支出でスタートダッシュ!約10兆円規模の経済対策予算によって、政府が自ら率先して需要を創出」

では第2の矢がどのくらい放たれているのか、ここでは決算の数字を見てみたいと思います。マスコミの財政議論は何故か予算ばかりが取りざたされますが、実際の財政の実績は言うまでもなく決算で見る必要があります。どんな予算を立てても、実行されて初めて意味を成すからです。また決算の実績は、経済対策などの補正予算の分も含まれます。

基礎的財政収支の計算の基準である一般会計歳出決算額から国債費を引いた額=一般歳出+地方交付税等交付金合計の推移を並べてみます。

   一般歳出+地方交付税等
     歳出済み決算額  前年比
2009   82兆5286億円     (民主党政権発足)
2010   75兆7684億円 91.5%
2011   81兆0777憶円  107.0%
2012   76兆0766憶円     93.8% (12月安倍政権発足)
2013   78兆8954憶円 103.7%(安倍政権1年目、実質前政権予算による支出)
2014   76兆6879憶円   97.2%(安倍政権最初の財政年度、消費増税)
2015   75兆7668億円  98.8%
2016   75兆4562億円     99.6%
2017   75兆5948憶円    100.2%
2018   76兆4461億円    101.3%

(出典)
平 成 25 年度決算の説明:財務省(16頁)
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/account/fy2013/kessan_25_01.pdf
平 成 30 年度決算の説明:財務省(15頁)
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/account/fy2018/kessan_30_01.pdf

あれれれれ?なんかおかしくないですか?

安倍政権は2012年12月発足のため、当該政権による予算実行は実質的に2014年度からです。その2014年度の歳出実績は、なんと野田政権による予算だった前年を下回っています。10兆円規模の財政出動と首相官邸ホームページで謳われているアベノミクス第2の矢は、実は全く実行されていません。安倍政権による財政の決算実績は、初年度に民主党政権より一段引き締め、その後は前年並みを継続しているだけなのです。これのいったいどこが「約10兆円規模の経済対策予算によって、政府が自ら率先して需要を創出」なのでしょうか?

さらにこれを対GDP比で見てみます。

   一般歳出+地方交付税等
   歳出済み決算額.     名目GDP.     歳出決算額/GDP比
2009      82兆5286億円.     489.5兆円.     16.9%
2010      75兆7684億円.     500.4兆円.     15.1%
2011.     81兆0777憶円.     491.4兆円.     16.5%
2012      76兆0766憶円.     495.0兆円.     15.3%
2013.     78兆8954憶円.     503.2兆円.     15.7%
2014.     76兆6879憶円      513.9兆円.     14.9%
2015.     75兆7668億円.     531.3兆円.     14.3%
2016.     75兆4562億円.     536.0兆円.     14.0%
2017.     75兆5948憶円.     545.1兆円.     13.8%
2018.     76兆4461億円.     549.0兆円.     13.9%

日本の名目GDP(自国通貨)の推移
https://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html

対GDP比で見ても、一般会計の決算実績は毎年縮小しています。

機動的な財政政策どころか、前年比で見ても、対GDP比で見ても、縮小・緊縮の傾向は明らかであり、アベノミクス第2の矢はまったく放たれていません。

アベノミクス第1の矢である金融政策は、低金利、量的緩和、イールドカーブコントロールとあの手この手を駆使しています。しかし、第2の矢である財政政策は、それこそが安倍政権の、行政の責任で実行することであるにもかかわらず、機動的な財政政策とは言葉だけで、実際には緊縮一辺倒の数字となっているのです。

その意味で、安倍首相は延々と嘘をつき続けてきていることになります。

アベノミクスの効果が、一定の効果を生みながら目標にとどかないままであるのは、黒田日銀が第1の矢である金融政策をしっかりやっているのに、安倍政権・行政が第2の矢を実行していないどころか第1の矢の足を引っ張るような緊縮財政を続けているからだと考えざるを得ません。どのような言葉を並べようとも、数字がはっきりとそれを示しています。

しつこいようですが、アベノミクスの効果が表れないのは、アベノミクスが失敗したのではなく、アベノミクスの第2の矢をまったくやっていないから、だということを確認して、本稿更につづく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?