紹介したいnote記事「口紅」
長野充宏さんの「口紅」という記事を紹介します。
表題は「口紅」ですから、女性の恋心を詠んだものかなと想像しました。
しかし、その想像は見事に裏切られました。最後まで読み終えた感想は、「何とも芸術的だな」と。
私はショートショートの短編を書くのが好きで、以前は好んで「世にも奇妙な物語」風の話を書いていました。長野さんのこの作品は正に「濃密に凝縮したショートショート」です。
「私はある日 ドライブをしていた。お気に入りの音楽をかけて、とても楽しい時間だった」
冒頭は主人公の回想シーンです。過ぎし日の思い出を楽しそうに懐かしんでいます。「緑の中を走る真っ赤なポルシェ」が頭に浮かびました。
「山の緑を見ようと車を走らせているときに、持病のてんかんのせいか、その後のことは覚えてない」
てんかんの発作で運転を誤ったのでしょう。事故を起こして、病院のベッドで目を覚ましたのかなと思いました。
「あれから何年経つだろう。誰も来ない谷底で、私は腐敗して行く」
ここでびっくり! 「私は腐敗して行く」と。しかも、事故は数年前の事だと。誰にも見つけてもらえず、一人寂しく横たわっていたのです。この時点で亡くなっているのは明らかで、成仏出来ずに魂は留まったまま。
「寄ってくるのは鳥や虫ばかり。誰か私を見つけてくれませんか。私は何もできないんです」
主人公の魂は、一ミリも動かせない躯に閉じ込められたまま。悲しき訴えは誰の耳にも届きません。
「今の私のお願いを聞いてくれますか」
絶望した主人公が叶えたい望みが一つあります。
「お願いです。誰か私のポーチの中から、鏡を取って」
主人公が一番気になるのは、「今の自分はどんな顔をしているのか」と言う事。女性だから、死して尚も容姿が気になるのでしょう。せめて死に顔に口紅を塗らせてほしいと。
最後に「鏡を取って」の一語で終わらせているのが美しいと思いました。
私の小説に「心霊鑑定士 加賀美零美」シリーズがあります。その第1巻の第8話に「血だらけの訪問者」と言う短編がありまして、このnoteでも発表しています。
この物語は、私の知人から聞いた話を元に書いています。私の知人は霊が視えるという体質で、彼の学生時代の友人にもそういう人がいました。その友人の元に、山で事故に遭った青年が訪ねてきたと言います。
その人はバイクで事故に遭い、亡くなってしまったと。しかしそこは、誰にも見つけてもらえそうにない山の中なので、両親に自分が亡くなった事を知らせてほしいと頼んできたのです。
もちろんその人は、彼が亡くなった事を理解していますし、何とか力になりたいと思って言われた住所に訪ねていったそうです。
ところが、小説にも書いた通り、ご両親は息子が亡くなったと言われても信じる事が出来ません。信じてもらえないのは無理もないと、その家を後にしたわけですが、一週間後に連絡がきたそうです。
「警察から息子が亡くなった事を知らされた」と。
この詩の主人公も、いつか見つけてもらえる日が来ると良いですね。
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