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短編

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短編小説置き場
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#ファンタジー

『晴天の街』

『晴天の街』

 かっぱの肉を出す店があった。真偽はわからない。
 名無し少年は、この店がきらいだった。
 名無し少年は街の隅にあった小さな池が埋め立てられ、この店が出来上がった時のことを、よく覚えていた。真っ白い外壁、適度に磨かれた窓、手入れの行き届いた花壇、真っ赤に乗っかかる三角屋根も。幼かった少年の目には、可笑しいくらいに焼き付いていた。
 名無し少年はこの年、春から街を歩いていた。他の少年たちも同じように

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『かっぱぼうずとキュウタの話』

『かっぱぼうずとキュウタの話』

 かっぱぼうずはそうっと、ちいさいぼうやの腕をつかみました。そうしてさっと、引き寄せました。かすかな水しぶきとともに、ぼうやは小池に落ちました。
 かっぱぼうずは、舌なめずりをしました。
「むむう。むむう。」声をあげ、小池のまん中を目指します。ひさしく味わうよろこびが、胸のそこで渦巻いています。
 ちいさいぼうやは、かっぱぼうずに手を引かれ、はじめての景色を泳ぎました。おかしな色の景色でした。みな

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