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「こころ」の指南書!『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(東畑開人さん著)

大人の読書感想文6冊目は、紀伊國屋じんぶん大賞受賞の臨床心理士・東畑開人さんの『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』。

心理士として15年、こころの問題に向き合ってきた東畑さんは、現代に生きる私たち一人ひとりを「大海原に放り出された小舟たち」とたとえている。

そして本書のテーマは、小舟はいかにして方向を見出し、いかにして航海をしていくのか。言いかえれば「この自由で過酷な社会をいかに生きるか」である。

私は最近「人のこころはどのようになっているんだろう?」と興味を持っていて、心理学に関する本を読んだり、音声配信サービスを聞いたりしている。

こころはとてもパーソナルで複雑なもの。目に見えないからこそ分かりづらい。誰かに理解してもらえることもあれば、齟齬が生じてしまうこともある。自分のこころでさえ、自分でよく分かっていないこともある。

心理学のエキスパートである東畑さんなら、専門家の視点からこころについて分かりやすく教えてもらえそうだ。

私はカウンセリングを受けた経験はないけれど、本書を読んでいると、東畑さんとカウンセリングルームでゆっくり話をしているような気持ちになる。

いくつか心理学の用語も出てくるが、分かりやすく解説されているので読みやすい。心理学に関する記述で私が特におもしろいと思ったのは、イソップ寓話の「すっぱいブドウ」の話である。

あらすじは次の通り。
高い木になっているブドウを見つけたキツネが、ブドウを取ろうと何度もジャンプするが届かない。最終的にキツネは「このブドウはすっぱいに決まってる。ジャンプ力がなかったおかげで食べずに済んで良かった」と思うことで自分の心を守るという内容だ。

このようなこころの守り方を心理学では「合理化」という。合理化は心が勝手に作動しているもので、私たちもキツネと同じように、自分なりのやり方でこころを守りながら過ごしている。

言われてみれば私にも思い当たるふしがある。学生時代の就職活動で、ある企業の社長面接まで進んだものの不採用になったときのこと。

「内定をもらえるかもしれない」と期待していた私は不採用の知らせを受けてとても落ち込んだ。しかし、実は面接のときに社長のことを苦手に感じていたので「もしあの会社に入社しても苦労していたに違いない」と思うことで、どうにか立ち直ることができたのだ。

その後、私はあきらめずに就職活動を続けて、第一志望の企業から内定をもらうことができた。

あのときの私は、無意識の思考によって自分のこころを守っていたのか……。人間というのはつくづく興味深い生き物だ。

ちなみに本書では、適切なこころの守り方と不適切なこころの守り方についても解説されているので、知りたい方はぜひ読んでみて欲しい。

また、本書にはいくつかのこころの問題が具体例として取り上げられているが、それらは特定の一人の問題ではなく、誰が遭遇してもおかしくない問題だ。そう思うと、いっそうこころへの関心が高まる。

こころについて知ることで自分や他者への理解を深め、人生をよりよく生きたい。

そう思っている私にとって、本書はまさに「こころの指南書」であり「読むセラピー」である。

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