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襷に詰まった男たちのロマン

「繋げる、ただひたすらにこの襷を」

2021年1月3日、第97回箱根駅伝が駒澤大学の総合優勝で幕を閉じた。関東学生連合を含めた全21チームで争う、日本の正月を彩る最大のスポーツイベントである。もはや駅伝ファンでなくても、この箱根駅伝を知らないものはいないだろう。3大駅伝の1つである箱根駅伝。その他の2つは出雲駅伝、全日本駅伝。こちらは意外と知られていない。いずれも陸上競技における駅伝という種目である。

各校には、それぞれの想いのこもったものがある。襷である。それも各校のこれまでの辿ってきた長い長い歴史が刻まれた襷。過去96回、長い大学であれば96年もの間、その襷を下級生に渡し続けたのである。大学生の男たちが互いの伝統のプライドをかけて、己の脚と身体、そして鍛え抜かれた精神とともにフィニッシュのゴールテープを目指す。なんともシンプルな競技だ。ここ最近は厚底シューズと呼ばれるような武器も出ており、かつてのような人間の能力のみならず、スポーツ科学やバイオメカニクスとよばれるような様々な分野において、人間の能力を最大限に伸ばそうとしている。しかし、結局は今日という日までに費やした時間と練習の量、そして質、当日のレースの流れ、選手のコンディションなど様々なものが結果を左右している。そして、何よりも運というものも大きな影響を及ぼしている。ただ、どの大学も一番強い思いを抱いているのは『襷』に対してだろう。最終学年の4年生にとっては、自分の4年間の集大成を示す襷。箱根路を走れなかった同級生、これまでともに闘い卒業していった先輩、応援してくれる家族や部員の仲間たち、今までの全ての指導者。自分の人生の全てに関わってきた人たちの想いを込めた襷。4年間でたった4回しか走れない、たった4回しか繋げることができない襷。次の世代に向けて送るエールとしての襷。たった150㎝から160㎝程度のあの薄い布に沢山の想いが込められているのである。これをロマンと言わずに何と言おうか。何も考えなければ、ただの布なのである。しかし、それまでの過程が全て詰まったあの襷には、表現のしようがないほどの熱い魂が宿っているようにも思える。それは全出場校21校だけの魂ではない。これまでの陸上人生を込めた全ての、全ての魂。美しい、本当に光って見えるくらいである。彼らが次の走者に向かって、襷を拳に巻き付けて天に突き上げた光景、この時が一番光って見えるのである。汗なのか、涙なのか分からないが、そこに雫のようなものが見える。もちろんそれは幻想に近いものではあるが。その雫は次の走者の光となる。そして、その光が走者に力を与えてくれるのだ。本当に美しい瞬間である。その光は、フィニッシュ地点のゴールテープを切ったときに一旦役割を終える。また、来年箱根路で、新たな10人の相棒とともに立つために。彼らに関わる全ての人たちの想いをまた1年、少しずつ刻みながら。再び箱根路の舞台で会うために。襷は、また各校の伝統を作っていく。

~fin~

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