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漫画のキャラに聞き上手がいた

先日、「漫画のキャラに聞き上手がいない」というnoteを書いた。

記事に対して、いろいろな方から、この漫画に聞き上手がいる!とメッセージをいただいた。知らない漫画がたくさんあったし、知っている漫画でも、言われてみれば確かに・・・というものもあった。

紹介された漫画をそれぞれ読んで改めて思ったのは、「聞き上手」のイメージが人によって大きく異なるということ、しかしながら共通点があることだった。そして、自分の聞き上手のイメージがいかに不自由なものだったかに気づかされた。

紹介された漫画たち

「聞き上手」が出てくる漫画として紹介されたものたち。

課長島耕作 島耕作

これは作者の弘兼先生が、島耕作を聞き上手だと言っているとのこと。ということで聞き上手の本まで出されていた。

https://books.rakuten.co.jp/rb/5545326/

とはいえ、実際読み直してみたところ、島耕作が人の話を聞いているところはほとんど出てこない。いい人ではあって、思うことを割と正直に言うタイプではあるが、、余計なことを言いまくっている。でも結果として、すべて物事がうまく回っている。謎。この聞き上手の本は、そういう意味で未知の概念がふくまれているのかもしれない。読んでみねば。

寄生獣 ミギー

主人公の右腕に寄生する知的生命体であるミギー。人間の感情を共感しないのだが、対話は知性的で論理的だ。その分、相手のいうことを否定せずにいったん受け止め咀嚼する意味で、確かに聞き上手だ。

リエゾン -こどものこころ診療所- 佐山先生

精神科医の先生。風変りだけど、相手の立場でものを考え、対等の立場で話を聞いている。理想的な先生だ。ただ漫画の中ではストーリーがぐいぐい進んでいくので、話を聞いているシーンそのものはほとんどない。

銀座からまる百貨店お客様相談室 

百貨店のクレーム処理係を舞台にした漫画。クレーム処理なので、お客様のお話を聞くことがメインの漫画。ただ、あまりにも設定とキャラクターが面白いので、普通に話を聞く場面はほとんど出てこない。でも結果としてはお客様は皆さん満足されて帰っていく。よかった。

スラムダンク 水戸洋平

スラムダンクだ。自分は安西先生が聞き上手でないと指摘をしたのだったが、主人公である桜木花道の中学からの親友である水戸洋平が聞き上手だと推薦が来た。確かに彼は、桜木の考えを理解し、受け止めて、暖かいまなざしで遠くから見守っている。しっかり話を聞いていなければできないことだ。確かに聞き上手なのだろうと思わせる行動が随所にある。

ちひろさん ちひろ

元風俗嬢で今はお弁当屋さんで働くちひろさん。周りの人たちがそれぞれの問題を抱えていて、ちひろさんとかかわることでちょっとずつ良い方向に向かったり、自分はこれでいいんだ、と思えたりする。ちひろさん自身が誰かの話を聞こうなどと積極的に動くことはあまりないのだが、結果として他者の自己肯定感を満たす役割を果たしている。


マスターキートン キートン太一

浦沢直樹の名作。元傭兵、保険調査員でもあり考古学者でもあるキートンが、世界の様々な場所でトラブルに巻き込まれながらもそれを解決していく。話をじっくり聞くというよりも、様々な思惑を持った人々みんなの考え方と状況をとらえて、悪者以外のみんなが満足する解決策を、すごい身体能力と発想力で実行してしまう。男の中の男。

夜廻り猫 遠藤平蔵(猫)

「泣く子はいねが~」と夜の街を廻り、「おまいさん、悩みがあるね」と悩みを聞く猫。聞き上手というよりは猫であって、ただ善意にあふれているだけの存在。ただひたすらほっこりできる4コマ漫画。

勇午 勇午

誘拐交渉人(ネゴシエーター)の勇午がとんでもない人たちを相手にとんでもないことをやり切ってネゴシエーターの役割を果たすお話。話を聞くをはるかに超える試練や度胸、相手の大事なものを示すことで信頼関係を勝ち取り、交渉を成功に導く。とんでもない。

などなど。。ほかにも、アニメからちびまる子ちゃんのたまちゃんや、ナウシカのユパ様(漫画もあるけど)、魔女の宅急便などを推す声もあった。多くの声をいただき、本当に感謝すると同時に、ただただ漫画が、面白かった。

いろいろな聞き上手がいる

薦められた漫画を読み、それぞれの登場人物の魅力にやられた。そして、全員の個性の方向性が全然違うことに驚かされた。普通に考えたら聞き上手って言わないだろと思われるキャラでも、「私はこの人を聞き上手として推薦します」と言われてから読むと、確かにこの行動は聞き上手だ!といえるものもあった。

ミギーや佐山先生は、どちらかというとちゃんと人の話を聞くシーンが出ているタイプだ。話を受け止め、その裏にある感情も理解して、といったことができる。

一方で、ちひろや勇午などは、人の話をきちんと聞いているようにはあまり見えない。最初から断定的に行動している。ただ、結果としての行動が、人の気持ちを救い、物事をよい方向に導いている。結果としての聞き上手、あるいは天性の才能の持ち主といえばいいだろうか。

夜廻り猫の遠藤平蔵やからまる百貨店のメンバーは、ただ気持ちが空回りしているだけに見えるところも多々ある。余計なおせっかいになったり、完全に相手を誤解していることも多々ある。ただ、その真心が結果として相手の心を救い、絶大な信頼と愛情を相手から得ている。

聞き上手は技術だけではない

ある方のコメントで「漫画だから聞いているシークエンスを切り取っているものが少ないのではないか」というご指摘をいただいた。確かにその通りで、前回も述べたように単純に聞いているシーンを描くと冗長になるので、そのまま描くことは漫画というメディアの性質上難しいということだろう。

だからこそ、漫画を読んで表面に描かれたシーンだけでは出てこない聞き上手があるということ。今回いろいろな方に推薦をしていただいて、それに気づくことができた。

では、推薦されるキャラクターの共通点は何か。それは真心があり、相手の立場を考え、少しでも相手の役に立ちたい、救いたいという強い思いがあることだ。それがあるから、相手も聞き手に対して心を開き、信頼する。そしてそれによって課題が解決されていく。

前回、自分はテクニックとしての聞き上手を使うキャラクターを探してしまったがために、なかなか見つからないと思い込んでしまった。自分の視野の狭さに気づかされ、猛省した次第。

弊社が行う聞き上手=ディープリスニングの研修では、人柄、技術、心構えの中で心構えが最も重要だと説明している。図らずもその点を、多くの方からご指摘された。言い方を変えると、心構えがしっかりしている聞き手の存在があれば、漫画の中でもきちんと読み手にその印象を残すことができるということだ。

現実の人間社会でもそれは変わらないだろう。つまり真心を持って人の話を聞いていれば、必ずそれは相手にも、それを見ている周りの人にも伝わる。そう改めて確信したし、聞き上手をこれからも世に広げていきたいと決意を新たにした。

(それにしても、島耕作が聞き上手、だけは心構えの点でも得心できないので、改めて考えたい)















神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/