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【読書日記】3/14 不器用だっていいんです。「大おばさんの不思議なレシピ/柏葉幸子」

大おばさんの不思議なレシピ
柏葉幸子 著 偕成社

私が昔読んだ本ですが、手芸に興味を持った子供に読みきかせてみたら面白がっておりました。

大おばさんが遺した古い一冊のレシピノートを見ながら手芸や料理に挑戦することにした美奈は、自他ともに認めるぶきっちょさん。

一番簡単そうな「星くず袋」という名前のきんちゃく袋を作り始めたものの、両端は袋縫い、という指示を守らずに大きな針目で縫い上げてしまいます。

出来た!と思ったとたん、変な力で引っ張られ、いつの間にか分厚い帳簿の前に座った眼鏡のおじいさんの前に飛ばされてしまいます。
 袋の出来の悪さにおじいさんは、責任を取れ!とばかりに「星くず袋」を注文した世界へ美奈を送り届けてしまいます。
 その世界の村では、イヌワシ岩の魔女とヘビ山の魔法使いがけんかをしていて、お互いに燃えた星を飛ばしあっているのだとか。その星が畑に落ちてきて作物がダメになってしまうので星くず袋にいれて捨てるとのこと。
どうやら、異世界で作られたものには魔力が宿るらしいのです。
ところが、美奈の手抜きの星くず袋からは、ぽろぽろと星が零れ落ちてきてしまい役に立ちません。
責任を感じた美奈は直談判に行くことにします。
なぜなら、美奈には彼らが星を打ち上げあっている理由が分かったから。
さあ、このトラブルを解決することはできるでしょうか。

美奈が作る残念な作品と異世界での活躍を綴った四つの物語。
大おばさんのレシピ集は、異世界の住民たちにとってはカタログみたいなものらしく、注文が入るとおじいさんがその品物を作っている人を見つけて手配する段取りです。

クレープのタネは世にも恐ろしい魔女の顔を作る「魔女のパック」に。
ショウガ湯は、おとぎ話の舞台裏で出番を待つお姫様専用の「姫君の目覚まし」に。
プチトマトとマッシュルームのピザは臆病な妖精たちが愛を伝える後押しをする「妖精の浮き島」に。
作品の出来栄えは今一つでも美奈の明るい行動力と度胸の良さ、頼もしいやさしさ(おせっかい、とも言う)は一級品。
私は、「姫君の目覚まし」が好きです。物語の登場人物たちが出番を待つ舞台裏の世界、覗いてみたいものです。

さて、久しぶりに読み返してみると、昔は気付かなかったことに目が向きます。美奈目線で読んでいたのがお母さんの方に近くなりました。

美奈のお母さんは、家事は苦手。大おばさん(美奈の母のおば)から結婚祝いにもらったレシピノートを開きもしなかったらしい。
美奈は、友人たちは自分のお母さんから料理や裁縫を習っているから上手なんだ、自分のぶきっちょはお母さんが教えてくれないせいだ、お母さんは料理や裁縫はぜんぜんあてにならない、と文句をいいます。

それに対して「ほかのことではあてになるんだからいいでしょ。昨日の英語の宿題、おしえてやったのはどこのお母さんだったかしら。」とさらっと言い返します。
 本書は、1993年初版です。ちなみに「総合職」一期生が1987年ですから、まだこの物語が書かれたころは女性は結婚したら家庭に入ることが一般的だった時代です。
 美奈のお母さんは忙しく仕事をしていて、男性とも堂々と渡り合っているような描写がありますから、いわゆるキャリアウーマン(死語?)なのでしょう。働く能力とは全く関係のない家事能力について色々揶揄されてきたのだろうな~と思いますが、「家庭科コンプレックスなんて古いわよ」と自分は自分の強みがある、と言い切るお母さん、魅力的です。

なお、私が働きだしたのは、この頃よりも後ですが、それでも「お前みたいなのはどうせ家事なんかできないんだろう」的な物言いをされたものです。学生時代を思い出してみれば女子は家庭科、男子は技術、と分けられていましたね。。。今ではウソのようなホントの話。

それはさておき、この大おばさんのレシピノート、欲しいです。
<竜のよだれかけ>という名のサロンエプロン。
<小人のプール>という名のスイカを入れ物にしたフルーツポンチ。
<こぶたの足袋>というピンク色のミトン
・・・などなど。
昭和の頃にこんなネーミングセンスのメニューのお店あったよなあ、と懐かしい気もしますが、色々と作ってみたくなりますね。

と、いうわけで今日の夜のひとやすみは、久しぶりに読書ではなく刺繍にしましょうか。
ゆったりと手を動かし布や糸の感触を楽しみながら、この作品を作ったら、どんな世界に行けるかな、と勝手にお話を想像するのも楽しそうです。