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中井精也先生:主観を肯定し、絵を描くように写真を撮る人

エッセイです。2300字程度。

私はあまり写真のことは詳しくないのですが、唯一、「鉄道写真家の中井精也先生のファンです」とは公言しています。
鉄道は特別好きじゃないのに、先生の写真教室に参加してしまうほど好きです。

元々、郵便配達員の友達が中井先生のファン。
私が「写真って難しい、よくわからない」と言っていた時に、見せてくれたのが中井先生の写真でした。

「絵本のような鉄道写真」
私が中井先生の写真を見て、真っ先に抱いた感想が、こちらでした。

正直なところ、私は鉄道写真には、「車両ばかりが前面に出ていて退屈なもの」と言う偏見を抱いていた私。
さらに、写真そのものに「目の前にあるものしか写せない、制約の大きなもの」という認識すらありました。

しかし、中井先生の写真は、景色や花が目立つ写真も多く、「写真って、絵を描くように自由に撮っていいんだ!」と衝撃を受けたものです。
私が絵を描く時にしているような、主題の選択、色彩の選択を、カメラでも自在に行っていいんだよ、ということを教えてくれたのが、中井先生でした。

配達員友に、「すごい! すごい!!」と叫び続け、その直後に中井先生の本を数冊購入しました。

     *

私にとってカメラは疎遠なものです。
初めてまともに触れたのがガラケーのカメラだったぐらいで。

ただ、ガラケーのカメラを触っていたときは、すごく楽しかったのを覚えています。
初めての自分だけのカメラだったから。
理屈がわからない分、自分の感覚だけで露光やホワイトバランスを好きにいじったりして、自分の望むような色彩の写メを撮っていました。

学生の頃には、ポラロイド・SLR680やフジカメラ・チェキに触れ、やがて社会人となりリコー・CX-5というデジカメを手にします。
そのあたりから、「写真を撮るのは楽しいけれど、なんか難しい」と思うようになったのを覚えています。

大学の授業の関係で、記録写真を撮影する講義を受けたことが大きかったのでしょう。
私が受けた講義は、博物館の資料写真の撮影です。
露光やf値といった基本事項を習いましたが、苦痛で仕方なかった。
記録写真は客観性が大切であり、感情といった主観の出る幕はないのですから。

本来、趣味の写真と資料写真は用途が違うのだから、技法を分ければいいだけです。
しかし、以降私は、自分が望むような写真を撮ることができなくなっていました。

お前の主観などいらない、客観だけがあればいい。
大学で、「突き詰めると、自分など要らないんだ」と感じたことが原因だったと、今ならわかります。

     *

配達員友に中井先生を教えていただき、著書を読み、私はガラケーカメラで覚えた楽しさを思い出しました。

「何」を「どのように」撮るのか

中井先生は、ほとんどの著書の初めで、このことを述べられます。
主役を、ダイナミックに撮るのか、ほんわかと撮るのか、スタイリッシュに撮るのか、ゆるく撮るのか。
それを決めることの大切さを思い出しました。

そして、こうもおっしゃっています。

「いい写真とは、撮影者の気持ちが伝わる写真」

これを読んだ時、私は気付かされました。
高校生の私が楽しんでいたのは、「『何』を『どのように』撮るのか」という部分だったことを。
そうすると、自然と気持ちも載るはずなのです。

高校生のときに撮影した写真は、理屈も技法もなっておらず、主観まみれで、とても人に見せられない写真だと恥じていました。
しかし、中井先生は「そこから始めていいんだよ」と背中を押してくれた。

望む写真のパターンを瞬時に割り出すため、知識や技術は当然必要。
誰にでもテーマがわかるようにするため、伝達するための客観性も大事。
しかし、その前に最も必要なものは、「伝えたいと思う心」だと、中井先生は教えてくれたのです。

中井先生は、主観を肯定します。
実際、中井先生の写真は、
・主役=鉄道を見せるため、
・先生が「綺麗」「面白い」と感じたこと
という主観を元に、景色をファインダーに収めています(無論、中井先生はプロなので、設定数値や定番の構図等のパターンは熟知していますし、だからこその作風の広さがありますが、大事なのは心だと教えてくれました)。

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2020.11.30 筆者撮影(IPhone 10S)

先生の写真教室に参加したのは去年でしたが、それ以降は数値や技巧ではなく、撮りたいものを、自分の好きな表現で撮れる心を取り戻しました。

     *

今年の初秋、中井先生が『もう一歩写真が上手くなるコツ カメラは魔法の小箱です』(玄光社)を上梓なさいました。

カメラの本ですが、テクニックが満載のハウツー本というよりは、先生の思考のエッセンスが詰まった、啓発タイプの本です。

私は最近、主観と客観に悩んだ時はこの本を開くようにしています。
この本は、「写真だけでなく、文章や絵の表現者も応用できる本」だからです。
構図やモチーフの取捨択一の話は、そのまま文章でも絵でも応用が効きます。
「どうすれば伝わるか」と思った時は、パラパラと気になるセクションを読んでいます。
そうして思い至ったのは、

主観を捨てれば客観的になれるわけでもない。
主観を肯定しなければ、伝えたいことも伝わらないし、苦しいだけ。

ということでした。

中井先生が本と写真を通して私に教えてくれたことは、自分であっていいということ、自分を受け入れる方法でした。
そして、他者とのちょうどいい距離の取り方も、教えてくれました。
楽しく写真を撮れる私を取り戻してくれた中井先生に、私は心から感謝しています。

イラストは、猫野サラさんの『夕凪シリーズ』よりお借りしました、写真家の宮田さんです!(漫画超面白いよ、読んで!!
宮田さんが静のありのままを受け入れ、心を溶かしたように、中井先生は私の心をほぐしてくれました。

[2020.12.07]
当記事で特にスキをいただきました、ありがとうございますm(_ _)m

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