【編集の話vol.7】雑誌とデザインの話。雑誌におけるアートディレクターの役割とは?

今回は雑誌のデザインについて。そして「アートディレクター」は何をする人なのかを(私なりの理解ですが)話します。

アートディレクターって、全ての雑誌にいるわけではないと思います。
デザイナーが誌面を組めば、雑誌自体はできるわけですから。
ということは、アートディレクターがいる雑誌は、「あえて」アートディレクターを立てているわけで、その辺りの意図など説明できるといいなと思います。

雑誌のデザイン活用 4段階

雑誌におけるデザインの活用を、次の4段階に分けられると仮定してみました。 一つひとつ説明していきます。

画像1

1.出版物として最低のライン

ここは、現場の編集者の努力で実現できる範囲です。

いきなり例え話になりますが、自分があるレストランに行ったと想像してください。

席に通されたはいいけれど、空調が効きすぎて寒いし、机がガタガタしていて落ち着かない。床の隅や棚にはよく見るとほこりがたまっていて、衛生面で不安。さらに運ばれてきた料理には皿にひびが入っていて・・・etc.

画像2

さすがにここまでひどいレストランはそうないと思いますが、こんなお店では、料理の味以前に、人をもてなすレストランとしてどうなの?大丈夫?と思いますよね。

当然、料理の味には集中できませんし、そもそもこんなお店で美味しい料理が出される確率は低そうです。

雑誌も同じようなことが言えると思うんです。

さあ読もうと思ってページを広げても、どういう順番で読めばいいのか迷うレイアウトだったり、誤植を見つけてしまったり、画像と説明の内容がなんだかちぐはぐ・・・みたいなことがあると、記事に集中できないし、そもそもこの雑誌イマイチそうだから読むのやめるわ、となります。

出版物として最低のラインというのは、つまり、雑誌という場に人(読者)を迎えるための最低限のおもてなしです。
ストレスなく読める状態を作りだすことです。

現場の編集者は、料理人(記事などのコンテンツを制作する人)でもあり、サーブする人(誌面の形にして届ける人)でもあります。
加えて、お店の清掃やメンテナンス(読みやすく、誤りのない誌面を作る)もする、レストランのスタッフのようなものです。

それをマネジメントしている店長のような存在が、編集長だと言えます。

2.魅力的に内容を伝えられる

ここは、現場の編集者とデザイナーが力を合わせると実現できるフェーズです。

どう各ページにメリハリをつけ、記事の内容に合わせて見せ方を変えていくか。ぱっと見で伝わる面白さをどう演出していくか。
一言で言うと、読み手に「見せ方を工夫しているなあ」と思わせ、ワクワクしてページをめくってもらうための努力です。

雑誌の誌面は、まず編集者がラフを書き、それをデザイナーが形にします。いいデザイナーは、ラフに対して気持ちよく打ち返してくれます。意図を汲んで予想以上のものに仕上げてくれたり、こういう見せ方はどう?と提案してくれたり。
時には、両者ぶつかって喧々諤々ということもありますが、それもまたこの仕事の面白さで。

編集者とデザイナー双方の「いいものを作ろう!」という気持ちが、読んでいて楽しい/わかりやすい/魅力的な誌面につながっていくのだと思います。

3.雑誌のトーン、ブランドが作れる   

ここからが、編集長とアートディレクターの関わってくる段階だと思います。
雑誌のトーンは、雑誌のフォーマットや使用フォント、文字の組み方など、デザインのルールの集積によって生まれます。
そのルールを設定するのがアートディレクターです。
アートディレクターは、編集長と打ち合わせし、こうした初期設定を詰めていきます。

先ほどのレストランの例えで言えば、お店のコンセプトを考え、空間のイメージや必要な要件を伝えるのが編集長で、アートディレクターはその要望に沿ってお店を設計し、内装やインテリアを決定していく・・・といったイメージです。

そして、それを現場の編集者とデザイナーが運用していく(毎月デザインルールにのっとった誌面を作っていく)ことで、そのトーンが雑誌に表現され、雑誌のイメージが読者の頭の中に作られていき、それが雑誌のブランドになっていきます。

その結果、雑誌にファンがつき、愛される雑誌になっていく。

もちろん、デザインだけではブランドは作れませんが、デザインは非常に大きな要素です。

4.広告出稿に結びつく

トーンやブランドの確立した雑誌は、広告出稿(企業に広告を出してもらうこと)もされやすくなります。

トーンがはっきりしているから、自社との相性が判断しやすい。
熱心な読者がおり、読み手の顔がわかるので、誰に届くのかが見えやすい。
ブランドがあるメディアなので、安心して広告を出せる。

場合によっては、企業の担当者がその雑誌のファンだということもあるかもしれません。

お金を出してもここに入れたいと思ってもらえるのは、メディアとして幸せなことだと思います。

ここまでの話をまとめると、こんな感じになります。

画像3

※この図は広告出稿を一番上に置きましたが、広告を獲得することが最上位事項ということではなく、雑誌が読者から支持された結果として広告出稿があると考えているので、こういう順番になりました。

アートディレクターはデザインの側面から雑誌の商品価値を高めてくれる人

アートディレクターはデザインの側面から、雑誌の商品価値を高める役割を担っています。

冒頭で、アートディレクターを置かない雑誌もあると書きました。最初のデザインフォーマットさえできれば、編集者とデザイナーだけで毎月の制作を回していくことは確かにできます。

しかし、アートディレクターがいることで、時間が経ってデザインが古くなってきたらアップデートしたり、使いづらいところは改善するなど、メンテナンスを重ねて、雑誌のデザインの魅力を保ち続けることができます。

雑誌の編集部でも、時代に合わせて連載や雑誌のコンセプトそのものを見直していくと思いますが、デザインの専門家として、編集部と併走してデザイン面からの支援を行ってくれるのがアートディレクターです。

アートディレクターを起用する雑誌は、その役割とデザインの活用の仕方をよくわかっているということだと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?