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立憲民主党が政権を獲っても、本当の意味での「政権交代」ではない

川勝平太氏の辞職に伴う静岡県知事選は5月26日に投開票された。立憲民主・国民民主推薦の新人・前浜松市長の鈴木康友氏が、自民推薦の無所属新人・元県副知事の大村慎一氏らを破り、初当選を決めた。事実上の与野党対決に自民党は4月の衆院3補欠選挙に続いて敗北した。

前回の論考『上久保の理論(1)「ネオ55年体制」など存在しない。新しい対立軸は「社会安定党VSデジタルイノベーショングループ」だ』をフォローアップする論考になる。

 
 次期総選挙で、立憲民主党を中心とする勢力が自民党・公明党の連立与党を破って、政権を獲得する可能性が現実味を帯びてきている。
 
 しかし、私はこれを「政権交代」とは考えない。なぜなら、たとえ立憲民主党を中心とする勢力が政権を獲って行う政策は、自公政権と変わらないと思うからだ。
 
 前回述べたように、表面的には対立しているが、実際には自公も立憲民主党など野党も、同じ「社会安定党」と呼ぶべき勢力に属していると考えている。
 
 「社会安定党」とは、デジタル化などについていけない「負け組」「弱者」を守るためにある。現在でいえば、自民党・公明党の連立与党と、両党を補完する立憲民主党・社民党・日本共産党・れいわ新選組などで構成されている。
 
 与野党が混在する同グループの政策は、(1)弱者・高齢者・マイノリティー・女性の権利向上、(2)同一労働同一賃金・男女の賃金格差解消、(3)外国人労働者の拡大・斜陽産業の利益を守る公共事業の推進、(4)社会保障や福祉の拡充・教育無償化――などだ。いわば、社会の急速な進化と、それに伴って生じる格差から「負け組」を守るシェルターを作ることが「社会安定党」の役割である。
 
 自公と立憲民主党には、安全保障政策・憲法に大きな違いがあるじゃないかというかもしれない。しかし、政権を獲得すれば、中国の軍事的拡大、北朝鮮のミサイル開発、ロシアの動向など、日本周辺の安全保障環境の悪化という現実から逃げるわけにはいかなくなる。それ以前に、泉健太代表は安全保障政策に関しては現実的な考えを持っている。
 
 政権を獲得すれば、安全保障政策に関しては、現状維持で手を付けないという方針を獲るだろう。もっとも、共産党など一部の勢力がどうしてもがまんできなくて、内紛が起こり、政権がもたなくなるという懸念はもちろんある。
 
 つまり、立憲民主党を中心とする勢力が政権を獲得しても、国内政策の方向性は自公政権とほぼ変わらないものとなるのだ。違いがあるとすれば、岸田首相の汚れた手で補助金や支援金を渡されるよりも、泉健太氏という多少若くてクリーンに見えるリーダーから渡されたほうがマシで気分がいいという程度のことということだ。
 
 ただし、立憲民主党を中心とする勢力が政権を獲得すれば、ますます日本政治は「弱者救済」の色を強めていくことになる。言い換えれば、政治はデジタル化など社会の変化についていけない人たちを守るシェルターを作り、ガチガチに固める役割に特化していくことになる。
 
 それは、政治の外側にいて、SNSで活動する個人(インフルエンサー)、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどが含まれる「デジタル・イノベーション・グループ」をますます政治から遠ざけることになるだろう。
 
 彼らから税金という形で利益をむしり取って、シェルターの中にいる人たちを助けるためにそれを渡そうとする政治から距離を置き、かかわらないように静かにしているだろう。あるいは、志ある優秀な人たちは日本からそっと出ていくのかもしれない。
 
 要するに、自公政権から、立憲民主党を中心とする勢力に政権が移っても、なにか新しいものが生まれるということはない。政治が、古いものをかたくなに守ろうとする傾向が、より強くなるだけだろう。
 
 

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