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『顧客起点マーケティング』のレビュー

アマゾンのレビューでも評価がとっても高いこの本。

GWの自粛期間中は、その少し前からずっと在庫のない状態が続いていました。みなさん、おこもり期間中に読もうとしたんですかね。

分量はそれほど多くはない本で、理屈・ロジックはとてもシンプル、非常に分かりやすい内容になっています。ただやや抽象的なので噛み砕くことが必要かな。

マーケティングに関わる人はもちろんですが、たとえば広告・販促・広報といった業務をしている方も必読です。

本書で紹介されるフレームワークを知ってるか知らないかで、かなり見方が変わってくるかと思います。シンプルだから応用範囲も広いはず。とくに一般消費財にかかわる人には力強いメソッドだと思います。

ものすごく噛み砕いて、私なりの言葉で説明しちゃいますね。

基本的な作業プロセス

顧客起点マーケティングのための作業プロセスは下記になります。ざっくりです。

ビジネスの対象となる顧客を5つのセグメントに分解

特定の顧客セグメントから1人を抽出して調査(N1分析)

深層心理のニーズをつかんで「アイデア」を見つける

このアイデアを定量的な検証し、打ち手を考える

すべての基本となる5つのセグメント

まずは、顧客をロイヤル顧客から未認知顧客までの5つのセグメントに分類します。

超熱心なお客さんから、自社ブランドをまったく知らないお客さんまでを5段階に分類するということ。

具体的には、

▼ロイヤル顧客 (購入経験あり、頻度高)
▼一般顧客 (購入経験あり、頻度は中〜低)
▼離反顧客 (購入経験あるけど現在は無し)
▼認知・未購買顧客 (認知あり、購買経験無し)
▼未認知顧客 (認知なし)

の5つ。感覚的にとても分かりやすい。ちなみに基準はざっくりでいいみたいなこともありがたい。

この5段階のセグメントが本書での分析ツールの基本的な軸になっています。

未認知層を、どうやって一般顧客やロイヤル顧客にもっていくかを軸にすべてを考える・・・この筋のとおった説明が本書の分かりやすさの肝だと思います。

と同時に、この考え方は応用範囲がひろく有用性が高いと個人的に感じています。

たとえば、広報やSNSの目的を考えるときに、この図をもとに考えるといろんなものがスッキリするのです。

9つのセグメントと本書の真骨頂:ブランディングの投資効果の可視化

ここでは詳述しませんが、この5つ層をそれぞれ「ブランドに対する選好」で2つずつに分けて、合計9つにセグメントする方法も本書では紹介しています。

この9つのセグメントそれぞれの人数、販売実績、利益など数値化することで、販売促進だけではなくブランディング活動を可視化できる、というのはおそらく本書の真骨頂だと思います。

本人も世界初じゃないかと書いているとおり、従来は聖域とされたり、アートの側面が強調されがちなブランディングというものの効果を可視化できるというのは画期的な手法です。

N1分析:特定の個人をインタビュー

もうひとつ本書で特徴的でかつ興味深いのは、マーケティング戦略を立てるうえでの重要な「アイデア」を、1人の顧客へのインタビューなりアンケートから導くという手法です。

これをN1分析と呼んでいます。

上でセグメントしたそれぞれの層から特定の1人を抽出してインタビューやアンケートをおこなうのです。

特定の個人の生活態度・習慣・購買行動を詳しく知って、「いつどのようなきっかけで、ブランドを知ったのか / ブランドを買ったのか / ロイヤル顧客化したのか」を知るのが、このN1分析の目的です。

なぜその商品を選んだのかの理由は、このN1分析でしか知ることができないといいます。

というのも、マス視点の(たとえばデモグラフィックデータでの)分析では、その商品を選んだ理由を特定することはできず、インパクトの弱い施策にしか繋がり得ないからです。

上で5つに分けたそれぞれのセグメントに対してN1分析をすることで、たとえば、どういう顧客がどういった理由やきっかけで離反顧客から一般顧客になったのか、もしくは一般顧客からロイヤル顧客になったのかを特定することができるわけです。

そこから得られるアイデアによって効果的な施策を考えることができます。

マーケティングというとビッグデータを使ってどうとか、顧客の細かいデモグラフィックデータを分析したりといったイメージもありますが、このN1分析はその逆。そしてそのN1分析だけが、有効なマーケティング施策を考える突破口であるというのが本書の主張です。

アイデアの重要性

顧客の深層心理のニーズをつかんだこの突破口を「アイデア」と本書では呼んでいます。一般的なマーケティング用語でいえば「消費者インサイト」がもっとも近いところかもしれません。

本書の「アイデア」は、それにキャンペーン施策の内容とかも含まれた少し広い意味になっています。

この「アイデア」について詳しくはぜひ本書を読んでほしいですが、「独自性」と「便益」の両方をかねそなえたものが必要になるといいます。

また、アイデアは、商品・サービス自体にかんする「プロダクトアイデア」と、広報・広告など伝える段階での「コミュニケーションアイデア」の大きく2つがあって、どちらも考える必要があるといいます。

5セグマップ、9セグマップ、N1分析、これらを使って、後半ではスマートニュースというアプリのマーケティングについて実例で紹介しています。

後半を読み終えた後に、前半の理論部分を読み返すとさらに理解が深まります。

まだ私も消化しきれていない部分があるので、たびたび振り返って読み返すべきマーケティングの保存版良書です。


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