【アーティスト紹介】Lous and The Yakuza
せっかくNoteを始めたし最近気になるアーティストなんかも紹介してみたいなーと思っていたので、書いてみることにしました!
というわけで、第一弾はLous and The Yakuza(ルス・アンド・ザ・ヤクザ)です。
なお、Lous and The Yakuzaについては、Rさんという方が早くから記事を出されているので、ぜひ読んでみてください。リンクはこちらから。
まずはこちらの動画をどうぞ。
第一弾にLous and The Yakuzaを選んだのは、やはりNPRの人気番組Tiny Desk Concertで見たこの動画があまりにカッコよくて衝撃だったからです。こんなに存在感のある人がいたのかと。
ちなみに動画の撮影場所はBook Bar in the Hôtel Grand Amour in Parisというところらしいです。
Lous and The Yakuzaとは
ボーカルのLous(ルス、本名マリー=ピエラ・カコマMarie-Pierra Kakoma)は、1996年コンゴ民主共和国(当時はザイール)生まれ、現在はベルギーを拠点に活動しています。
芸名のLousはSoulのアナグラムから、The Yakuzaはそのまま日本語のヤクザから取っていて、バンドメンバーと裏方、両方を合わせたチームとのことです。
ちなみにルスは2020年のパリコレではChloéのモデルをやっていたとか。ファッションも最高に個性的かつクールです。
ルスは幼少期からクラシック音楽好きだった父の影響で、モーツァルト、ショパン、ヴィヴァルディ、ベートーヴェンなどを聴いて育ち、9歳になる頃にはすでに自身で作曲を始めており、ベルギーに移住した15歳の時にはコロンビアレコードに作品を送っていたそうです。
『Dilemme 』
2019年9月、ファーストシングル『ジレンマ(Dilemme) 』を発表。この曲は Spotifyで1000万回以上再生され、その年のレッドブル・エレクトロペディア・アワードの新人部門で銀賞を受賞します。この曲、YouTubeでは現在890万回以上再生されていますね。すぐに1000万回行くのではないでしょうか。
歌詞を一部だけ訳しますと、
といった感じになります。
心地よいグルーヴからは予想外の歌詞ではないでしょうか?
作品を必要以上にアーティストの実人生に結びつけるのは個人的にはあまり好まないのですが、彼女の作品に関してはその出自や彼女が辿ってきた経験が切り離せないように思います。
ちなみに冒頭の「Au plus」は通常のフランス語の辞書では「せいぜい」という訳で載っていますが、ベルジシズム(belgicisme)、つまりベルギー特有のフランス語の用法では「Plus〜, Plus〜(〜すればするほど、〜する」と同じ意味になります。フランスのフランス語ではなくベルギーのフランス語の歌詞ならではの面白さもありますね。
『Solo』
さらに、『ソロ(Solo)』を聴いてみましょう。
この曲では特にアフリカ出身の黒人という彼女のルーツが大きな影を落としていることが分かるかと思います。
たとえば、「独立の6ー0年」。60年というのはそれまで植民地としてヨーロッパ列強に支配されていたアフリカ諸国が次々と独立を果たしたことから「アフリカの年」と呼ばれています。Lousの生まれ故郷であるコンゴ共和国もこの年、当時苛烈な人種差別がまかり通っていた旧宗主国ベルギーの支配下から独立を果たしています。(もっともその後もかなりの動乱が続くわけですが、そのへんはコンゴ動乱で検索してみてください)
あるいは「黒はなんで虹の色じゃないの?」という歌詞もまた、人種差別や、肌の色への偏見を反映したものだと考えられます。
「父なる神以外のだれに助けを求めろっていうの?」という歌詞は、コンゴ共和国においてキリスト教が主要な宗教となっていることの反映であると同時に、当時のベルギー政府による支配においてキリスト教の伝道活動が大きな地位を占めていたことを彷彿とさせるものでもあります。
Lousの両親は医者で、父親はコンゴ人、母親はルワンダ人だったそうです。
そして、1998年第二次コンゴ戦争の際に、ルワンダ人であることを理由に母親が投獄されるという事件がおきます。解放後、母はルスの姉妹の一人を連れてベルギーに亡命、Lousと残りの兄弟は2000年に合流するものの、父はコンゴに残ることになります。その後家族は2005年ルワンダに移住することになり、2011年にブリュッセルに完全移住ことに。
この出来事を見るだけでも、人種や出自、民族、歴史といったものが彼女の人生に落とした影がどれほどのものだったか、想像せずにはいられません。
なお、フランス語なら本来、「死ぬまで戦う(Se battre jusqu'à la mort)」となるところを韻を合わせる関係もあってスペイン語で「la muerte」を使っていますね。
『Dans la Hess』
続いては『ダン・ラ・ヘス(Dans la Hess)』です。
「Hess」とはスラングで「困難な状況」を指す言葉です。ちなみにアラビア語由来のなのでフランス語でもHを発音するようですね。
Lousは前述のように生後すぐに困難に見舞われるわけですが、ベルギー・ブリュッセルに移住した後も、18〜19歳で家を出ることになります。その後は、いろいろな仕事を転々としながら制作を続け、3年で50曲以上を制作したものの、部屋兼仕事場のワンルームを見つけるまでは路上で寝泊まりしていたと言います。
この曲のからは、その時代に経験したLousの困難な生活と渇きが反映されているのかもしれません。
ちなみに冒頭の部分はベルギーのヒップホップグループ、Starflamの楽曲『La sonora』のフックを下地としたものだと思われます。
まとめ
というわけで。
Lousの歌詞は孤独や苦しみ、焼けつくような渇望といったものをテーマとしており、それがトラップやR&B、ソウルにヒップホップをベースにした深いグルーヴと合わさって歌われることで、深い陰影とともに心を揺さぶり、抉る強い力になっているのではないでしょうか。
すでにTiny Deskにも登場し、日本でも徐々に知名度が上がっているのではないかと思いますが、今回の記事がもし興味を持つきっかけになったり、あるいは楽曲を聴く上で何か参考になりましたら幸いです。
最後はフランスのラジオ・ノヴァ(Radio Nova)からのアコースティックライブ映像をどうぞ。Lousの声の力を存分に聴くことができるオススメです。
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