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【1】生きた文章を書くには【具体例あり】

神里です。

よく「生きた文章を書きましょう」と言われます。
じゃあその生きた文章を書くために何が必要かというと、「共感」とよく言われます。

いやいや、共感と言われても漠然としすぎているうえ、何に共感するかは人それぞれだからわからないんですけど……

こんな声が聞こえてきそうですね。

今回は、私なりに生きた文章を書くために手早くできる事を紹介したいと思います。


生きた文章を書くために共感を生む内容をということですが……

共感なんて人それぞれだから、客層やターゲットを絞って書こうという事でしょうか?
いえいえ、そんなもったいない事しなくていいです。

共感とは、例えば共通認識だと考えてみてください。

つまり、当たり前のことを当たり前に書く。これこそが、生きた文章を書くために必要なことです。


例えば、暑い室内のシーンがあるとして。
この部屋が暑い事については書かれていても、それ以外について何も描かれていないと、暑い部屋という設定がいきてきません。
実際に見てみましょう。

例)
昼食を終え、コントロールルームに戻ってきた蛍とパイモン。
ドアを開けると、むっとした熱気が二人に襲い掛かり、ねっとりと全身を撫でて通り過ぎていく。
「うぅ、暑いな……やっぱり、エアコンをつけてから部屋を出た方がよかったんじゃないか?」
部屋に入るなり、一番奥の椅子にぽてっと座り込むパイモン。ここへ来るようになってからというもの、そこが彼女の「いつもの場所」になっていた。
「仕方ないでしょ。朝は涼しかったんだし、数時間でこんなに気温が変わるなんて普通思わないよ」
パイモンのすぐ近くの席に座り、持ち帰った資料に目を通し始める蛍。
クリップでとめられた報告書の数々……刻晴からのお土産である。
この日蛍は朝から刻晴の手伝いをすると申し出ており、どうしたものかと手渡されたのが先日のお祭りに関するものだった。
「オイラ、アイスが食べたいぞ……」
「バカなこと言ってないで手伝って」
ばさりと幾つかの資料を束ね、少々わざとらしくパイモンの目の前に置いてみせる。


原神キャラで書いていますが、別になんでもいいです。

なんとなくシーンは想像できるものの、彼女たちは暑い暑いと言ってる割にはいまいち環境が伝わってきませんね。読者としては、この部屋が暑いことはわかってもそれを単なる作中の事実としてしか認識しておらず、伝わりきっていないからです。
これは、なぜこの部屋が暑いのかそれがわかる部分が、セリフと「むっとした熱気が襲い掛かり」しかないからです。

このシーンでも場合によっては物語全体でも、この部屋が暑い事については重要なことではないわけですが、これでは生きた文章とはあまり言えないです。
なぜなら、この文章を読むと暑いと感じるのは冒頭の辺りだけで、以降は暑い様子も寒い様子もなく、ただ話が進んでいるだけになっているからです。
勿論それが悪いわけではないですが、せっかく共感できそうな情報があるのです、活用しない手はないでしょう。

