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ほうれん草と空と雨と傘

日本のビジネスマンの「いろは」とでもいうべきほうれん草。ロジカルシンキングの最初に教わる空・雨・傘。2つとも言葉は牧歌的だが内容は極めて即物的だ。今回はそれらの関係について考えてみたい。

報連相は極めて有効な行動指針となりうるが、行動について自分の意見を述べることに関する言及がない。そのため単なる事実報告に陥り、スピード感のある意思決定と実行のためには一手足りなくなる恐れがある。

空雨傘をほうれん草の考え方に組み込むことで、早い意思決定と自律的な組織運営につなげることを提案したい。

ほうれん草(報連相)

報連相と空雨傘 (1)

まずはほうれん草について。日本で働く人であれば一度は聞いたことがあるのではないか。報連相すなわち報告・連絡・相談のことだ。シンプルな内容であるが、報連相が大事といまだに言われ続けているのは、逆にそれだけ実行は難しいということでもあろう。奥が深い。

報告
部下が上司の指示に取り組みつつ、途中経過を報告すること

連絡
自分の意見や憶測を含めない関係者への状況報告

相談
自分だけで業務上の判断が困難なとき、上司に意見をきくこと

情報共有を密にし、上司やまわりとコミュニケーション量を多くして仕事を進めていきましょう、ということだ。上意下達の旧来型日本型経営でも有用だが、ポストコロナにおけるリモートワークやジョブ単位での働き方を効率的にするには、改めてコミュニケーション量を維持する、価値ある考え方といえるのではないだろうか。

「ほうれん草」という一回聞いたら忘れられないフレーズで、究極的に基礎的なことを説明しきっている。自分が部下の立場で報連相できているか/上司の立場で報連相しやすい環境を作れているかは、常に自戒すべきである。

悪いニュースほど早く伝えろ

佐々淳行の危機管理の考え方の中で、「悪いニュースほど早く伝えろ」というものがある。悪い事象が発生した現場に居合わせたら、とにかく早く伝える。数字の正確性や今後の見通しも待たず、まずは「何か起きている」ことだけでも知らせることに価値があるという考え方だ。

あわせて、悪い報告を受けた上司は決して報告した部下を怒ってはならないというルールもある。こちらがより重要だ。悪い報告をしたときに怒られた部下は、その後からは悪い報告をしたがらなくなるからだ。

よいニュースの伝達が遅れることで滅びる軍隊はないが、悪いニュースの伝達が遅れることで滅びた軍隊は枚挙にいとまがない。ほうれん草の大事さはこんな当たり前のこと、そして放っておくと守りにくいことにあるということだろう。

空・雨・傘

報連相と空雨傘 (2)

転じて空・雨・傘だ。問題解決のためのシンプルなフレームワークで、ロジカルシンキングに関する書籍を開けば必ず載っている。


事実に基づく状況把握


状況に対する自分なりの解釈


その解釈から導きだされる行動

状況→解釈→行動だ。そして、問題解決は行動がなければ決して達成されないのだから、空から始まり雨→傘と思考を進めなければ、問題は解決しない。

逆にも使える。ある行動や意思決定をしようとするとき、それが正しいのか?他に選択肢はないのか?と雨、空とさかのぼることで初めて検証と評価が可能となる。

So Whatで状況から解釈、行動へと移し、Why So で雨、空にさかのぼる。それが問題解決のための思考として設定されることで極めて有効なツールとなる。また構造がシンプルで理解しやすいためコミュニケーション手段としても有効だ。天気が曇りで雨が降りそうなので傘をもって出かけましょう。わかりやすい。

ここで一つ留意点。
空・雨と傘の違いは明確だ。空・雨は認識であり、傘は行動だからその2つを取り違えることはない。取り違えるとすると「もう少し詳しく状況を探る」や「慎重に検討する」など、行動のようで認識に関する意思決定をしている場合だけだろう。

空・雨は一見、事実と解釈だから違いは明白に思えるが、そもそも事実に関する認識には常に主観が混じる。天気が曇り、という曇りは空の面積の何%が雲であれば曇りなのか、定義と照らしているだろうか?雨が降ると思いたいために、空を曇りと断定していないだろうか。認識のゆがみをなくすことは人間にはできないため、認識がゆがむことを受け入れたうえで、自分の事実認識に常に疑いをはさむことが重要だ。

(ちなみに、曇りの定義は「全雲量が9以上(空の10分の9)であって、見かけ上、中・下層の雲が上層の雲より多く、降水現象がない状態」だそうです。ご存じでした?)

