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当事者は、本当は何を求めていたのか LGBT法連合会『SOGIをめぐる法整備はいま』(2)

 LGBT法連合会編『SOGIをめぐる法整備はいま LGBTQが直面する法的な現状と課題』の刊行にあたって、編集を担当したフリー編集者・八木絹さん(戸倉書院)に出版の経緯を書いていただきました。今回は、八木さん執筆の第2回目です。
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「ただ差別をやめてほしいだけ」

 「LGBT理解増進法」を成立させた国会の動きには前史があります。本書は、LGBT法連合会編による、かもがわ出版では3作目になる本ですが、前2作はその前史をたどったものといえます。

 LGBTQ当事者は、「特別扱いはいらない。ただ差別をやめてほしいだけ」との思いで、差別禁止法の制定を求めて長年運動してきました。当事者団体がバラバラに存在するだけでは法律をつくることは難しく、連帯が必要だとの思いから、当事者団体の連合体「LGBT法連合会」が結成されたのは2015年でした。私は同会ができるとすぐに神谷悠一事務局長を訪ね、「当事者が求める『LGBT差別禁止法』とはどういうものかが分かる本を出しましょう」とオファーしました。第1作の『「LGBT」差別禁止の法制度って何だろう?』が翌年6月に刊行されました。東京都渋谷区や世田谷区で同性カップルへのパートナーシップ制度が始まったころで、その経過も掲載しました。第2作『日本と世界のLGBTの現状と課題』(2019年)は、大学の現場でどのような取り組みがなされているかを中心につくりました。

LGBT法連合会『日本と世界のLGBTの現状と課題』

力を合わせて何をしていったらよいか

 当事者が求める「LGBT差別禁止法」を実現するための母体として、超党派の国会議員による「LGBTに関する課題を考える議員連盟」(略称LGBT議連、会長は自民党議員)もでき、運動が進んできました。東京オリンピックは、LGBTQ差別禁止の法整備への流れの中で、関連資材の調達ルールをつくったり(LGBTQ差別をする企業からは調達しない)、当事者の居場所をつくったりという実践の場として企画され、世界に発信するイベントとなるはずでした。

 自民党を含むLGBT議連を中心に法整備の動きが具体化し、2021年「LGBT理解増進法」の国会上程が目指されました。これは今回成立した法律と同じ名前ですが、当事者も「辛うじて評価のできる内容」にすり合わせたものでした。しかし、宗教右派や保守的政治勢力の猛烈な阻止運動により、同年、国会への上程は見送られたのです。

 事態が大きく動いたのは、2023年2月3日、岸田首相の秘書官が、性的マイノリティや同性婚に関連して「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と発言し、同性カップルの権利保障をめぐって「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」と発言したことがきっかけでした。これはG7議長国として世界のトップに立ちたい岸田政権にとっては痛手で、秘書官は更迭され、5月のG7に向け、LGBTQ差別がはびこる日本の現状を何とか取り繕おうとして提案されたのが、今回の「理解増進法」です。それからの岸田政権の動きは早く、G7から1カ月もかからないで可決・成立したのです。

 本書は、2022年11月に開催されたシンポジウム「法整備とSOGI」がベースとなり、なぜ差別禁止法を求めるのか、なぜ「LGBT理解増進法」の国会上程が2021年に見送られたのか、法整備を妨げる動きはどんなものかを分かりやすくまとめたものです。また、大学など教育分野でのガイドライン作成の取り組み、宗教界ではセクシュアル・マイノリティの問題がどう扱われているかなど、多角的に分析しています。

LGBT法連合会『SOGIをめぐる法整備はいま』

 今回の法案の採決で退席した山東昭子議員(自民党)は、テレビのインタビューに答えて「トランスジェンダーのなりすましによる女性トイレでの性暴力事件が起きた」などと語っていましたが、こうしたトランスジェンダー・バッシングも、アメリカを起点にして日本でも激しく起こっています。本書では、そうした言説もバシッと批判しています。本書の全体をお読みいただけば、今の事態がなぜ起こっているか、理解していただけるはずです。

【目次から】
G7サミットに向けた法整備議論(神谷悠一)/日本学術会議提言(三成美保)/結婚の自由をすべての人に(中川重徳)/LGBT法連合会の活動と法整備の課題(原ミナ汰)/教育とSOGII(三成美保)/一橋大学アウティング事件(本田恒平、太田美幸)/女子大学におけるトランスジェンダー女性の出願資格(小山聡子)/筑波大学のガイドライン(河野禎之)/LGBTQ報道ガイドライン(藤沢美由紀、奥野斐)/トランスジェンダー・バッシング――子ども・若者支援の現場から(遠藤まめた)、女性差別に怒っている者として(太田啓子)、ジェンダーに基づく暴力(北仲千里)/国際疾病分類第11版の理解(中塚幹也)/キリスト教の立場から(堀江有里)、仏教界(戸松義晴)、旧統一教会(斉藤正美)、埼玉県の条例(鈴木翔子)、宗教右派と政治のつながり(松岡宗嗣)

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