見出し画像

上久保の理論(5):少子化対策は「ダブルインカム・ツーキッズ政策」で(後編):若者の将来に夢と希望のある政策を

さて、理論というほどのものではないのですが、政府の「異次元の少子化対策」がいかに的外れかということと、上久保の考える、今すぐできる、おカネのかからない「少子化対策」、後編です。

私は、女子のゼミ生に常々言ってます。「結婚しても、絶対に仕事を辞めるな」と。端的にいえば、それが何よりも大事です。

1.ダブルインカム・ツーキッズという生き方

ここから、「ダブルインカム・ツーキッズ」政策について、説明したい。これは、別に新しい考えというわけでもない。「灯台下暗し」というか「眼からウロコ」というか、いろいろ少子化対策として難しいことを考えるのだが、足元にすぐできることがあるじゃないかという程度のことだ。

これは、「正規雇用で生涯共働き」で家庭の「所得倍増」をし、子どもを2人持とうかなと思う、ということだ(尚、2人というのは、わかりやすい例えであり、コピーとしてキャッチ―だということです。0人や1人ではダメなのか、3人以上でいいじゃないかとか、そういうのはご容赦願います)。

妻が結婚後も正社員として働き、夫と同程度の給料を得られるようになれば、単純計算で世帯年収が倍増するということだ。

かつて「ダブルインカム・ノーキッズ」という言葉があった。夫婦になって二人の年収を合わせて余裕のある生活基盤を持ちながら、子どもを持たずにそれぞれの人生の目標に向かうのが新しい生き方とされたことがあった。

今は「ノーキッズ」では困るわけだが、ここで重要なのは「ダブルインカム」が余裕のある生活基盤をもたらすという考え方が以前からあったことだ。これからは、例えば「ダブルインカム・ツーキッズ」という生き方を提唱してもいいのではないか。

ところが、前編で指摘したように、現状は、結婚して子どもができると、妻は離職して専業主婦になるか、正規雇用の職を失い非正規雇用になることが多く、結婚すると所得が実質的に減ることが問題だ。

職場結婚を考える同期の正規雇用のカップルいるとしよう。年収は2人とも500万円。結婚で妻は退職する。2人で夫の年収500万円を使うことになる。一人当たり250万円である。子どもができるともっと少なくなる。

妻が非正規で働いたとしても、夫の500万円+100万円で合計600万円。やはり、一人当たり300万円で結婚前より使えるお金は少ない、2人がそれぞれ人生目標を持とうとしても、夫は家族を養うことだけで精いっぱいになり、妻に至っては人生目標自体を奪われることになる。家庭を築き子どもを育てることに「夢や希望」を持つのは無理である。

一方、結婚後に2人とも正規雇用で働き続ける「生涯共働き」ならばどうだろうか。年収が500万円+500万円=1,000万円の「ダブルインカム」となる。人生全体を考えると、年収500万円で40年間働けば収入の合計は2億円だ。これが夫婦2人なら世帯年収は4億円になり、その10%を貯蓄し続ければ40年後には4,000万円ほどの財産が作れることになる。

これならば、結婚したほうが使えるおカネが増えるということになる。結婚しようという気持ちになるし、子どもも複数持とうという気になる。家を買おう、車を買おう、外食しよう、旅行に行こう。人生の目標のためにお金を使おうという気持ちになる。

もちろん、厚生労働省にもこの認識はあり、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった認定制度を設け、女性活躍や育児支援に力を入れている企業に助成金を給付するなどの優遇措置を実施している。

だが、何度も繰り返しになるのだが、日本では女性の非正規雇用者が多く、少子化が進んでいるのが現状だ。両制度が飛躍的な効果を生んでいるとはいえない。効果をさらに高める上では、助成金給付の対象となる企業を広げたり、給付金額を手厚くしたりといったテコ入れが必要ではないだろうか。

2.苦行ではない、将来の夢と希望を描ける政策を

繰り返すが、現状は若者にとって結婚、子育てが「苦行」となってしまっている。それは、社会が大きく変化しているにもかかわらず、政治、財界、官界の首脳の多くを占める5-60歳台の世代の時代の社会や家庭のモデルを若者に押し付けることになっているからだ。

そして、そのモデルが現実に合わなくなってきたのは、日本経済が「失われた30年」と呼ばれた長期停滞から抜け出せないことが根本的な原因だ。

第二次安倍晋三政権の約8年弱の期間、再三にわたって企業に対して「賃上げ」を要請してきた。だが、企業はその要請になかなか応じなかった。グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった(今になって、一斉に賃上げをしているが、遅すぎる)。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた。

正規・非正規雇用の格差問題は国会で議論され続けた。ようやく、21年4月に全ての企業を対象とした「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がらなかった。

その間、経済の構造改革が求められ続けたが、政界も官界も財界もその先送りを続けた。経済を活性化させる新しい産業はなかなか生まれず、世界と比べてIT化、デジタル化が遅れていることが、コロナ禍を通じて明らかになった。

要するに、奇跡的な高度成長という「昭和の成功体験」からなかなか離れることができなかった上の世代が、経済・社会の変化に対して有効な策を撃てなかったことのしわ寄せが若者を経済的な苦境に陥れている。