報連相と空・雨・傘

さて、報連相と空・雨・傘を比較してみたい。

図1

単純に並べてみると、一対一対応をしているわけではないことがわかる。もちろん報連相は所作であり、空雨傘は思考のフレームワークだから、必ずしも一致している必要はない。しかし、それぞれがどれを対象としているかは認識しておくと便利だろう。

これが一致していないことは、日本でビジネスをするうえで、空・雨・傘があいまいなままコミュニケーションがとられているケースが多いことを示唆している。体感としては、ほぼ間違いなく大多数の組織でそのようなコミュニケーションがとられている。

報告・連絡と空・雨

報連相と空雨傘 (3)

報告・連絡が対象としているのは主に事実関係だ。そこに雨=解釈が入っている場合もあるが、解釈の有無はあいまいだ。優れたビジネスマンであれば、報告・連絡の中で空と雨を明確に切り分けて伝えているかもしれないが、個人の技量に任されている。実態としてはそうでない場合が多い。事実を伝えているつもりで部分的に主観が入っていたり、意見が入っていたり、といったところではないだろうか。

営業日報などで、顧客ごとの対応策などを記入しているケースもあるかもしれない。それらは多くの場合、状況→対応がほぼ自動的に決まる場合(値引きを要請されたので見積もりを再検討する、など)であって、いわば状況と行動が常に一致するケースだ。

ここでの要点は、報告・連絡時に空と雨を分けて伝えるべきであることだ。そして多くの場合、雨がない場合が多い。So What? その情報が何を意味しているのか?を常に意識し、併せて報告ができると質の高い報告・連絡ができるだろう。
もし自分が上長であれば、雨を含んだ情報を部下に求めることで、部下自身の考える能力を高めることができるだろう。

相談と傘

報連相と空雨傘 (4)

意識の差が如実に出るのが、「相談」と傘の関係だ。「相談」という言葉でどんな会話を想像するだろうか。
「~という問題で悩んでいるんですが、どうすればいいでしょうか」ではないだろうか?
ここでは、相談者は傘を持たず、上長に行動を考えてもらう姿勢になっている。あるいは意思決定を上長にゆだねないにしても、意見をもらう、指摘をもらう・・・などの相談であれば、具体的行動を提案し、承認し、となるためにはあと2,3ステップ必要となるだろう。その分意思決定は遅れていくことになる。

もちろんそうでない相談もあり得る。「~とすべきと考えていますが、よいでしょうか」という相談の仕方だ。普段からそのような相談がされる文化がその組織にできているのであれば、業務の効率は相当高いといえるのではないか。そしてそのような組織は相対的に少ないといえるのではないだろうか。

リクルートでは「お前はどうしたいの?」とよく問われるそうだが、まさに空・雨を傘に変える言葉だ。それが普段から使われる組織は(働くことは大変だろうが)、強いし、成長もできるだろう。

報連相をこう使う

報連相という考え方自体に問題があるわけではない。コミュニケーションの頻度を上げ、適切な情報共有と決裁権限者を巻き込んだ意思決定をすることは有用だ。そこに空雨傘を盛り込むことでよりスピード感のある意思決定と行動に結び付けたい。

具体的には以下の2点だ。

図1

報告・連絡する際に、空と雨を区別し、できれば雨を加える
相談する際には、自らの傘を持ち、意見を求める

報連相に雨と傘を入れたコミュニケーションを標準形にすることで、組織の力は確実に高まるだろう。

なぜ報連相に雨と傘の概念が希薄なのか?

解釈をしたい。報連相には雨と傘の概念が希薄であった。報連相という概念が生まれたのは諸説あるようだが、1960年代から80年代のようだ。時代的背景として高度成長期であり、昭和の大量生産・大量消費を前提とした漸進的な生産活動が求められていた。

このような事業の状況においては、部下に求められるものは自らの解釈やオリジナリティのある意見・行動ではなく、上長から命じられた方針に忠実に行うことだった。一方で意図せぬトラブルや状況の変更が起きた場合には即座に伝え、トップダウンで軌道修正を行うことを求められていたといえよう。
そのような背景に生まれた報連相だと考えれば、自らのアイディアを盛り込んだり意見を求めることについて、否定的とは言わないものの、無自覚であることに合点は行く。

時代は変化し、先行きの見えない時代となった現在においては、ビジネスマン一人一人が自律的に考え、状況の変化に合わせて現場で考え、行動に移している素早い対応が求められる。そのためには空雨傘の概念が極めて有効だ。

ただし、自分だけで空雨傘を行い、独断専行をしていては周りとの連携ができず適切な意思決定ができない恐れもあるし、組織としての力を十分に発揮できない可能性も高い。
だからこそ、報連相と空雨傘をミックスした行動指針で業務遂行することを推奨したい。

神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/