京大児童文学研究会かみふうせん

京大公認の児童文学サークル、かみふうせんです。児童文学に限らず本が大好きな人たちの集ま…

京大児童文学研究会かみふうせん

京大公認の児童文学サークル、かみふうせんです。児童文学に限らず本が大好きな人たちの集まりです。2024年度も新会員を募集しています!

マガジン

  • 紙風船 百人一首企画

    「百人一首の中から選んだ1首をモチーフにした1000字以内の短編」というお題で書かれた作品たちです。

  • 小説

    過去のかみふうせん会誌から、会員のオリジナル小説を掲載しています。バラエティに富んだ物語の世界をぜひご覧ください。

最近の記事

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3/26~3/28の京大11月祭で販売する紙風船正会誌のご紹介

開催が延期されていた京大11月祭が、3/26~3/28にオンラインで開催されることが決定しました。紙風船もこれに物販という形で参加します。(購入はこちらから→https://nfonline.theshop.jp/items/41423792) そこで本記事にて、販売する予定の紙風船正会誌の中身をちょっとだけご紹介させていただこうと思います。 集まった作品は全部で8つ。普段は様々なジャンルの作品を執筆している部員たちですが、本会誌ではあえて「児童文学」にジャンルを限定しま

    • 2024年度も会員募集中です!

      こんにちは。かみふうせんでは、2024年度も新しいメンバーを募集しています。もう少し暖かくなったら、読書会や本屋巡りなど、春の企画がいくつかあります。新入生も、何年生でも、大歓迎です。新たな出会いを楽しみにお待ちしています。

      • 超簡単!正方形コピー本を作ろう

        本記事では、できるだけ低コストでできる中綴じ正方形コピー本の作り方をご紹介します。とてもお手軽に出来るので、自分だけの一冊を作りたいという方や眠っている原稿があるという方は、ぜひチャレンジしてみてください。 ○必要なもの ・原稿(Wordファイル) ・プリンター ・コピー用紙(A4) ・表紙用の紙 ・木工用ボンド or 両面テープ ・ペーパーカッター(なければ定規とカッターとカッターマットで代用できます) ・厚地用の裁縫針 ・糸 では早速作っていきましょう。まずは印刷する

        • [小説]朝ぼらけ有明の月と見るまでに(文・こはく)

           もう無理なのよ。耐えられないの。女がぽつりと言った。  そんなこと言わないでおくれ。男は喉の奥から声を絞り出した。 でも耐えてくれとは言えない。苦しんできたのは知っているから。 それでも言葉にされたら胸が苦しい。息が詰まる。鼻の奥がつうんとなる。女の面が滲んで見えない。頬が濡れる。顎から滴り落ちる。  あなた、干からびてしまうわよ。女が男の頬を包み微笑んだ。  いっそ干からびてしまえたらいいのに。男は心の底からそう願った。 女は頭を振る。それでも笑んでいる。共に生

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        3/26~3/28の京大11月祭で販売する紙風船正会誌のご紹介

        マガジン

        • 紙風船 百人一首企画
          10本
        • 小説
          15本

        記事

          [小説]人はいさ心も知らずふるさとは(文・佐藤楓)

           虫刺されの薬の匂い。ガソリンスタンドの匂い。桜の花が散ったあとの地面の上を歩くとうっすら感じる桜餅の匂い。怪我をした足元の湿布の匂い。濡れたコ ンクリートの匂い。私、どれも好き。でも、私が一番好きなのは、あの人から香る香水の匂いだと思うの。ブランドにはあまり詳しくないから何という名前なの かは知らないけれど、ほんのりと甘くてあの人によく合っている。  あの人がどこかに行ってしまってもう二週間。いつもなら三日に一度はふらりと私のところに帰ってきて、ニヤニヤしながら私を見つめ

          [小説]人はいさ心も知らずふるさとは(文・佐藤楓)

          [小説]忘れじのゆく末まではかたければ(文・待野日和)

