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アイドルとは誰かの一番になる仕事「神クズ☆アイドル」いそふらぼん肘樹

「アイドルっていうのは『みんな』の一番になるんじゃない、『誰か』の一番になる仕事なんだよ」
 スカウトマンにそう言われてアイドルになった男の子がいる。
 神クズ☆アイドルに登場する二人組アイドルユニットZINGS、その一人である吉野カズキくんだ。

※この記事は神クズ☆アイドル3~4巻の内容、及びComic ZERO-SUM (コミック ゼロサム) 2022年8月号掲載話の内容に触れています。ちょうどアニメが始まったばかりなので、原作未読の方はお気を付け下さい。続きを読むかどうかはご自分の判断でお願いします。

 アサヒちゃんと中身が入れ替わることで性格が急変する相方・仁淀くんの様子に戸惑いながらも、優しく受け入れてきた善の人、吉野くん。
 しかし一人で誰かと会話する仁淀くんの姿を目撃してしまったり、アサヒちゃんを追いかけて信濃芸能に移籍してきた元I'mのリーダー由良チカゲちゃんからとうとう真実を知らされ、ショックを受けてしまう。

 コミックス4巻収録のSTAGE.26及び27は、ZINGSの二人にとって、とても重要な回になっています。
 吉野くんが体調不良で休業することになった間、Cgrassの瀬戸内くんとの番組収録に臨むことになった仁淀くん。
 しかし吉野くんが隣にいないときも彼の頭の中には常に相方の存在があって、それはその様子をテレビで観ることになった吉野くんも同じだった。
 ちなみに推しと二人で共演することになった瀬戸内くんのリアクションの良さもめちゃくちゃいい回なのですが、そこにも触れてしまうと話がまとまらなくなるので渋々割愛しております。

 優秀な姉と妹に挟まれて育ち、一歩後ろに下がってしまう癖がついてしまった吉野くん。
 学校で友だち三人でいるときに自分以外の二人にしか分からない、二人で遊んだときの話をされても「仕方ない」と諦めてしまう。この二人の中で自分が声をかけるポジションにいないから、仕方ないのだと。
 このシーンを始めて読んだときにものすごく心がギュ…となってしまって、多分吉野くんと似たような経験をした方は多いと思うのですが、ここで友だち二人に対して怒ったり拗ねたり憎んだり出来ない、吉野くんの根の優しさが本当に切ないんですよね……。

千曲さん「アイドルっていうのは『みんな』の一番になるんじゃない、『誰か』の一番になる仕事なんだよ」

神クズ☆アイドル4巻 STAGE.27

 当時の吉野くんにとって、千曲さんのこの言葉はものすごく印象的だったと思います。
 ちなみに千曲さんは仁淀くんには「仁淀くんがただかっこいいだけで金が稼げるんだ…!」と言ってスカウトに成功しているので、スカウトしたい対象に刺さる言葉を選ぶのがめちゃくちゃ上手い。信濃社長はもう少し千曲さんを優しく扱ってあげてほしい。

 アサヒちゃんの出現と彼女を取り戻したい由良ちゃんの思惑を経て、仁淀くんと吉野くんは初めてケンカという名の対話をする。

仁淀くん「俺は吉野くんと仕事するのが『普通』になってるんだよ… だからまず一番に…吉野くんが横にいてくれないと困る」
吉野くん「うん…僕もユウくんの隣で仕事して、ユウくんのフォローしたりするのが『普通』になってる…!」

神クズ☆アイドル4巻 STAGE.27

 大切なものを自分たちがすでに手にしていたことに気付くこのシーンが私は本当に好きで、こんないいシーンの前後にもきっちりギャグを挟んでくる緩急の付け方も好きなのですが、ここからの吉野くんのセリフも大好きなんですよ。

吉野くん「横にいる僕のこと一番に信頼して…大事なことはちゃんと相談してほしい」

神クズ☆アイドル4巻 STAGE.27

 誰かと一緒に居てもその人の一番になることを諦めていた吉野くんが、初めて自分を『一番』にしてほしいと主張した相手が仁淀くんで、仁淀くんもまた、吉野くんのことをもう「ただ隣にいる人」だとは思っていない。
 その後のアサヒちゃんからの謝罪も含め、ZINGSがユニットとして改めてスタートすることになった、記念すべきシーンです。

 そして吉野くんと仁淀くんがアイドルとして、ユニットとして新たな一歩を踏み始めた一方で、今回の波乱の原因となった由良チカゲちゃんにも変化が訪れていました。

 アサヒちゃんから親友ではなく、仕事仲間だと思われていたことにショックを受けて消沈していた由良ちゃん。
 彼女を再びステージに向かわせたのは、活動休止から復帰し、弱小事務所に移籍したいと言い出した彼女をそれでも支えようとした前事務所のスタッフたち、そしてその想いを受け取って彼女を引き取った信濃社長の熱意でした。