その上、少子化問題を国家的な危機だと煽り、その解決を若者に押し付けて責任逃れをしている。大学という場にいて、卒業生や現役学生を観ているとわかるが、若者はそのことにしっかりと気付いている。上の世代の言うことに白けているのは間違いない。

それでは「将来への夢と希望」がある政策をどう考えればいいか。現代は、国家が目標を決めて、若者がそれに従い、一丸となって夢と希望をもって進むということはあり得ない。

「外国に追いつき、追い越せ」で一枚岩になれた高度成長期のような時代は再び来ることはない。国民の価値観は多様化してしまっていて、国家がそれを管理することは不可能なのだ。一人一人が、それぞれの価値観を持って、多様な形で人生を充実させていく時代だ。そこで国家ができることがあるとすれば、そのための基盤を整えることである。

価値観の多様化にかかわらない形で、国家が整えられる基盤があるとすれが、その1つの例は、経済的な基盤を作ることだろう。経済的に余裕があれば、人生を充実させるために投資することができるようになるからだ。ゆえに「ダブルインカム・ツーキッズ」なのである。

3.「ダブルインカム・ツーキッズ」の実現に必要なこと

「ダブルインカム・ツーキッズ」の利点は、シンプルに言って、おカネがかからないことだ。今の日本型雇用システムを変えることなく、ただ企業が結婚後・出産後も女性を正社員として雇用し続ける、子育てを支援を厚くするだけで成り立つからだ。

それだけで、「異次元の少子化対策」よりもはるかに効果がある。

その上、妻が「労働力」となり家庭の所得が倍増すれば、それだけ消費が上がることになる。企業の利益が上がる。賃上げが進む。

「失われた30年」の間、経済のなにが問題だったかといえば、突き詰めれば「消費が上がらない」ことによるデフレの進行だった。そこを解決させる経済対策の1つにもなるのだ。いや、ひょっとすると、これまでのどんなバラマキよりも、アベノミクスよりも、企業にとって有効なのではないか?政府にとっても悪い話ではない。

私は、ご存じの通り、年功序列・終身雇用の「日本型雇用システム」に批判的だ。しかし、現実的に考えれば、このシステムには根強い支持があるし、今、一番簡単にできる策であることは認めざるを得ない。

要するに、企業が女性社員を結婚・出産を機にやめさせることをなくすだけでいいからだ。

ただし、「ダブルインカム・ツーキッズ」を実現するには、政府による共働き世帯を支援する体制の改革が必要だ。その上でまず重要になるのは、「保育園の待機児童問題」の完全な解消だろう。保育園の建設増、保育士の人数増、その待遇の改善などの政策に、最優先に予算を付ける必要がある。

その上では、現在の「出入国管理法」のスキームを超えて移民を拡大し、保育・家事に携わる人材を確保するという選択肢も検討すべきだ。

具体的には、共働き夫婦をサポートし、子育て・家事を行うベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れる。上海など中国本土の大都市や、香港、台湾、シンガポールなどで行われている、共働き夫婦のキャリア形成を支援するモデルを日本に導入するのだ。

移民の受け入れには批判が根強い。だが、リスク防止策も含めて政府は従来の発想を変える政策を打ち出す必要がある。

そもそも、少子化対策は、効果が出るのは早くて20年後、実際には3-40年後だ。その間に、人手不足で国家が滅びては何にもならない。

移民出て行けというならば、その3-40年間の代替案が必要だ。保守派は、伝統を守れと声は大きいが、実効性のある代替案を1つも聞いたことはない。代替案を出してほしい。

かつて、安倍晋三元首相は、「移民よりも女性の社会進出が先」と言った。それは正しいかもしれない。だが、前述のように、実際には女性の社会進出にはそれをサポートする移民が必要だということだ。

一方、お気づきの方もいるだろうが、「ダブルインカム・ツーキッズ」は、リベラル的な政策だ。

そもそも、すべての雇用を正規雇用にというのは、民主党政権が推進しようとしたことだ。移民も、リベラルに親和性が高い政策である。

だが、今の日本のリベラルは、とにかく反対ばかりなのと、補助金、支援金の獲得ばかりに熱心だ。補助金、支援金というのは、55年体制の一部、いわば「コインの裏側」であって、古臭いやり方だ。

「攻めのリベラル」ともいうべき戦略性のある政策を打ち出せていない。ある意味、日本のリベラルは、欧州の文脈における「本当のリベラル」ではないのだろう。「保守のコインの裏側」でしかないのだから。

保守もリベラルも、どちらもジイサン、バアサンたちが若者の将来の夢も希望も奪っていくばかりだ。

「ダブルインカム・ツーキッズ」は一例にすぎないが、日本政府はこれらに匹敵するような抜本的な改革がなければ、少子化の改善は見込めず、衰退の一途をたどることになるだろう。

 今の日本には何が必要なのか、歴史、伝統、文化、そして思想信条の違いを超えて、国民全体で議論していくべきではないだろうか。

今回は、以下の論考をまとめ、修正、加筆したものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?