〔読書日記〕4/15 奇人変人VS普通のひと。「きりきり舞い/諸田玲子」
きりきり舞い
諸田玲子 著 光文社
東海道中膝栗毛 十返舎一九
富嶽三十六景 葛飾北斎
歴史の授業の際、江戸時代の文化人の代表として主な作品名と作者名を覚えたのではないかと思います。
今に残る芸術作品を遺した彼らはどんな立派な人だったのだろうと思いますが、かなり変わった人だったらしいですね。
そして、奇人といえども家族はいるわけで・・・。
本書の主人公は、十返舎一九の娘、舞。踊りが得意で気立てもよい評判の小町娘。目指すは玉の輿!なのですが、問題は父親の十返舎一九。
お江戸広しといえど戯作一本で食べていけるのは一九のみというくらいの人気作家にもかかわらずすべて飲み代に消えてしまうは、奇矯な振る舞いはめだつは、の折り紙付きの奇人。
舞の縁談も次から次へとぶち壊してしまいます。
父親の奇人ぶりだけでも手にあまるのに、一九を上回る奇人の葛飾北斎・・・の奇人の娘、お栄が婚家を飛び出して転がり込んできて、さらに謎の浪人者、今井尚武は、図々しくも入り婿をねらっているようで・・・。
さながら舞の家は奇人屋敷です。
「舞え舞えかたつむり、奇人変人きりきり舞」と奇人よけ(効果なし!)のおまじないを唱えながら、舞は奇人たちに振り回されっぱなしです。
お栄の身の振り方は?、今井尚武とは何者?、一九が舞の縁談を邪魔する理由とは?
そして、舞は玉の輿に乗れるのか???
舞は、至極まっとうな常識人のつもりでいるのでしょうが、奇人に渡り合えるのはやっぱり奇人、なんでしょう。おそらく。
舞は、飲み会で酔っ払い損なったひととか、卒業式で泣くタイミングを逸して泣けなくなったひと、とか、一人だけ冷静な立ち位置に立たざるを得なくなる人の感じですね。
ふりまわされ、こまらされ、腹をたてながらも、彼らのことが大好きでその才も尊敬している舞ちゃん。がんばれ!と応援したくなります。 振り回されるだけ振り回されながら続編も4巻まで出ています。
舞の友人で、奇人の娘仲間のお栄、こちらは舞と違って本人も奇人。
葛飾応為と号する謎の女性浮世絵師として最近着目されています。
あまり情報がないだけに想像の余地があるので、色々な作品のお栄(応為)さんを読み比べるのも面白いです。
本書のお栄さんも愛嬌があって素敵です。
また、戯作者や絵師の人気が高かったり、貸本屋さんが御用聞きでまわってきたり、と江戸の人々は読書好きだったのだろうな、と親近感を覚えます。
他の小説でも取り上げられている御用聞き型の貸本屋さん・・・なんかいいなあ、と思います。うちにも来て欲しい。そして、私好みの本を選んでおすすめしつつ、本談義などつきあってくれたら・・・と夢想してしまいます。
そして、本書の装丁は村上豊さんなのですが、私、この方の絵が、大好きなんです。 (特にたぬきときつねの絵が好き。) 小説は電子版にするか紙版にするか悩むのですが、装丁が好きなものはやはり紙で手元に置きたくなりますね