信濃社長「私がお前に客前で妥協させたくないだけだ 『お前のために』なんて綺麗ごとは言わん 私のエゴなんだよ、由良」

神クズ☆アイドル4巻 STAGE.30

由良ちゃん「私は『みんなのため』なんて、アサヒみたいにはなれない でもそれが私のステージなのよ!」

神クズ☆アイドル4巻 STAGE.30

 そして立ったステージの上、ずっとアサヒちゃんの『一番』が欲しかった由良ちゃんが、あんなに聞きたがっていたアサヒちゃんの声よりも、自分を『一番』に応援してくれるファンの声しか聞こえなくなる。
 彼女はI'mというグループを離れても、アサヒちゃんのいないステージにたった一人で立ったとしても、間違いなくアイドルなのだ。

 由良チカゲちゃんも前回の感想記事で取り上げた瀬戸内くんと同じように、アサヒちゃんの存在に支えられていた内の一人。

 瀬戸内くんが仁淀くんという新たに推したいアイドルの存在を受け入れたように、彼女もまた、信濃社長という新たに信頼出来る存在と出会うことになった。

 神クズ☆アイドルが上手いのは、物語の中で悪人を作らない描き方。
 瀬戸内くんも由良ちゃんも、少し描き方を間違えれば主人公サイドに嫌がらせをしてくるとてつもなく嫌なキャラクターになってしまうけど、物語が一区切りつく頃には大好きになっている。

 ゼロサム最新号の掲載話では、いつもの仁淀担オタク以外にも、地方チャリティイベントに出演する由良チカゲちゃんを応援するために遠征して来たファンの姿が描かれています。
 Tシャツに「由ー良チカゲ大陸」って書かれてるのがすごく…気になるんですが……由良ちゃんはユーラシア大陸…ってコト…?
 アサヒちゃんの「推し心 集めてアサヒ 最上川」といい、I'mの物販担当者のセンスよ…いやメンバーが自分で考えてるパターンかもしれないが……。
 いつかチカゲ担オタの話も読んでみたい。留学からの事務所移籍のあたり大混乱だっただろうな。

 そしてラストに出てきた人物は、今後仁淀くんの家庭環境に踏み込んでいく布石でしょうか。
 私は作中で最も複雑な性格をしているのは仁淀くんだと思っています。
 タイトルでも作中でもクズとして扱われてはいますが、自主的に何かをやろうという積極性が無いだけで、言われてやればそれなりの結果を残し、周りの努力する人々を見下しているわけでもなく、むしろ尊敬さえしている。
 仁淀くんのクズさって、ひたすら自分自身の能動性を放棄することに向けられているんですよね。
 ラストに出てきた人物は相当アクティブに生きているようなので、その反動で仁淀くんのこういった性格が出来上がってしまったのかなと今のところ推測しています。

 また2022年7月からとうとうアニメも始まりました。
 私はなるべく早く観たいがためにdTVに加入して1話・2話を観ましたが、声優さんの演技に違和感ないどころか東山奈央さん演じる実際に喋ってるアサヒちゃんがめちゃくちゃ可愛くて、アイドルに対して熱意凄すぎてちょっとヤベ~ところとかも、こりゃ拗らせファン量産しますわ…っていう説得力がヤバかったです。
 2話の「ウソついたら預金残高小刻みにく~ずす♪」にひたすら笑った。可愛い声でなんてこと言うんだ。
 EDが複数あるタイプのアニメだとは思わなかったので、アサヒちゃんソロびっくりしました。まさかCgrassバージョンとかもあるのか……!?  

 原作から加えられたセリフやシーンにも今のところ私には違和感もなく、テンポよく進んでいていい感じではないでしょうか。Cパートのオタク談義も先生が監修されているだけあって面白い。
 仁淀くん役の今井文也さんが実質一人二役こなしながら2話ラストの成仏寸前アサヒちゃんを説得する際の熱演もしてるのがすごいと思いますし、仁淀くんは働きたくないのにそれを演じる今井さんはめちゃくちゃ働いておられる…と思うとまた違った味わいがありますね(?)
 吉野くん役の堀江瞬さんは声がひたすら可愛くて小動物感がマシマシ。

 ライブシーンのCGは1話観たときはなんだこのオモシロは……と思いましたが、2話になると1話を見返しすぎたのか目が慣れたのか曲の良さが勝ったのか、これはこれでヨシ!みたいな気がしなくもないです。いや今後改善されるならしてもらいたいのですが、完パケしてるっぽい?から最終回までこのままな気がするので……。
 すでに2話から吉野くんの自信の無さを感じさせるセリフが入っていたりと原作の膨らませ方や構成の入れ替え自体はとてもいいと思いますので、最終回まで楽しく盛り上がりたいです。
 原作もアニメも今後の展開を楽しみにしています。

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