           今日、僕と妻の時間が止まった。僕が妻の名前を呼んで、それに応えて、妻が、「どうしたの?」って聞きながら、少し照れくさそうに笑い返す。そうしたささやかな幸せをかみしめることももう二度できないのだ。無論、こんな日がいつかはやって来ることは覚悟していた。しかし、この日が本当にやってきたときの苦しみは、そんな覚悟なんて塗りつぶしてしまうぐらいに、気味悪く真っ青に僕を染め上げてしまったのだった。  いっそこのまま、妻と死んでしまおう。そしたら、この苦しみから逃れて、永遠に妻との無数

          [小説]忘れじのゆく末まではかたければ(文・待野日和)

          [小説]白露に風の吹きしく秋の野は(文・掘炬燵)

          「俺、たぶん明日消えるよ。」  朝の食卓。向かいの弟が事も無げに呟いた。目玉焼きの黄身を潰しながら。 「・・・あんたメンテナンス行かなかったの?」 「だって予報出たの昨日だったじゃん。無理無理。忙しかったし。今日も用事。」 「じゃあシェルター行けば?」 返事がない。テレビニュースが明日の「波」発生予想時刻を伝えている。 「俺はもういいや。」  翌日早朝、弟は私を散歩に誘った。家族でよく出かけた野原へ。これが弟の最後の要望になるのだろう。いつからか、私達は不定期

          [小説]白露に風の吹きしく秋の野は(文・掘炬燵)

          [小説]天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ(文・あやせ)

           笛吹と踊り子。  二人は拍子を重ねあい、互いの存在を確かめる。  御簾に隔てられ、たとえ姿は見えずとも、拍子の重なる感覚は互いの息遣いを耳元で感じるに等しい。ひとたび同じ節に身を委ねれば、二人を引き裂いた空白の季節さえ満たされていく。  踊り子の髪がまだ腰に届かぬころ、楽師の少年と公卿家の姫を隔てるものは何もなかった。幼い二人は無垢な太陽のもと、幾日も同じ旋律を奏で、音楽をともにした。  春の桜も、夏の深緑も、秋の紅葉も、冬の銀世界も、すべてが二人の舞台だった。

          [小説]天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ(文・あやせ)

          [小説]来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに(文・橘義海)

           磯の香りが鼻腔をくすぐる。鏡面のように静まり返る水面が、沖に行くにつれて淡い紫に染まる。一日に一度瀬戸の海に訪れる、この夕凪の時間。空気がどこまでも静かに澄んで、町が同じ色に溶けていく中で、落日の朱色だけがぎらぎらとうるさい。  家族と喧嘩をして、一人家を飛び出してつい海の方まで来てしまった。感傷に浸っていると、「藻塩、藻塩」と私を呼ぶのんきな声が飛んできて気分を台無しにした。私は振り返りながら、刺すように言う。 「名前で呼ぶのやめてって言ったよね」  私は自分の

          [小説]来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに(文・橘義海)

          [小説]やすらはで寝なましものをさ夜ふけて(文・ちたちたひかる)

           確かに、私のした行動は軽薄であったかもしれない。しかし、私に期待すること自体どうかしていると私は言いたい。Fは、私という人間の本質を何も分かっていなかったのである。  春のサークルの新歓コンパでFとは出会った。Fは春にサークルに新たに入ってきた一回生である。初対面の時からFは矢鱈と私に好意的であった。頻繁に向こうから連絡が来たし、二週間に一度は「食事でもどうですか?」と誘われた。私には一応交際中の女性―仮にTとしておく―がいるから、最初の内は用事があるなり課題が忙しいな

          [小説]やすらはで寝なましものをさ夜ふけて(文・ちたちたひかる)

          [小説]君がため春の野に出でて若菜つむ(文・苹果)