じゃあどうするのか?
汗をぬぐう動作、などを挟んでもいいですが、もう少しキャラの感情を交えた言動を盛り込んでみます。

改変例)
昼食を終え、コントロールルームに戻ってきた蛍とパイモン。
ドアを開けると、むっとした熱気が二人に襲い掛かり、ねっとりと全身を撫でて通り過ぎていく。
「うぅ、暑いな……やっぱり、エアコンをつけてから部屋を出た方がよかったんじゃないか? これじゃあサウナみたいだ……」
部屋に入るなり、一番奥の椅子にぽてっと座り込むパイモン。ここへ来るようになってからというもの、そこが彼女の「いつもの場所」になっていた。
「おぉぅ……へへ」
室内の気温の割に椅子が存外冷えていたのだろう、ちらりと視界に見えた彼女はニヤケ顔で少しだけ背筋を伸ばしていた。
「仕方ないでしょ。朝は涼しかったんだし、数時間でこんなに気温が変わるなんて普通思わないよ」
ぱたぱたと左手を団扇のようにあおぎながら、パイモンのすぐ近くの席に座る蛍。同時に、持ち帰った資料を机の上にどさっと広げる。
クリップでとめられた報告書の数々……刻晴からのお土産である。
この日蛍は朝から刻晴の手伝いをすると申し出ており、どうしたものかと手渡されたのが先日のお祭りに関するものだった。
ぽたり、と資料に水滴が落ちる。反射的に手で払いのけたことでむしろ被害が拡大してしまったそれを見て、蛍は大きくため息を吐いた。
「オイラ、アイスが食べたいぞ……」
「バカなこと言ってないで手伝って」
ばさりと幾つかの資料を束ね、少々わざとらしくパイモンの目の前に置いてみせる。
「うえぇ……」
資料が置かれぶわりと温かい風が周囲に舞った。
思わず顔をしかめるパイモン。椅子のひんやりとした感触など、既に記憶の彼方のよう。


流石に、ちょっとわざとらしいくらい盛り込んでます。
しかし、これだけ暑さに関しての情報を書き入れれば、室内が暑いことは嫌という程わかります。
(そして、何より文字数が稼げます)
↑……いや、これかなり重要です。

ここで重要なのは、暑いとただ書くよりも、あぁここは暑いんだと思わせる文を入れるほうが、読者にはより共感的に伝わります。そして、何故そう思わせる事ができるかというと、共通認識をもちいて納得し想像させているからです。

例えば「ぱたぱたと左手を団扇のようにあおぎながら」「ぽたり、と資料に水滴が落ちる。反射的に手で払いのけたことでむしろ被害が拡大してしまったそれを見て、蛍は大きくため息を吐いた」などの部分。
この文章に「暑い」という文字は出てきませんが、文脈も合わせればこれらの動作が、暑いと感じているからこそ出る行動や感情であるとわかります。*ちなみにこれを「描写」といいます。描写についてはまた別の機会に書くことにします。長いので。

これには幾つか狙いがあって、大きくは
・それとはっきり書くより、それを思わせる描写を書くほうが印象づけやすい
・具体的な言動を書くことで、読者の経験や実感を引き出し、共感を得やすい

の二つがあります。

「暑いです」と書かれても「あぁ、暑いんだ」としかなりませんが
「歩く度に汗が出ます」と書かれると「あぁ暑いからか」「そんなに暑いのか」となりませんか?
同じようなものですが、後者は超短期的に読者に「納得、共感」を与えていますよね。前者はただの確認です。
このように、理由付けのやり取りを読者と行うのです。
勉強でもそうですが、人は頭や身体を使うほうが脳に情報を刻みやすいです。

電話で話してるところを想像するとわかりやすいかもしれません。
(電話で)
「こっち暑いわ」
「へーそうなんだ」
これで終わるのではなく……
「外おったら立ってるだけで汗めっちゃ出る」
「そら暑そうやな」
こう言えば、こんな風になりますよね。
立ってるだけで汗が出る=めちゃ暑い、を聞き手に想像させているのです。
このイメージを文章でやるだけです。

また、「手で団扇のようにあおぐ」という動作や「汗が落ちてため息を吐く」など、おおよその人が経験していそうな内容を組み込むことで、「あるある」「これは暑そう」などといった感想を抱かせる事ができます
ここは特に共通認識の部分にあたりますね。

それだけでなく、具体的な言動を入れる事で、程度を表す事もできます。
暑いとひとえに言われても、想像する気温は様々でしょう。しかし、この例で言うと「少なくとも手であおぎたくなるくらい、汗がぽたりと落ちるくらいの暑さ」だとわかります(汗が出る程でなくても暑いと言いますからね)。
勿論具体的に気温を書いてしまうのもダメではないですが、具体的な気温を書かれてピンと来る人はそんなにいないでしょうし、何より文章が説明的すぎるので生きた文章とはいえません。


