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【読書日記R6】 2/2 「光る君へ」の副読本に推薦したい。「この世をば」と「歴史をさわがせた女たち」

この世をば(上下)
永井路子 著 新潮文庫

※今は朝日新聞出版から出ているようです

令和6年の大河ドラマは「光る君へ」紫式部が主人公です。
私は、最初、その話を聞いたとき、「源氏物語」を劇中劇でやるのだろうと思いました。しかし、「源氏物語」は出さない、とのこと。
ああ、ならば「この世をば」の世界、平安貴族たちの駆け引きを描くのかな、それなら実写で見るのは楽しみだ、と思いました。

「この世をば」は、永井路子さんが藤原道長の生涯を軸に、平安貴族たちの権謀術数のあれこれを描いた長編物語。

小説ではあるのですが、地の文で永井さんがその時代についての解説しているところもあって、小説+評論のような体裁になっています。
この解説、気持ちが現代に引き戻されて物語に入りにくい点もあるのですが、そこまで専門的な知識のない身にはありがたい仕様です。
その都度、系図が添えられていて関係性をおさらいしながら読めるのも良い点です。

「この世をば」を読みなおして、今、ドラマで出てきている人がどんな人でどんな動きをするのかをあらかじめ頭に入れてからみています。
もちろん、原作小説ではないのでドラマの展開はまったく別物なのですが、登場人物が史実では何をした人なのか、という大まかな像はつかみやすいと思います。

ただし、「この世をば」には、ほとんど紫式部の話題は出てきません。主に倫子視点から語られるからです。
その意味で、今の倫子姫(役者黒木華さん)とまひろの関係についてはドラマがどう展開するのか興味深いところです。

さて、「この世をば」を読んでおくと良いな、と思うのは例えば「光る君」で道長と一緒に出てくる公達仲間のこと。
ドラマだけ見ていると、どれがだれ?という感じでごちゃごちゃしますが、どんな人物で今後どのように道長とかかわっていくかが分かると面白味が増します。

藤原公任:当代一の才子で女性にも人気。和歌・管弦・漢詩すべて堪能。彰子サロンで「このあたりに『紫』はいるか?」と声をかけて紫式部の通り名の元となるエピソードの主。役者は町田啓太さん

藤原斉信:道隆から道長へするりと鞍替えした世渡り上手。定子サロンの常連で枕草子にも登場し清少納言とのやりとりが有名。役者は金田哲さん

藤原行成:三筆として字の上手さで後世に伝わる。蔵人頭として一条帝と道長をつなぐ能吏。役者は渡辺 大知さん

道長の生涯にも深くかかわってくる青年たち、これからも注目しています。

そして、私は第4話で即位した花山天皇(役者は本田奏多さん)にも期待しています。
今まであまり映像化されたことのない人物だと思うのですが、「光る君」では良い感じの匙加減(女好きのどうしようもないたわけモノなのか、鋭いところを隠しているのかわからない)で描かれていると思います。
譲位した後も要所要所でことを起こしてくれるので楽しみです。

そして、女性陣で言えば赤染衛門(役者は凰稀 かなめさん)が非常にキリリとした教育係で学者の妻、才女の風格で素敵です。この方もあまり正面切って描かれることの少ない人なので光が当たったのがうれしいです。

脱線しました。
藤原道長といえば、「望月の歌」が有名過ぎて傲慢な人のイメージがつきまとっているのではないでしょうか。
「この世をば」を読むと、兼家の五男(時姫の三男)で、当初はかなり出世競争からは出遅れて将来の望み薄であったことから比較的おっとり型、出世してからも多方面に気配りをしていること(道隆はどちらかというとやりたい放題)など、望月の歌から想像されるイメージとは異なる姿が描かれていきます。

何より道長の人となりを語るのは、「年上の女性に気に入られる要素をもっていたこと」だと思います。
二枚目で女にモテるということではありません。
姉の詮子(円融帝女御、一条帝母)は、明らかにほかの兄弟(道隆・道兼たち)よりも道長を贔屓にしていますし、左大臣家に婿入りできたのは倫子よりもその母・穆子に気に入られたことが大きいとされています。(結婚したころは出世の見込みのない若者だった。一方で倫子は入内も視野に入っていた左大臣掌中の珠)
発言力のある女性たちに気に入られたというのは、「まめ人(実直な人)」としての点が評価されていたのだろうなと思います。(男目線での褒め言葉ではない)
倫子と結婚した後は、二人三脚で朝廷政治を乗り切っていっていますので、そういう点でも当時の平安貴族にしては女性を尊重する気質をもっていたのではないかと思っています。
良い意味で末っ子気質で大らか、かつ兄たちの成功失敗を踏まえて世渡りする要領の良さがあったのではないかと思っています。

そして、「この世をば」を読んで、現代と少なからず共通することがあるな、と思ったのは、この時代、疫病の流行や海外からの侵攻なども多くありました。それらへの対処をそっちのけで高官たちが中央政庁の人事に目の色を変えている有様が描かれていることです
これもまた千年変らぬ国風文化か、と思うと苦笑のひとつも浮かんできます。
ドラマでどのように描かれるかわかりませんが、散楽一座など民の声を代弁する仕掛けをしているようなのでこのあたりにも注目しています。

さて、私は、中学生から高校生にかけて永井路子さんの作品を読みました。
小説は高校に上がってからが多いのですが、「歴史をさわがせた女たち」のシリーズはむしろ中学生の頃に愛読しました。
歴史の授業では、ほんのさわりしか扱われない女性たち視点でつづる永井史観が新鮮で面白かったからです。歴史は多様な角度から見なければ分からない、ということを教えてくれたシリーズです。

歴史をさわがせた女たちシリーズと今回の「光る君へ」と同時代の人物はこんな感じ。

歴史をさわがせた女たち 日本編
 紫式部:高慢なイジワル才女
 清少納言:ガク振りかざす軽薄派
 和泉式部:王朝のプレイガール
 右大将道綱の母:書きますわよマダム ※蜻蛉日記を書いた女性。兼家の妻の一人(道綱は道長の異母兄弟。ドラマでは省かれているのかも)

新・歴史をさわがせた女たち
 藤原彰子の系譜:王朝の長寿VIP
 藤原元子:王朝の落ちこぼれ女御 ※一条帝の女御のひとり。
 
歴史をさわがせた夫婦たち
 藤原道長の場合  婿入り㊙作戦
 大中臣輔親と蔵命婦の場合 ウワナリ打ち事始め ※伊勢大輔の父。道長の子の乳母

私の平安朝イメージはこれらで形作られています。
「光る君へ」がどのように展開していくのか、これらの人々がどのように描かれていくのか、同じところ、かけ離れているところをそれぞれ楽しみにしています。

歴史をさわがせた女たち 中学時代の愛読書

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