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「あんたの命の値段だよ。まだ高すぎるかね」(ゼロが教えてくれた事)

 「ゼロ THE MAN OF THE CREATION」は、愛英史先生が原作、里見桂先生が作画の漫画で、集英社「スーパージャンプ」で1990年から2011年まで連載され、全78巻まであります。


 私にとってはバイブル(聖書)のような漫画、「ゼロから学んだ事」を紹介していきたいと思います。

 北アフリカ・モロッコのマラケシュでモロッコ茶を飲むゼロ。彼がカップに寄ってくる蜜蜂を払っていると「モロッコ茶は初めてですかな?」と老人の男性が声をかけます。

 ハッカの葉をたっぷり入れたカップに砂糖をたっぷり入れて紅茶を注ぐと、蜜蜂が砂糖水に集まってきます。蜜蜂が砂糖水をたっぷり吸い取った頃を見計らって紅茶ごとすすって蜜蜂を嚙み砕く、その時の甘酸っぱさが何とも言えないのがモロッコ茶の醍醐味だと彼は言います。

 ゼロが待っていたのはポルトガル人のボアレ夫人で、彼は執事のアレーじいさん。アレーじいさんの案内で高台の白い屋敷にやってきたゼロ。屋敷ではアレーじいさんの孫のチコが待っていました。チコに呼ばれてやってきたボアレ夫人がゼロを夫の元に案内します。

 部屋に入り、ゼロはすぐに「アンズの匂い」に気づきます。原因不明の病気で臥せっているボアレ氏はモロッコ茶が手放せず、チコが運ぶカップの周りには蜜蜂が飛んでいます。

 ボアレ夫人が「これです」と言ってゼロに見せたのは「イブ・ユーマのダイヤの原石」です。これを手にしたものは病の床に伏し、やがて発狂して死ぬと言われており、ボアレ氏の前に所有していたクウェートの石油王も兵士に殺されています。

 そんな状態にあってもダイヤを手放そうとしない夫のために、ゼロにダイヤのコピーを作ってほしいと依頼します。そして本物を処分すれば呪いは消えるはずだと。

「断っておきますが、私が作るものはすべて本物です。呪いが消えるとは限らない」

 ゼロはそう言って原石を預かりました。車に乗り込んだゼロはアレーじいさんに「カサブランカへやってくれ」と指示します。車を走らせていると、数人の暴徒がやってきて車を滅茶苦茶にされ、ユーマの原石を奪われました。

「単なる暴徒じゃない。征服された民族が征服した民族への血の怒りのような怨念だ……」

 ゼロが原石を持っているのは一部の人間しか知りません。襲われたのは原石の謎を暴かれては困るから。

「だがそれならば、この計画は失敗だ。なぜなら、一度私の目に焼きついたものは決して消えない。原石を奪うより私を殺すべきだったのだ」

 スイス・アルプス山中の別邸にて制作に取り掛かるゼロ。モロッコの北部・シャウエンという町は、植民地政策に貪欲なポルトガル人の侵略から守るためにイブ・ユーマという聖者によって造られましたが、その後ポルトガル軍が攻め入って制圧。

 聖者ユーマは、兵士たちの手によって生きたまま燃え盛るモスク(寺院)の中に投げ込まれてしまいます。ポルトガル軍が去った後、シャウエンの民によって、ユーマが焼死した辺りで発見されたのがこの原石です。

 イブ・ユーマが聖者になる前に、モロッコ全土を旅しながら修行した時に見つけた原石をお守りとしていたというのが通説です。しかしシャウエンの民は違う見方をしました。これはイブ・ユーマの怨念が作りだした石であり、ユーマの心臓が凝縮して出来た呪いの石であると。

 そんな考えを巡らせていたゼロは「そうか!」と気づきました。ポルトガル軍がシャウエンを征服したのは520年前の今日。「しまった!」急いでモロッコのボアレ夫人に電話をします。

「今日、ご主人にモロッコ茶を出しましたか? 何? 今、少年が運んでいった? ワケは後で話します。絶対に飲ませてはいけない!」

 チコがボアレ氏に渡したお茶を彼が飲もうとした瞬間、「あなた!」と言ってボアレ夫人が入ってきてカップを取り上げます。そしてカップの中身を水槽に注ぐと、中の魚たちが全て死んでしまいました。驚いてカップを落として割ってしまうボアレ夫人。チコは走り去っていきます。

 モロッコに戻ったゼロはアレーじいさんと会って話をしています。ゼロの目の前には、モロッコ茶とその甘さに集まってきた蜜蜂。ゼロは彼に「今日、2月10日は何の日か知ってるかね?」と尋ねます。

 ポルトガル人によって聖者イブ・ユーマが殺された日であり、毎年2月10日に何故かポルトガル人が奇っ怪な死に方をしていると言います。殺された者は皆、先祖がポルトガル植民地政策時代の軍の兵士でした。

 ボアレ氏は偶然ダイヤを手に入れたのではなく、仕組まれたものだったと。そして原石を手にした日の夜から呪いは始まった。

 それは0.001グラムの青酸を水に薄めたものを注射針で蜜蜂の体内に打ったものを、モロッコ茶ごと蜜蜂を噛み砕くボアレ氏が知らずに体内に摂取していたから。0.001グラムの青酸は致死量ではありませんが、人を病の床に伏せさせる事は出来ます。

 実は「イブ・ユーマのダイヤの原石」は粗末な人口ダイヤでした。ユーマの焼死した場所から見つかったというのは作り話で、シャウエンの先祖たちが作ったものだったのです。

 アレーじいさん曰く「代々、その石を負わされたシャウエンの民は、当時の軍にかかわった先祖を持つポルトガル人を殺さなければならない鉄の掟がある」と。

 そして失敗したものは自ら命を絶たねばならないと言って、蜜蜂が入ったモロッコ茶を飲み干しました。しかしアレーじいさんは死にませんでした。チコが毒を盛らなかったのです。

「私はじいさんに会う前にチコと接触したが、毒を盛るなとは言わなかった。言ったところで決めるのはチコ自身だからな」

 チコは過去のしがらみよりも、これからの未来を選択したのです。

 カサブランカ空港にやってきたゼロをボアレ夫妻が待っていました。すると夫妻に乞食の老人が近寄ってきて物乞いをします。ボアレ氏は「汚らしい。触るな!」と言って足で蹴り飛ばしました。倒れた老人の顔に、ボアレ夫人が唾をペッと吐きかけます。

 それを見ていたゼロがボアレ氏に「その額面をスイス銀行のオールゼロの口座へ振り込んでくれ」と言って請求書を渡します。そこに書かれていたのは、たったの「1ドル」だけ。

「何かね、これは?」
「あんたの命の値段だよ。まだ高すぎるかね」
「なんだと、きさま——!」
「あんたの命の値打ちがそれ以上だと思うなら、その額をこの人たちがせめて雨露をしのげるように使ってやることだな」

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