【編集の話vol.4】私の考える、「いい取材」

一つの結論に一緒にたどりつけた感覚があるか

「いい取材」とは何か。
編集者の数だけ答えがありそうなテーマですが、一言で言うと、「相手が(その取材のために)たくさん考えてくれた取材」だと私は思っています。

というのも、取材慣れした人の場合、誰が来ても、話す内容がある程度決まっていることが多いです。ということは、取材でしっかり話を聞けたと思っても、その話は既にいろんな場所に載っている可能性があります。

その話を載せてもメディアとして価値が出ないし、取材対象者にとっても「いつもの話を聞いていった、ワンオブゼムのインタビュワー」になるので、さして聞き手が記憶に残ることもないでしょう。

私は、それでは仕事をしたことにならないなあ、と思います。

できれば、「こんなこと、今日初めて考えたよ」と最後に言われる取材がしたい。
聞き手と話し手が一緒に新しい場所にたどり着けた感覚のある取材は、いい取材だと思います。

それは、そのインタビュアーだから聞き出せた話だということでもあります。

「こんな話、これまでにしたことないよ」
「つい、しゃべらされちゃった」
「あなたの質問に答えていくうちに、頭の中がすごく整理されたよ」

などの言葉が聞けると、よし、と思います。自分ならではの仕事ができたと感じるからです。

私の失敗談:ある週刊誌編集長への取材

そう考えるようになったのには、きっかけがあります。

入社3、4年目の頃の話です。

ある週刊誌の編集長の方に取材に行ったんですが、私のもたもたして要領を得ない取材でイラッとさせてしまい、こう言われたんです。

「見出しを言ってよ。それに沿ってしゃべるからさ!」

この言葉、二重にショックでした。

1つめは、単純に取材相手を怒らせてしまったこと。
2つめは、あ、この人たちそうやって本を作っているんだ・・・というカルチャーショック。

いま考えると、見出しは切り口ですから、何も考えずに行くな(しかも編集長相手に)という感じもありますが、考えた見出しに合わせてコメント取ってきて、それで本を作るんでいいの?という違和感は自分の中に残りました。

テレビのコメントなども、実際そうらしいですが・・・。
以前、ある分野の専門ジャーナリストとしてテレビでコメンテーターをしていた方に、飲み会でこんな話を聞いたことがあります。
「何にでもコメントできてすごいねと僕よく言われるんだけど、何もすごくないんですよ。だって、僕はカメラが回る前に『どんなコメントが欲しいの?』と聞いてその通りにしゃべっているんだもの」

週刊誌やテレビは制作時間が短いので、そうやって素材を作っていかないと間に合わない事情もあると思います。

ただ、私は、事前に切り口は想定しても(某編集長のおかげで、そのクセはつきました)、その通りのコメントが取れて取材が終わってしまったら、表層的な取材で終わってしまったな、とか、自分の欲しい話に誘導しすぎていなかっただろうか・・・とモヤモヤしてしまいます。

何より自分がつまらないですし。
事前の想定は、いい感じに塗り替えられて欲しいと願っています。

「しゃべらされちゃった」と相手に言わせるには?

たまに取材でこう言ってもらえることがあります。テクニックというほどではないですが、いくつか心がけていることはあります。

1つは(基本的なことですが)、事前の想定質問とは別の質問を用意しておくこと。

通常、取材を依頼するには相手に依頼状(企画書)を送ります。その中には想定質問も入っています。
取材許可が下りれば、その企画書を持って当日取材に行くわけですが、その想定質問通りに取材を進めるわけではありません。

想定質問は、取材を受けてもらうことを目的に作るものです。だから、ある意味順当というか、「これなら答えられるかな、変なこと聞かれるわけじゃなさそうだから、取材を受けても問題ないかな」と思ってもらえるように書きます。

取材の場では、想定質問の内容は抑えた上で、もっと突っ込んだ質問や、相手の不意を衝くような質問、みんなが気になっているが聞きづらい疑問などをぶつけてみます。

一通り話し終わって、安心している時にそういう質問を出すのが効果的です。
写真を撮影する時も、カメラでバシャバシャ撮って、「はいもういいですよー」の後にもう1回シャッターを切るといい笑顔が撮れている、みたいなことがありますよね?あんな感じです。

みんなが気になっているが聞きづらい疑問、は「書くかどうかは別にして、せっかくこういう機会をいただいたので、聞いてみてもいいですか?」などと前置きしてから聞くと、あまり感じ悪くならないと思います。

たまに、手元にびっしり想定質問への答えを書き込んだ紙を用意して、「1つ目の質問の答えですが・・・」と読み上げていく方もいます。そういう時は、その答えを1回話しきっていただいてから、後半で追加の質問をさせてもらいます。後半の方が、たいてい話が生き生きするので、その時間を作るのが大事です。用意された答えをそのまま聞いて帰るなら、書面取材と変わりません。

「あなたの話、とっても面白い!」とサインを送る

「しゃべらされちゃった」と言わせる2つめの方法。それは、やや精神論っぽく聞こえるかもしれませんが、気持ちよく話してもらうことです。

そのために一番大切なことは、「あなたのお話、面白いですよ!(もっと聞かせて!)」という態度で話を聞くこと。

取材慣れしていない人、話すのが得意でない自覚のある人ほど、取材では不安です。
「こういう話でいいのかな?」「これで記事にちゃんとなるんだろうか?」

そういう人に対しては大げさなくらいに、「わあ、その話面白い!」という感じで聞くと、安心して話してもらえます。
もう少し言うと、そういう態度で聞いていると、面白い話が出てくる・・・ということがあるように思います。

もう少し細かく話をすると、この部分の話はもっとしてもらいたいと思ったら、大げさに反応する。
「その話、もっと聞きたいです!」「そこ、もうちょっと詳しく教えてもらっていいですか?」
などの言葉を使いながら、次をうながして話してもらいます。

大御所と呼ばれるような方、取材をよく受けている方、経営者の取材では、事前の下調べが先方からの信頼感や安心感につながります。
「○年頃こういうお仕事をなさってましたよね」
 「別のインタビューではこう答えてましたよね」
「著書ではこう書かれてましたが・・・」
など挟みながら話を聞くと「このインタビュワーは、ある程度俺のことを理解して来ているな」と思ってもらえます。

付箋をたくさん貼ってある著書を机の上に出しておく、などもいいですね。

著書が出たばかりの方には、取材の場で本の感想をお伝えすると、喜ばれて話が弾むので、感想をたくさん話せるようにしておくよう心がけています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?