神尾茉利/美術家

『刺繍小説』という本を扶桑社からだしました。ここでは、すきなもののことを書きます。

神尾茉利/美術家

『刺繍小説』という本を扶桑社からだしました。ここでは、すきなもののことを書きます。

最近の記事

こどもつれづれ 1/読んだ育児関連の本のこと

 子どもがもうすぐ2歳を迎える。  あっという間だったと感じるのは出産の日の思い出が濃すぎるせいで、これまでの一日一日を振り返ると本当にたくさんのことがあり、たのしく不安な一歩一歩だった。  育児中にこのnoteを作ったのは、育児をする私自身のことを書き留める場所にしたいと思ったことが目的のひとつだった。そんな話は興味ない方もいると思うため、産前からやっていたSNSではない、新たな場所をつくろうと考えたのでした。親になってからというもの、迷いにハッキリした答えを出せずグルグ

    • 『ハウアーユー?』を読んで

       六代目神田伯山さんのマネージメントをする取締役の古舘さんの話は、伯山さんがラジオでよく話題にされている。ふたりは夫婦だ。とても聡明で芯の強さが伺える話ばかりで、私は彼女のエピソードに共感して、子について誰かに話すときは、性別を断定しない「こども」と言う様にしている。最近では古舘さんがメディアに執筆されることも増えていてうれしい。長く編集に携わっていたという文章はとても読みやすい。最近「ELLE」のウェブサイトで公開されていたfeminist bookcover challe

      • 金曜日の日記/『神戸・続神戸』『「鬼畜」の家』『万引き家族』などなど

         ハンドルを切り過ぎる私に教習官が指示棒をクイッと振って見せ、「手元は少ししか動かしていないのに棒の先は大きく動いたでしょう?」と説明した。「本当だ!」と思った感覚が忘れられない。少しのことが先の方で大きく変わる。三件の幼児虐待事件を徹底的に調べ上げたルポルタージュ、石井光太『「鬼畜」の家』を読みながら、この自動車学校の一幕を思い出した。改めて、ひとは偏った世界で生きているのだと思い知らされる。  なかでも三件の事件現場となった自宅がゴミで溢れかえっていた描写が印象に残る。

        • 金曜日の日記/『マーチェラ』S3 『断片的なものの社会学』などなど

           先週書きそびれた分の金曜日記。  なにを考えていたっけと思い返すと、やっぱり、今週は東京都知事選だぞというのが頭の片隅にずっとあった気がする。珍しく選挙特番を求めてテレビを付けたりしたけど、あれ、都知事選ってこんな感じやっけという位に報じられていなくて、私が日頃選択して見ているメディアやSNSとのギャップにうなる。自分が少数側になることが多いのはこどもの頃から集団生活で嫌というほど経験してきたけれど、選挙の度にも痛烈に感じる。こんな人間が子育てをしていて大丈夫なのかしらと

          金曜日の日記/『スカイロケットカンパニー』『ダウントン・アビー』S1などなど

            ミンネでの通販を再開した。あたらしいことを始めるのは、やっぱりわくわくたのしくて、それが知れてうれしかった。  『刺繍小説』の出版をきっかけに、刺繍のおもしろさに改めて目覚めた心地がある。それはたくさんの刺繍の小説を読んだせいだと思う。小説に描かれた、自分なりの刺繍に精一杯取り組む多種多様な人々を見ていると、自分のやり方でやりたいことをやろうと思えたし、仲間が増えた気持ちになったのだ。私は昔、一点ものを扱うセレクトショップの販売員もやったし、自分の作品の卸や委託で販売す

