スリラーからアポロで立ち止まって、やっと目を覚ましたなら恋ダンスで踊ろうか

 マイケルジャクソンをちゃんと聴くようになったのは彼が死んでしまってからだった。
 いいミュージシャンでダンサーでしたね。
 ベタと言えば、ベタなのですが、彼が遺した歌のなかで僕が一番好きなのが『スリラー』です。
 PVがメチャクチャカッコいいんですよね。


 映画を観にきたカップル。女性はモンスター映画を見て怯えた表情。一方、男性はポップコーンを食べながら余裕の笑み。帰り道、不機嫌な彼女、歌いながら戯ける男を見て笑顔に。しかし、そんな二人の前にゾンビが現れる。頼りにしていた彼氏もゾンビになり、彼女は小屋へと逃げ込む。しかし、彼氏と大量のゾンビは小屋へとやってくる。
 もうダメかと思ったその時、彼に起こされる彼女。なんだ夢だったのねと安心する彼女。しかし、二人が部屋を出ようとする時、男は振り返って観客に意味深な笑みを向けた。

 マイケルジャクソンが扮するゾンビになってしまう彼氏にカメラを向けながらも。物語の主体となるのは心臓が止まるような光景を見た"キミ"だ。

 今夜、キミは生き残るために戦わなければいけない。"誰一人としてキミを守ってくれるひとはいない"、つまり、彼氏のマイケルでさえも。今夜、キミは生き残るために一人で戦わなければいけないんだ。

 これは夢だと願うも、彼らの足音が聞こえたら手遅れだ。

 PVのラストでは、夢だったのねで終わるんだけどさ。本当に夢だったのだろうか。もしかしたら作中の彼女はゾンビに襲われてしまい、なにかを奪われたのかもしれない。

 それは処女がどうとかじゃなくてさ。もうちょい曖昧なものだよ。

 ちなみにスリラーの誕生は1992年。僕が生まれてまだ1年も経ってない頃だ。まだ、歌という概念すらわかってない。マイケルのことだって、知ったのはスキャンダルの頃だったし。曲を聞いてみようと思ったのは死後だった。

 なにを奪われたのか。そもそもゾンビになるというのがどういうことなのか、と考えるとわかる。ゾンビと言えば、ショッピングモールへと向かっていく無思考な存在。つまり、大量の消費社会に支配された個のない群像。

 マイケルはゾンビになりながらも、キミは戦うんだと叫び、最期の理性を振り絞って踊ろうとした。

 これと同じことを歌っているのが、ポルノグラフィティの『アポロ』だ。

 彼らは茶化すように目の前のキミに言った。

 僕らの生まれてくるずっとずっと前にアポロ11号は月に行ったんだってさ。

 そう言った後に、僕たちがジャングルにいた頃から、変わらない愛の形を探していると、話が切り替わる。

 これ、全然関係なく唐突っぽいけど。僕らはつながってるってなんとなくわかるんですよね。

 そもそも、アポロ11号が月に到着したのは1969年。じつはそんなむかしじゃないんですよね。

 じゃあなにが昔かと言えばさ。そもそも、僕ら日本人は月で女性と聞けばさ。有名なある活動家のセリフを思い出すんですよ。

 その人の名は、平塚らいてう。

「元始、女性は太陽であった。真正の人であった。今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である。」

 アポロ11号はこれの隠喩です。その上で、アポロ11号の話の後で、キミの腕時計の話に移る。

 キミの付けてる腕時計は流行りのものだよね。僕のより早く進んでる、でもそれって壊れてるんじゃない?

 その後、パッと全体を映すように、空を覆う巨大な広告塔に意味ありげな微笑を浮かべる美人。赤い口紅をつけてる。

 一個人からカメラが離れたら新宿や渋谷の交差点が映るような。映像的な描写ですよね。

 ここで映る美人が平塚の言う現代の太陽を差す。つまり、これがキミのなりたかった太陽なの? これはこれで他に依ってない? っていう皮肉だね。

 一応、この曲は2000年。バブルから10年経っている。漂流教室のサムい実写ドラマとか、ドラえもんが募金を呼びかけたり。高い金をかけてエコブームを煽るCMを出してた頃で、色々な矛盾がありながらも消費社会に対する反省が見え隠れしていました。

 そして、つらい現実に助けてくださいな『世界の中心で愛を叫ぶ』。『恋空』などの携帯小説も流行った。

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 演出された悲劇と造りあげられた悲劇。どちらも劇には違いないのだが。評価されたり顰蹙を買ったり。

 さらに時が進んで2016年。『キミの名は』で二人の男女が入れ替わったりする。ここで面白いのが、入れ替わるのは男性と女性であり、都会と田舎である。違う価値観、違う環境。しかし、そこに自分が入った虚構に惹かれた二人はその残り香に惹かれて違った時間軸を違ったままで受け入れる。

 自分を通して見つけたキミは、本当にキミなんだろうか。そんな疑問は無粋でしょうか。

 まあ、無粋なんだろう。星野源さん曰く、この世にいる誰もが2人から。されど愛が生まれるのは一人から。

 会えなくても、一人で踊ろう。そして手を繋いで二人になろう。

 まあ、こうやって歌を紹介して社会のことを説明した気になっても。だいたいはどうとでも言える。セミの泣き声に足を止める日もあれば、雨の音に気付く日もある。
 ただ、自分の価値観の変化を好きになった歌の順で話してるだけかもしれない。


こちらは僕が書いている小説のリンクです! ぜひ読んでください!

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