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【読書日記】5/15 博物館は楽しくて少し怖い。「博物館の少女/富安陽子」 

博物館の少女 怪異研究事始め
 富安陽子 著 偕成社

 みんなのうたの名曲「メトロポリタンミュージアム」。
 ミュージアムの展示品と過ごす不思議で楽しいひととき。でも、最後は、あれれ、この子無事にお家に帰れたのかな???という歌。
 それだけ、博物館・美術館には人の空想力を刺激する何かがあるように思います。

 さて、本書の舞台は明治16年。大阪の古物商の娘、花岡イカルが、両親を亡くし東京の親戚に引き取られます。
 河鍋暁斎の娘・トヨと友達になり、既に絵師として活動しているというトヨについて、上野の博物館を訪れます。その際に、館長に実家で培った目利きの技を見込まれて、古蔵を任されたトノサマ(織田賢司)の助手となります。この古蔵には、博物館が立つ前にあった寛永寺で研究されていた怪異学の関係、呪術に使う品物が多く納められています。納められている、といっても、文明開化の今は、もう無用の長物とばかり、誰にも省みられていないものたち。
 イカルの初めの仕事は泥棒が入ったという古蔵の整理。帳簿と収蔵品のチェックを終えたところ、一点、黒手匣と呼ばれる箱がなくなっていることに気付きます。
 たくさんの錦絵とともに寄贈され、これは「祟り神の匣」であるという。
 この匣の行方をおっているうちに、キリスト教会にたどりつき、長崎の隠れキリシタンにルーツがあるという謂れを聞かされます。
 この匣は何?
 誰がなんのために持ち出したのか?

 江戸から明治に移り変わる時代、日本が急速に西洋化していく、しかし、日本の風習も根強く残る混沌とした空気が興味深いです。
 富国強兵を急ぐあまり、今までの日本文化を捨て西洋化に走る人々。一方で日本の良きものを守ろうとした人々。

聖徳太子ゆかりの地、斑鳩にたくさん住むという美しい声でなく強い鳥、鵤(イカル)。その名を持ち、古道具の目利きイカル、そして友人となった河鍋トヨ(※)もなかなか素敵な女の子なので、この時代の中でどのように成長していくのか、親戚のおばさん目線で楽しみに見守りたいと思います。

※澤田瞳子さんの第165回直木賞受賞作であり「星落ちて、なお」の主人公が河鍋トヨ(暁翠)です。