当事者は、本当は何を求めていたのか LGBT法連合会『SOGIをめぐる法整備はいま』(もくじあり)(1)
LGBT法連合会編『SOGIをめぐる法整備はいま LGBTQが直面する法的な現状と課題』の刊行にあたって、編集を担当したフリー編集者・八木絹さん(戸倉書院)に出版の経緯を書いていただきました。本書は、7月19日に一般書店で発売予定です。
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「LGBT理解増進法」が成立
6月16日、「LGBT理解増進法」が参議院本会議で可決・成立しました。法案審議がされている間、国会周辺ではLGBTQ当事者やアライ(支援者)が連日抗議の集会を開いてきました。同法は、与党(自民・公明)の案に日本維新の会などの主張を盛り込んだものです。当初の案にあった「差別は許されない」との文言が、「不当な差別はあってはならない」と改変され、「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」「全ての国民が安心して生活することができるよう留意する」といった文言が入れられ、LGBTQ当事者をまるで犯罪者のように扱うものです。
これに対して、本書『SOGI(*)をめぐる法整備はいま――LGBTQ(*)が直面する法的な現状と課題』の編者であるLGBT法連合会は、ただちに「私たちが求めてきた差別禁止法とは大きく異なり、懸念を表明しなければならないものであることは極めて残念である」との声明を出しました。さらに「今後の地方自治体や教育現場の取り組みに対し、実質的な萎縮効果をもたらすことが懸念される。一部の勢力によって、さまざまな取り組みが『安心できないもの』であるとされ、停滞させられることのないよう、今後の基本計画や指針の策定経過はもとより、地方自治体や教育現場への、学術的に裏打ちされ、統計的な根拠を持った働きかけを強めなくてはならない」としています(声明全文を本書巻末に所収)。
【声明】性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案の成立についての声明(LGBT法連合会)
一方で、自民党支持者の中でも右派はこの内容にも同意できず、同党には反対のメールや電話が殺到したといいます。国会での採決では退席する議員が出ました。結果、右派からも当事者からも批判される奇妙な法律が成立したことになります。
本書の編集作業は、国会での動きと同時並行で進んでいて、採決の直前にいったんは校了しましたが、法の成立を受けて急遽内容をアップデートし、なぜこのような法律が成立するに至ったのかが分かるようにしました。結果として、法成立までのドキュメンタリー的な本となりました。国会の様子を見ていても「よく分からない」と思っている方、ぜひ読んでみてください。(つづく)
*SOGI:Sexual Orientation/Gender Identity 性的指向/性自認。性的指向は、恋愛や性的関心がどの対象の性別に向くか向かないかを示す概念。性自認は自分の性別をどのように認識しているかを示す概念。
*LGBTQ: Lesbian (レズビアン)、Gay (ゲイ)、Bisexual (バイセクシュアル)、Transgender (トランスジェンダー)の頭文字をとった言葉。広く性的マイノリティの人たちを表す言葉として用いられることがある。L・G・B・T以外にもQuestioning(クエスチョニング)やQueer(クィア)、他にもさまざまな性のあり方を含み「LGBTQ」や「LGBTQ+」という言葉が使われることもある。
*初出は、多摩住民自治研究所『緑の風』(2023年7月号)
【目次から】
G7サミットに向けた法整備議論(神谷悠一)/日本学術会議提言(三成美保)/結婚の自由をすべての人に(中川重徳)/LGBT法連合会の活動と法整備の課題(原ミナ汰)/教育とSOGII(三成美保)/一橋大学アウティング事件(本田恒平、太田美幸)/女子大学におけるトランスジェンダー女性の出願資格(小山聡子)/筑波大学のガイドライン(河野禎之)/LGBTQ報道ガイドライン(藤沢美由紀、奥野斐)/トランスジェンダー・バッシング――子ども・若者支援の現場から(遠藤まめた)、女性差別に怒っている者として(太田啓子)、ジェンダーに基づく暴力(北仲千里)/国際疾病分類第11版の理解(中塚幹也)/キリスト教の立場から(堀江有里)、仏教界(戸松義晴)、旧統一教会(斉藤正美)、埼玉県の条例(鈴木翔子)、宗教右派と政治のつながり(松岡宗嗣)