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【読書日記】3/12 詩が生まれるとき。「彗星交叉点/穂村弘」

彗星交叉点
 穂村弘 著 筑摩書房

 街角や電車の中などで耳に入ってきた他の人たちの会話、お店の看板や書名や人名、家族の口癖やインターネット上の書き込みなど、たまたま出会ったことばがあたかも詩であるように見えることがある。
そんな「偶然性による結果的ポエム」について歌人の穂村さんが綴るエッセイ集。

「おにぎりの病院行くよ」
「花だとおもったこともない」
「走るイコール疲れるですよ」
「仮面をあげよう」
「お粥に鰻は合わん」
「今日は、急遽恩返しに行く為、ランチを休ませていただきます」

不可思議な魅力にあふれたことばたち。
 前作の「絶叫委員会」の時も思ったのですが、この本を読むと、ことばのテーマパークに引きずり込まれるような気持になります。
 お化け屋敷のようにぞっとしたり、ジェットコースターのようにドキドキしたり、回転木馬のようにうっとりしたり、ショウのようにコミカルかと思えば不覚にも涙したり。

口唇からふと零れ落ちることば。
誰でもどんな人でも詩人となる瞬間がある。
この本に取り上げられた言葉を発した人たちは大抵の場合、ごく普通の人たちだし、殊更にしゃれた事を言おうとしたわけではないのだと思います。
 ところが、言い間違いだったり、前後を省略したりなどのいくつかの偶然が重なって「たまたま」何とも言えない詩情を生み出した。
それでも、その時限りで跡かたなく消え失せるはずだったそのことばを「たまたま」そばにいた歌人が掬い取ったがために、こうして「詩」として世の中にお披露目された。
 そして、それを読んだ私(読者)の魂を揺り動かす。
「詩」って生まれるべくして生まれるんだなあと不思議な気持ちになります。

明日からまたお仕事です。
仕事の性質上、日々、沢山の人と沢山の言葉をやりとりします。その時に使われることばは、概ね「詩」的要素とは無縁です。それでも、「たまたま」詩が生まれる瞬間が訪れるかもしれない。
そう思うと、人交わりが不得手で会話を億劫に感じるときも多いのですが、少し楽しみになる気がします。