           あ! 巣穴から顔を出した兄さんきつねは叫んだ。巣穴の外は、昨日とは様相が打って変わっている。一面真っ白だった地面には、雪が解けて丸く土が見える場所が何か所もでき、白地に茶色の斑点模様のようになっていた。その斑点の真ん中には、かわいい黄緑色の芽が必ず生えている。春が来たのだ。  これは体を温める葉。これは震えを止める葉。 兄さんきつねは必死になって、出てきたばかりの草の芽を摘んだ。  それから、これは君の好きな花。まだ蕾だけれど。 巣穴の中では、妹が眠っていた。

          [小説]君がため春の野に出でて若菜つむ(文・苹果)

          [小説]ひさかたの光のどけき春の日に(文・待田灯子)

           誰もいなくなった教室で窓辺のカーテンにくるまった。外からはこれから帰るらしい同級生達のはしゃぐ声が聞こえる。生成り色のカーテンは柔らかな陽光をくるんで、私もろとも中に閉じ込めてくれた。三月の冷えた空気の中に確かな春の気配がある。頬にその気配を感じながら、私は自分の呼吸の音を聞いていた。  美容院の予約があると言って凪沙は先に帰って行った。髪を染めるらしい。卒業したもうその日に染めちゃうの!と興奮した面持ちで語っていた。まっすぐな黒髪、似合っていたのにな。校則に渋々従ってき

          [小説]ひさかたの光のどけき春の日に(文・待田灯子)

          [小説]今来むといひしばかりに長月の(文・月村麦)

           電話を切った後、姉さんは眉を下げ、それでも僅かに弾む声でごめんねと言った。  彼、今から来るって言ってるの。 「いいよ」  僕はソファから立ち上がり、財布と携帯だけを持って玄関に向かう。 「終わったら、電話して」  適当なネットカフェに入り、紙コップのコーヒーを手に席に着いた。夜が明けきるまで粘ることになるだろう。たっぷりの氷で早くも薄まった苦味を、お酒みたいにちびちびと啜る。  姉さんの言う「彼」は、僕の高校時代の同級生でもある。今は実家から地元の大学に通

          [小説]今来むといひしばかりに長月の(文・月村麦)

          あけましておめでとうございます! 2021年の紙風船は、1月17日の文学フリマを皮切りに、文学を通して人と出会える年にしていこうと思います。また、明日からお正月企画として、部員が過去に書いた「百人一首モチーフの短編小説」を連続掲載する予定です。そちらもぜひよろしくお願いします。

          あけましておめでとうございます! 2021年の紙風船は、1月17日の文学フリマを皮切りに、文学を通して人と出会える年にしていこうと思います。また、明日からお正月企画として、部員が過去に書いた「百人一首モチーフの短編小説」を連続掲載する予定です。そちらもぜひよろしくお願いします。

          [小説]佐藤楓「断電」

           わたしはあわててゲームボーイのソフトを探しに屋根裏部屋へと飛び込んだ。ゲームボーイは充電式ではなく、電池式なところが今日から始まる断電にはうってつけなのである。ゲームボーイが流行っていたころ、まだわたしは生まれていなかったので、父が幼い頃に集めたらしいゲームカセットの山をがちゃがちゃと漁る。ホコリまみれのそれらは果たしてまだ動くのだろうか。 「ハナエ、選びおわったんなら降りてきてちょうだい。アイスを食べちゃいたいの」  跳ね上げ式のはしごの下から母が声をかける。下は下で

          [小説]しらあえ「ゆめのはなし」

           きっとすぐに忘れてしまう。        *  わたしは、いい子だから夜の十時にはおふとんに入る。おとうさんとおかあさんはもう一緒に暮らしていないけれど、誰に言われるともなく、かってに体がおふとんに吸い寄せられてくの。  みずいろのシーツと掛け布団は、海みたいでお気に入り。いつだっけ、昔、青いふとんの上で泳ぎの特訓をする親子の本を読んだことがあったなあ。おそらくそれ以来、わたしは寝床を海に見立てるのがすきなのだ。  白いまくらに顔をうずめると、ふとんから声がした。 「や

          [小説]しらあえ「ゆめのはなし」