【編集の話vol.5】編集者という生き物について。

【編集の話vol.1】で「編集者の仕事」について書きました。これは「出版社の編集者」についての説明だったので、狭義の編集者についてのお話でした。
今回はもう少し広げて、「編集者ってどういう人たちで、世の中的に見るとどんな価値があるのさ?」ということを考えてみたいと思います。

今から書くことは必ずしも編集者だけに当てはまることではありません。他の仕事でもこういう素質を持った人はいるが、多くの編集者にはこういう共通項があるのではないか・・・と私が感じていることです。
逆に言えば、編集者だけが持つ専門的な職能やスキルは特にないように思います。
(それが、編集者のイメージを捉えどころのないものにしているとも言えます)

編集者はいつも「人とテーマ」を探している

編集者とは、突き詰めればいつも「人とテーマ」を探している人たちです。

・誰が今このテーマを語れるのか
・この人が持っているテーマは何で、それをどんな人たちにぶつけると響きそうか

これらにいつもアンテナを張って、頭の中にストックしている。そして、最適なタイミングで求める人がいる場所へ投げ込んでいく。

それが編集者がしていることです。

編集者がパーティや各種の集まりにマメに顔を出したり、飲み歩いたりするのも、まさにこの「人とテーマ」を探していると言えます。

そして、この「人とテーマ」を探すのに必要な能力が、

・目利き力(見つける力)
・好奇心(面白がる力)

の2つです。だから、多動的で新しいことに反応してしまうのは編集者の性(さが)です。

また、その大前提の素質は「人が好き(人に興味がある)」だと思います。
さらに一歩進んで「人たらし(人に好かれる、気に入られる)」な人は、編集者には大いに向いています。

編集は人に動いてもらってなんぼの仕事なので(編集者とは「お願い侍」だと言っていた知人もいました)、周りの人が「あなたのためなら」と力を貸してくれる「人たらし」の性質は、編集者の最強の武器なのです。

人の名前があって、はじめて「アイデア」は「企画」になる

「人とテーマ」と言っているのは、テーマだけでは「企画」にならないからでもあります。

よく、私の会社では新人編集者はこう言われます。

「テーマだけ出しても企画を出したとは言わない。それを誰にお願いするのかもセットで出せ」

つまり、「今こんなテーマの本を出すといいと思う」だけではただのアイデアで、それを誰に書いてもらうかまで出さないと、当たり前ですが上司は是非を判断できないということです(その人が協力してくれると裏も取れていればなお良いと思います)。

出版だけでなく、テレビ番組などでも全く同じだと思います。
例えば、私はタレントさんたちが俳句でバトルする『プレバト!!』という番組が好きなのですが、「俳句×バラエティ」という意外な組み合わせを形にしていてすごいなと思います。
この企画は、まずは添削役の夏井いつき先生がいないと成り立たないですよね。タレントにもバンバンものが言えるキャラクターで、的確なコメントをパッとつけられるのもテレビ向き。この先生を探してきた(そして番組にレギュラー出演してもらえた)というのが企画の成功の第一歩です。他にも千原ジュニアさんら詠み手のタレントのラインナップ、MCの浜田雅功さんなど、重層的によく計算された番組だな、実現した熱量もすごいな、と思いながら見ています。

プレバトの話が長くなりましたが、言いたかったのは、人がセットになって、はじめてアイデアは企画になる、ということです。

テレビのプロデューサーも、セミナーやトークイベントの企画運営者も、「人とテーマ」をいつも探しているのは同じです。
それを出版物(やデジタルコンテンツ)の形でアウトプットしているのが編集者です。

編集者は人をつなぎ、出会いや化学反応を起こす

編集者は人とテーマを集めています。そしてそれを編集してコンテンツの形にして世の中に送り出します。

【編集の話vol.2】で書いたように、コンテンツとしてパッケージ化して流通させることで、全く知らない人(けれどそのコンテンツを必要としている人)の元に届き、新たな人と人、人とテーマの出会いを生みだし、そこから新しい活動や思考が化学反応のように生まれていく。

それがその人の人生を変えることもあるだろうし、そこまで行かなくても、仕事がうまく行ったり、人間関係が良くなったり、考えがクリアになったり、その人の次なる前向きな行動につながったりしたら、とても嬉しい。

『LIFE SHIFT』という本が話題になりましたが、あの本が出て「人生100年時代」と言われるようになりましたよね。『LIFE SHIFT』は個人の生き方の意識を変えただけでなく、社会が様々な仕組みをアップデートするきっかけを作った本、いわば社会を前進させた本だと思います。

そういうスケールの本を編集できるのはカッコいいと思うし、自分もいつか「あの本がきっかけになって潮目が変わったね」と言われるような本を作れたら、編集者冥利に尽きます。

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