          金曜日の日記/『スカイロケットカンパニー』『ダウントン・アビー』S1などなど

          『散歩するネコ』を読んで/刺繍小説

           ハンカチに刺繍をするのは難しい。なぜなら裏面ががっつり見えてしまうから。表も裏もきれいに刺繍をするのは、神経を使うのだ。  『散歩するネコ』でキョウコさんがさくさくとハンカチに刺繍する姿を見て、すごく技術が上達したんだなと感動した。そのうえ、イニシャル図案を自分でアレンジまでしている。極め付けは、引っ込み思案だったキョウコさんがそのハンカチをお友達への贈り物にしたこと。  群ようこさんが描く〈れんげ荘〉シリーズ二作目『働かないの』で泣き言を言いながらプラナカン刺繍に初挑

          『散歩するネコ』を読んで/刺繍小説

          金曜日の日記/東京03『隔たってるね。』、雑誌『CREA』などなど

           いよいよ天気予報に傘マークがなかよく並びだした。こどもと散歩に行けないのでどうしようかと悩んで、きのう寝る前にA4サイズのコピー用紙24枚をのりで繋げておいた。おおきな紙にきょうは一緒にお絵かきをして過ごす。最近サッとつまみ食いでもするみたいに、一日中気ままに絵を描いている。筆圧も濃くなったし、大胆な筆致がとても愉快。美術館に行って名画を見せたらどんな反応をするんだろうか。いい絵っていうのはこの世にないけれど、世界中の人々を繋ぐ有名な美術作品は実物をたくさん観て欲しい。私も

          金曜日の日記/東京03『隔たってるね。』、雑誌『CREA』などなど

          『村上T 僕の愛したTシャツたち』を読んで

           今までワンピースは何十枚と自分で選んで買ってきたけれど、たぶんTシャツは2〜3枚しか買ったことがない。いちばん記憶に新しいのは3年くらい前、諏訪湖でフラッと寄った古着屋で買ったデフレパードのバンドT。村上さんが「やれ具合」って言うのと同じかわからないけど、くたくたに仕上がった安物Tの感触はだいすき。  プリントTシャツが一般に流通し始めたのは70年代という話に、へー!と驚く。でもよく考えてみれば、プリントもストレッチ素材も量産技術の産物であるし、それもそうなのだけど、Tシ

          『村上T 僕の愛したTシャツたち』を読んで

          『水を縫う』を読んで/刺繍小説

           数年前、ステージ衣装に刺繍をする依頼を受けた。無事にライブが終わったあとの楽屋で、その衣装を着た歌手から「心強かった」と感想をもらったことが忘れられない。照明が当たった私の刺繍は遠い客席からは殆ど見えなかったけれど、身に纏うその人を強くすることができたと知りホッとした。  『水を縫う』は、姉のウェディングドレスに主人公の清澄が刺繍をしようと決意する話だ。服を着ることで力を漲らせる終盤の展開に、先のエピソードを思い出した。高揚する姉弟の無垢な会話はとてもリアルで、小説である

          『水を縫う』を読んで/刺繍小説

          金曜日の日記/劇場版『ダウントン・アビー』『村上T』などなど

           今週は仕事のリリースがふたつあった。ひとつは、図案デザインと監修をしたコスモ刺繍糸70周年記念の刺繍キットが発売された。こういうキットは仕上がる前に挫折してしまう性分なので、刺繍をしなくても、少し刺繍しただけでも、たくさん刺繍をしても、いつでも可愛く未完成に見えないことを意識した。70周年の節目の大きな企画で大々的に売り出される予定が、合同展示会などの中止で小規模になってしまったそう。それでも欲しい人に届くとうれしいです。  もうひとつは、今日発売のオズマガジン7月号の「

          金曜日の日記/劇場版『ダウントン・アビー』『村上T』などなど

          金曜日の日記/『J・エドガー』『ボクらを見る目』などなど

           以前に刺繍のブローチなんかをウェブで販売していたのを再開しようと思い、撮影したりサイトを整えたりした。きれいに撮った動物のブローチがカメラロールいっぱい並ぶさまに「我ながら可愛いなぁ」とにやけ、そのあとすぐ、強烈に嫌な気持ちになった。「我ながら」って? 刺繍は自分が作ったものだけれど、ブローチとなったこれらは私とはまったく別の個体だ。作品はこども、のような言い回しをよく聞くけれど、作ったもののことを所有物のように思う感覚はすこし怖い。「みんなとっても可愛いね」と思い改めた。

