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【論文解説】登りで大事な筋肉は?

今回はジョージア大学で1997年に行われた研究についての紹介。論文のタイトルを日本語訳すると「水平および上り坂走行中の下肢筋の活性化」ってな感じ。トレッドミルで傾斜0%と10%で疲労困憊まで走り、直後の右足をMRIでスキャンして活性化された筋肉の違いを調べたもの。登りではどの筋肉がより重要で鍛えればいいのか参考になる研究です。そんな研究が30年近く前に行われていたとは!

対象:レクリエーションレベルの女性ランナー12名
手法:トレッドミルで傾斜0%と10%で比較。被験者はVo2Peak(最高酸素摂取量)の122%の強度で疲労困憊になるまで走り、ランニング終了後10分以内にMRIで右足をスキャン。画像診断により活性化された筋の割合と筋出力(T2値)を測定。

測定した13の筋肉

  • 腸腰筋(iliopsoas、ILPM)

  • 大殿筋 - 中殿筋 - 小殿筋(gluteal group、G)

  • 縫工筋(sartorius、SR)

  • 大腿直筋(rectus、RF)

  • 外側広筋 - 内側広筋 - 中間広筋(vastus、V)

  • 大内転筋 - 長内転筋 - 短内転筋(adductors、A)

  • 薄筋(gracilis、GR)

  • 大腿二頭筋(biceps femoris、BF)

  • 半腱様筋(semitendinosus、ST)

  • 半膜様筋(semimembranosus、SM)

  • 腓腹筋(gastrocnemius、GN)

  • ヒラメ筋(soleus、S)

  • 前脛骨筋、その他ふくらはぎの筋

結果

傾斜0% : 活性化割合が大きかった筋肉

  1. 内転筋 90 ±5%

  2. 半腱様筋 86 ±13%

  3. 薄筋 76 ±20%

  4. 大腿二頭筋 76 ±12%

  5. 半膜様筋 75 ±12%

傾斜10% : 活性化割合が大きかった筋肉

  1. 内転筋 83 ±8%

  2. 大腿二頭筋 79 ±7%

  3. 臀筋群 79 ±11%

  4. 腓腹筋 76 ±15%

  5. 広筋群 76 ±14%

活性化した割合に変化があった筋肉

0%に比べて10%でより活性化した筋肉は広筋群 (23%) とヒラメ筋 (14%)でした。その他にも腓腹筋、臀筋群、腸腰筋、大腿二頭筋もグラフでは若干の増加を示していますが論文では明言はされていません。
一方で、大腿直筋 (29%)、薄筋 (18%)、半腱様筋 (17%) の活性化は減少した。また活性化した筋の全体量を比べると傾斜0%では67%(±8%)であるのに対し、傾斜10%では73(±7%)と登りの方がより多くの筋肉が使われるという結果になりました。

筋出力の結果

次に、T2値の結果を紹介します。T2値は筋肉の発揮した力の強さを反映しています。単位はms(ミリ秒)で数値が大きいほど強い筋出力があったことを示すとされています。

傾斜0%で出力が高かった筋肉は

  1. 臀筋群  37.3 ±1.4ms

  2. 内転筋群 36.9 ±1.2ms

  3. 半腱様筋 36.9 ±1.8ms

  4. 半膜様筋 35.0 ±1.0ms

傾斜10%で出力が高かった筋肉は

  1. 臀筋群 37.9 ±3.5ms

  2. 内転筋群 36.2 ±1.4ms

  3. 大腿二頭筋 35.8 ±2.3ms

  4. 腓腹筋 35.6 ±2.3ms

  5. 半膜様筋 35.5 ±2.3ms

どちらも臀筋群の出力が最も高い結果となりました。変化があった筋としては、傾斜10%で出力が高まったのは広筋群(1.6ms)でした。逆に傾斜10%で出力が低下したのは薄筋(4.7ms)、半腱様筋(2.8ms)でした。正直この結果から何かを読み解くのは難しい。。。

考察

論文では広筋群やヒラメ筋がより活性化されたことや筋出力の変化に関して考察は述べられていません。なのでここからは自分の推測として。

広筋群がより活性化した理由
広筋群は外側広筋、中間広筋、内側広筋の3つで太ももの前に位置し主に膝を伸ばす働きをします。ランニング中の働きとしては接地したタイミングで膝がぐらつかないように安定させる働きがあります。登りでは接地の時間が長くなるのでその分しっかりと安定化させないといけません。
また、膝を伸ばすことで上方向に身体を持ち上げる働きも若干しているのではないかと思われます。

ヒラメ筋がより活性化した理由
ヒラメ筋と腓腹筋はどちらも足首の伸展に関わりますが、腓腹筋は二関節筋のため膝を伸ばした状態でより筋力を発揮できます。つまり平地で接地する時により重要な働きをします。一方、登りでは膝を少し曲げた状態で接地するため平地に比べると腓腹筋の力が発揮しずらくなります。そのためその働きを補うようにヒラメ筋の出力が増えたのではないでしょうか。

臀筋群の変化について
身体を上方向に持ち上げるには臀筋を使って股関節を伸展させる動きが最も適しています。そのため登りでは臀筋群の変化が顕著に見られると予想してましたが、期待したほどの大きな変化は見られませんでした。考えられる理由としては平地においても臀筋は重要な働きを果たしており傾斜0%においてすでに75%近い活性化を示していたこと。そのため変化量の違いが明白に出なかったと考えられます。また中臀筋は前側と後ろ側で股関節の内旋と外旋という相反する作用を持つため、同時に全域を活性化することが難しいのではないか。また、脳の制御によって筋肉は100%の力を発揮できないようにリミッターをかけられているため登りでも80%程度に留まったのではないか。などなどまだまだ研究しがいがありそうです。

まとめ

登りの方が全体としてたくさんの筋肉が使われるという結果になりました。
マラソン選手よりトレラン選手の方が足がごついのはこのためでしょうか。
やることは、全体的に足の筋肉を鍛えてなおかつ、もも前、ヒラメ筋、お尻を強くしましょう。今回の研究では登りは10%の傾斜によって行われました。10%っていうとトレランではそこまできつくない方かと。20%や30%まで傾斜を上げた時に臀筋群や今回ではあまり変化が見られなかった腸腰筋などでも面白い発見があるのではないかと思いました。おしまい。

参考文献

  1. MARK A. SLONIGER, KIRK J. CURETON, BARRY M. PRIOR, AND ELLEN M. EVANS(1997). Lower extremity muscle activation during horizontal and uphill running

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