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【連載エッセー第18回】飲食店と疎遠になる

 丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)
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 肉を食べない、牛乳や卵も口にしない、魚も基本的には避ける…となると、入れる飲食店は激減する。

 牛丼店やカツ丼店、焼肉店や焼鳥店が論外なのはもちろん、ラーメン屋もほとんどが対象外になる(まれにビーガンラーメンの店がある)。カレーの店、ピザの店も、なかなか厳しい。中華料理は、肉か魚介類が入っているものが多く、卵もよく使われている。インド料理の店は、ベジタリアンメニューが用意されているところもあるけれど、チキンカレーにタンドリーチキンとバターナンが付くようなところが多い。

マイ箸は置き忘れに注意(経験あり)

 喫茶店に入ることはできても、ケーキやプリンやドーナツを頼むことにはならない(コーヒーだけなら、家で飲もうかな…)。お酒を飲む店に入って野菜料理を選ぼうと思っても、最初の突き出しに肉や魚が混ざっていることがある。

 原則として野菜や穀物しか食べないことにしていると、外で食事をしたいときには不便を感じる。あそこもダメ、ここもダメ、となる。

 お昼に天丼を出している店に行くと、「季節の野菜天丼」でさえ、真ん中にはエビの胴体が横たわっていたりする。養殖のエビは環境への悪影響で名高いし、天然のエビに関しては混獲の被害が深刻だという話もある。そして、養殖にせよ天然にせよ、エビが殺されている。エビは食べないようにしたい。

 仕方がないので、「野菜天丼をエビ抜きでお願いできますか?」と頼んだりする。エビの天ぷらが「売り」という店もあるようなので、ちょっと気が引ける。とはいえ、お願いすれば、ちょっと不審な顔をされたりはしつつも、「エビ抜き」を作ってもらえる(そのぶん値引きしてもらえるとは限らない)。「この人、甲殻類アレルギーなのかな?」と思われているかもしれない。

 肉や魚を使わないという点で安心感があるのは精進料理だけれど、お店で食べる精進料理は高級すぎる。普段の昼食にはならない。そば屋さんには肉や魚が目立たないメニューが手頃な価格であるものの、だしには魚が使われていそうだ(しかも、店によっては、だし巻き卵がもれなく付いていたりする)。

 野菜料理の店なら安心できるかと言うと、そう単純でもない。どういう野菜を使っているのか、わかる店は少ない。殺虫剤や除草剤を大量に投入して作られた野菜かもしれないし、暖房の効いたビニールハウスで作られた野菜かもしれない。そういう野菜は、環境にも動物にも、けっこうな害を及ぼしていそうだ。

おしぼりを持っていくこともある

 面倒なヤツだなあ、そんなにゴチャゴチャ言うなら店に行かなきゃいいでしょ、と思う人もいるだろう。もっともな意見だ。私もそう思う。家で食べればいい、というのが正解のような気がする。だから、飲食店に入ることは少なくなった。

 そして、実は家で食べる米と野菜が一番おいしいのでは、と感じることが多くなった。お酒も似たようなもので、有機栽培米で作られた地元の日本酒を家で飲んだほうが、家計にもやさしい。

 ただ、日常の生活から少し離れ、一人きり店で呑む時間も、なんだか捨てがたいと思っていたりする。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

#里山 #里山暮らし #山里