見出し画像

PCIT日本導入への道のり  

 かもママにPCITの存在を教えて下さったのは子どものトラウマと解離症状の研究で有名なフランク・パトナム先生です。2004年に日本トラウマティックストレス学会の基調講演で来日したパトナム先生に、私は学会の懇親会で隣り合わせの席に座る機会に恵まれました。大先生の前で緊張したわけですが、ちょっとお酒も入って気が大きくなったところで、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害を受けた親子への治療はどうしたらいいんでしょう、と思い切って聞いてみたのですが、それがすべてのスタートになりました。

 当時、私はドメスティック・バイオレンス(DV)被害女性のメンタルヘルスの治療に積極的に取り組んでいました。お母さんの方は時間がかかるけれども少しずつ改善する。でも、治療を開始して数か月すると、ほとんど必ず「実は子どもが…」と相談されることが続き、やがて親子ともども具合が悪くなってしまう。とても対処に困っていました。今考えると当然の流れですが、成人中心の患者さんを診る私は子どもの診断と治療にまだ慣れていなかったし、親子を合わせて診るクリニックや施設も本当に少なくて、困惑し、行き詰っていました。
 
 パトナム先生はニコッと笑って「それなら、いい治療があるよ。PCITといって、シンシナティでも取り組み始めたところだから、一回来てみない?」。これはもう行かない手はありません。

 そこからはとてもスムーズにいろいろなことが進みました。今でもパトナム先生のあの時の満面の笑顔を忘れることが出来ません。
  
 翌年の2005年、数人でチームを組んで渡米し、シンシナティこども病院トラウマ治療トレーニングセンター(TTTC)で始めてPCITのイニシャルワークショップを初受講!その後、プロトコル等翻訳やチーム作り、研究費の調達に数年を費やしました。
 そして2008年、ついにTTTCメンバーに来日してもらい、日本で初の初心者ワークショップを開催しました。その後、TTTCの指導で国内でPCITの実施を開始。2年に渡って教えていただく中、TTTCメンバーのエリカ・メッサー先生に、もしがっちり取り組むのであれば、PCITのクリエイターであるセーラ・アイバーグ先生の指導を受けてみたらどうか、と強く勧めていただきました。折しもアメリカでは、アイバーグ先生を中心にPCIT Internationalが結成される動きが活発化していました。

 そこで、早速アイバーグ先生に連絡を取り、初心者ワークショップへの参加の許可をいただき、2010 年、ついにフロリダ大学でアイバーグ先生から直にPCITをもう一度1から教えていただくことが出来ました。アイバーグ先生とそのチームはとても丁寧に、ゆっくりと、しかし手を抜くことなく私たちにPCITを教えてくださいました。

 気が早いのですが、2011年には、日本のメンバーでPCIT-Japanを設立してしまいました。東日本大震災のとき、PCIT Internationalでトラウマを専門とするトレーナーの人たちから、災害後の親子支援に関するたくさんの資料やストラテジーをいただいたので、その受け皿と実践の場が必要となったためです。

 震災の影響がまだ続く2012年でしたが、日本のPCITの発展のためにアイバーグ先生と愛弟子のオーバーン大学心理学科教授エリザベス・ブレスタンーナイト先生が来日してくださいました。そしてアイバーグ先生版の国内第1回PCITイニシャルワークショップを12人の日本人ルーキーが受講。2008年、2009年受講チームもIWSに参加し、PCIT熱は一気に高まりました。PCITをしっかり学んで国際的な手順でPCITを実施するセラピストをPCITer(ピーシーアイター)と呼びます。
 その後、アイバーグ先生とエリザベス先生はとても精力的に日本に来て私たちに教えてくださいました。2013年5月第1回IWSを受講したルーキーを中心にアドバンスト WS、12月に第2回IWS、2014  第2回アドバンストWS。並行して、私もみっちりとケース指導を受けました。

 その甲斐あって、2015年、かもママはPCIT International認定のグローバルトレーナーの資格をいただきました! このトレーナー資格は世界中どこに行ってもPCITを教えることが出来る、大変名誉な、かつ実践的な資格です。
この資格をか私がいただいたことで、日本では日本語でPCITの研修が受けられることになりました。かもママと一緒に研修を受けた伊東史ヱ先生(駒木野病院)もこの時地域トレーナー(リージョナルトレーナー)資格をいただいており、幸いなことに今も協力してワークショップを開催しています。

 こんな風にして、PCITは日本に入ってきました。自分にとっては最初はトラウマを抱える親子が中心的な課題でしたが、今は神経発達症の子どものいる家族、里親子、場面緘黙のある子ども、その他、特に診断はついていなくても子どもの問題行動や親の育児困難がある家族など対応の幅が広がってきています。

 パトナム先生との出会いから来年で20年になりますが、2023年現在、なんと500人以上が日本でPCITのIWSを受講してくださり、およそ120人の専門家がPCITセラピストやトレーナーとしてPCIT Internationalから認定を受け、日本中で活躍するようになりました。児童相談所や療育センターへの普及も少しずつ進んでいます。PCITの底力を感じます。これからも頑張っていくので応援お願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?