          金曜日の日記/『J・エドガー』『ボクらを見る目』などなど

          金曜日の日記/『オザークへようこそ』『水を縫う』などなど

           疲れるとダラダラ過ごして時間を無駄にしてしまうので、今週は隙あらばNetflixで『オザークへようこそ』を観ると決めて過ごした。子が寝た隙にオザーク。家族が風呂に入った隙にオザーク。話が進むと小さく潤う、やっぱり海外ドラマはたのしい。ひさしぶりに観るオザークのブルーグレーの世界はのびのびと気持ちよく、シーズン3ですっかり悪事に慣れたウェンディが美人になっていて不気味さが増す。笑顔が怖い。姉弟もさらに逞しくなっていた。所謂平凡な人生を過ごしてきた人物が実は犯罪センス抜群だった

          金曜日の日記/『オザークへようこそ』『水を縫う』などなど

          金曜日の日記/『断片的なものの社会学』『プレーンズ』などなど

           五月とは思えない雨の一週間。社会学者・岸政彦さんの『断片的なものの社会学』を読み始める。さまざまな人へ取材をするなかで起こった、社会学の観点から分析できない断片的な出来事がまとめられていて、私は知らない人と話すのがすきなのでとてもおもしろく、社会学にも興味が湧いた。  知らない人と話すのは、まえは飲み屋なんかでしょっちゅうあったけれど、子育て中の今は道端や公園で起こる。今週は、なかなか歩かなかったこどもが突然歩き始めたので、曇天のなか散歩によく出た。近所の屋根がある商店街

          金曜日の日記/『断片的なものの社会学』『プレーンズ』などなど

          『フォードvsフェラーリ』を観て

           週末の夜、映画でも観ようかと夫が選んだ『フォードvsフェラーリ』をAmazonプライムでレンタルした。2時間半もある。気合いにポップコーンを準備して観始めるも、早々に爆走シーンがあり興奮してしまう。こりゃ、車だいすきなこどもに観せないと、と考えると同時に、ほぼ毎日こどもと『カーズ』を観ているにも関わらずまだ車映画を観ている状況に気がつき、私もすでに車沼へ足を突っ込んでいる感が否めない。『フォードvsフェラーリ』、最初から最後までとてもいい映画だった。  私はペーパードライ

          『フォードvsフェラーリ』を観て

          金曜日の日記/『かいじゅうたちのいるところ』『マリッジ・ストーリー』などなど

           こどもが寝る時間に森山直太朗がインスタライブをしてくれていたので布団のなかで一緒に聴く。聴きながらスヤスヤ寝始めてなんと気持ちのよさそうなことか。宇多田ヒカルとか、さだまさしとか、くるりとか、マッキーとか、私は日本語がすきなんだと思う。  二年前の妊婦生活は酷暑の夏だったこともあって、ほとんど家から出ずに過ごした。そのころから今もオイシックスを利用していて週に一度の注文がとてもたのしい。オイシックスを利用する前は欲しいものをリストにして夫にスーパーで買ってきてもらっていた

          金曜日の日記/『かいじゅうたちのいるところ』『マリッジ・ストーリー』などなど

          『Glee』を観て聴いて歌って

           刺繍をしていると考え事が捗る。きのうの会話を思い出してあぁ言えばよかった今度伝えようとか、理不尽な物事についてこういう解釈をしたらハッピーだなとか、前向きなアイデアは刺繍をしていると浮かぶことが多い。椅子に座って針を握って自分以外を覗く……そんな風につくる私の刺繍はきっと、社会であり、思想であり、政治なのだろうなとよく思う。ここのところ無性にモヤモヤすることに気がついた日から、毎日刺繍をするようにしてみると、スポーツのあとみたいに気持ちが晴れてきた。  音楽をかけると踊り

          『Glee』を観て聴いて歌って