見出し画像

不妊治療しているけど妊娠するなんてありえないと思っている、思っていたのに

「妊娠していますね、おめでとうございます」

その言葉を聞いたわたしは拍子抜けしていた。医師の話が耳を滑っていく感覚で、「え? 本当ですか?」を繰り返してみても、どうやら数値はそう物語っているらしい。しかもそこそこ良好な数値らしい。

待合室に戻ってパソコンを開いて仕事をしてみたけどどこか上の空で、モニターでの呼び出しに気づかなかったわたしは直接看護師に呼ばれて予定日などの説明を受ける。それでもどうも自分ごととは思えなかった。え? 本当に?

「まだ全然体調にも現れないので、実感ないですよね」

看護師はそうやさしく言ってくれた。それに頷きながら、わたしは4回目の移植の判定日のときに隣の診察室から聞こえた、あの心拍を確認して泣いていた患者の声を思い出していた。わたしはきっとまだあんなふうに喜べない。そしてまだ数字の話だから、いくらでも「今回は残念ながら……」という結末も想像できる。それにそもそも子どものいる未来が全然想像できない。してこなかったし。

ぼんやりした頭で今後の仕事のスケジュールを考えたり、会社の誰にいつ言ったらいいんだろうと思いを馳せたり、でもそれさえ無駄になりうるとも考えたり。

それでも母になってしまう恐怖みたいなものはまだなくて、それは出産には至らないんだろうなあという気持ちが根底にあるゆえな気がしている。なぜならこれまでの移植周期と変わったことはしていなくて、強いて言えば仕事の都合でてっぺん前に寝る日が増えたくらいで、指定されているサプリメントも面倒で飲んでいない。これで妊娠に至るなんて、ないないない。わたしにあるわけがない。だから怖くない。

それでもひとまず葉酸だけは摂るようにと看護師に強く言われたので、「あるあるだな〜」と思いながらエレビットを注文した。これまで案内をもらうたびに「まあ、わたしは子どもきっと産まないだろうしな」と思ってきたエレビット。まさかすぎる。

どうしよう、母になってしまうかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?