『散歩するネコ』を読んで/刺繍小説
ハンカチに刺繍をするのは難しい。なぜなら裏面ががっつり見えてしまうから。表も裏もきれいに刺繍をするのは、神経を使うのだ。
『散歩するネコ』でキョウコさんがさくさくとハンカチに刺繍する姿を見て、すごく技術が上達したんだなと感動した。そのうえ、イニシャル図案を自分でアレンジまでしている。極め付けは、引っ込み思案だったキョウコさんがそのハンカチをお友達への贈り物にしたこと。
群ようこさんが描く〈れんげ荘〉シリーズ二作目『働かないの』で泣き言を言いながらプラナカン刺繍に初挑戦したキョウコさんを見守ったときには、彼女がこんなにも刺繍をたのしむ日が来るとは想像もしていなかった。我ことのようにうれしくなってしまう。
シリーズ作品は登場人物とともに月日を歩めるからすきだ。いつしか友情のような気持ちが芽生えて、本が温かく感じる。これからやさしいキョウコさんはどんな幸せを見つけてくれるのだろう。続きがたのしみで仕方ない。