どちらにも共通して言えるのは、ただ読み流させるだけでなく考えさせる(脳を使わせる)、という所です。
読者の印象にも残りますし、読んでいて想像しやすい文章です。


更に更に。
最初に出した例と訂正例で、大きく印象が変わったと思いませんか?
文章全体の印象ではなく、蛍の印象です。

訂正例では具体的な言動を入れたことで、蛍の感情が見えてきています
例文では「部屋は暑いが仕事にすぐ取り組む頑張り屋蛍」くらいの印象ですが、訂正例の文では「やる気に引き受けたはいいが部屋があまりに暑くてダレかけている人間くさい蛍」みたいに感じませんか?

勿論これらの後の文章によって蛍がどういう心境なのかはいくらでも描く事ができますが、前者の書き方でそれをこの後表現するとなると、「引き受けたまではよかったが、部屋が想像以上に暑すぎたことで若干やる気がそがれている」と、これまた説明的に書かねばなりません。
それだけでなく、文章からはほとんど蛍の心情が読み取れないのに、急にこんな説明を放り込まれたのでは、読者はただ「あ、うん、そうなんだ」としか思う事ができません。説得力がないのです。

しかし後者の訂正例のように書いていれば、たとえ説明的に蛍はやる気がそがれていると書かれても、「あーうんうん、いま蛍そんな感じだよね」と納得、共感した上で読む事ができます

ちなみに蛍だけでなくパイモンにも目を向けているので、読者の視点が蛍だけでなくパイモンも含めた拾い視野になります。
今回は部屋の暑さを際立たせるのが目的ですので、蛍ばかりに視点が集中するよりも広い映像を見せることで、部屋が暑いという情報を際立たせています。
また、これは原神の二次創作としての文章ですから、資料に向き合う蛍の横でぐでぇとしてるパイモンの姿や、その姿でアイスが食べたいと言ったパイモンにほんの少しだけむっとしたような感情を持った蛍の様子など、はっきり書いてはいませんが容易に想像することができます。二次創作のいいところは、各キャラクターの特性や容姿を読者が予め情報として持っていること。故にシーンの想像がとてもしやすく、読みやすいうえ納得や共感を生みやすいです。
そのうちパイモンが大きな声を出し、結局力尽きそうですね。

ただ、暑いを具体的に書いてみただけなのに、こういう相乗効果も生み出す事ができるのです。
読者に想像させることで納得や共感を引き出し、読みやすくし、印象に残す事ができ……本当に様々な効果を期待できます。
文章のいいところは、1を10にも100にもできるところ。活用しない手はないですよね。


ただし、注意!!

描写と呼ばれるものがまさにそうなのですが、この手の表現は多用するべきではありません
こういった文章ばかりになると非常に読みにくくなるばかりか、読者が疲れて読む事が苦痛になります。そのうち感動も納得もなくなり、説明的な文章を読んでいるときと同じ様子で読まれてしまうようになります。あと、第一、美しくありません。
文章にも緩急が重要です。綿密に組み込んだ文章を書くシーンもあれば、少し落としてラフめに書くシーンも必要なのです。


いかがでしたか。
今回は共感をベースに、生きた文章について少しだけ触れてみました。
ただ事実を書くのではなく、共感が含まれる文章にすることで、生きた文章を書く事ができます。
これはいくらでも応用できる事なので、様々なシーンで試してみてください。


いつもこんなこと考えて書いてるの?

いいえ、まったく。

(シーンによりますが)文章のいいところは、後から読み直して書き直せるところ。
上の訂正例も2回くらい読み直して表現を変えたりしています。
はじめは思うように書いて想像を吐き出すことを優先させ、読み返してからこの手の修正を行っていくといい感じだと思います。

人によるけどにゃ。

それでは、今回はこの辺で。
ではではでは。


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