記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

推しが死んだらどうすればいい?『神クズ☆アイドル』いそふらぼん肘樹

 何かに熱中している、推しや担当がいるオタクはいつも楽しそう。
 だけどその対象が生きている人間(アイドル)で、その人が突然亡くなってしまったら、どうしたらいいのだろう。

※ここから下は神クズ☆アイドル1~2巻・及びComic ZERO-SUM 2022年6月号掲載の最新話のネタバレを含みますのでご注意下さい。

 顔はいいがやる気のないアイドル、仁淀ユウヤ。
 やる気満々だったが死んでしまったアイドル、最上アサヒ。

 神クズ☆アイドルは基本的にはこの二人による中身入れ替わりハイテンションアイドルコメディだ。
 けれど「最上アサヒは幽霊であり、すでに亡くなっている」という前提がこの明るさの土台にはある。

 神クズ☆アイドルは現在5巻まで発売されている漫画ですが、今回1~2巻の内容について絞っているのは、アイドルオタクから自身もアイドルになった瀬戸内ヒカルくんのことについて書いておきたかったからです。
 彼についてのネタバレを含む内容になっていますので、この先を読むかどうかはご自身の判断でお願いします。


中学の時 ある日突然学校に行けなかった

神クズ☆アイドル 2巻 STAGE.13

 別に学校でいじめられていたわけでも家庭に問題があったわけでもないけれど、いつものように家を出ようとした玄関で、彼はドアを開けることが出来なかった。
 それから不登校が始まり、テレビの中の最上アサヒに出会うまで、彼の鬱々とした生活は続いた。
 一度引きこもりになってしまった子がアイドルに夢中になってライブやイベントに行けるようになるだけでも充分すごいと思いますが、瀬戸内くんはなんと自分でもアイドルになるのである。
 アイドルになろうと思ってなれてしまう瀬戸内くんの器量と努力もすごいのですが、そこまでさせてしまうアサヒちゃんの求心力もすごい。

 けれどそんな憧れのアイドルは、交通事故で突然亡くなってしまう。

 推しを突然喪った喪失感の中、それでも「最上アサヒならこうする」と理想的なアイドルでいようとし続けていた瀬戸内くん。
 そんな彼が見つけてしまった、生前の最上アサヒのような振る舞いをする男性アイドル、仁淀ユウヤ。
 仁淀くんを批判し、モノマネ検証サイトまで作りながらも、だんだん目が離せなくなっていき、とうとうトップオタと呼ばれるほどの存在になってしまう。

アサヒちゃんを忘れて アサヒちゃん以外から元気をもらうのが怖かった……

神クズ☆アイドル 2巻 STAGE.13

 そう彼は、新たに気になる存在、次の「推し」をすでに見つけてしまっていたのだ。
 アサヒちゃんを忘れたくない気持ちと、仁淀くんが気になっている自分の本音の狭間で苦悩する瀬戸内くん。

 この瀬戸内くんの話の少し前に、アサヒちゃんがスイートファーマシーという女性アイドルユニットのゲリラライブで、自分の個人ペンラを使い回しているかつてのファンの姿を目撃するエピソードがあります。
 気付いた瞬間は「推し変の上に他グルへの使い回し許せない!」と憤りながらも、その人の幸せそうな横顔を前に、自分が死んでいることを改めて実感するアサヒちゃん。

アサヒちゃん「私のファンの方が推し変しても…笑顔でいてくれるんだったら…やっぱり嬉しいなって思っちゃいました」

神クズ☆アイドル 2巻 STAGE.9

 生きていたときも死んでしまってからも、アサヒちゃんの願いはファンの笑顔。だけどアサヒちゃんと仁淀くんの狭間で苦悩する瀬戸内くんはとても辛そう。
 そんな彼を救ったのは他の誰でもない、仁淀くんからのこんな言葉でした。

仁淀くん「あの〜…ファンってよくわかんないんだけど… 絶対一人だけしか応援しちゃダメなの……?」
瀬戸内くん「貴様……!? 何言ってるんだ 推しの掛け持ちなんて」
仁淀くん「いやそんな悪いことなのか知らんけど!」
仁淀くん「アサヒちゃんって『伝説』なんでしょ そんなすごいアイドルのファン辞めるなんて無理だろうし」
仁淀くん「好きになったらずっと好きなままでいいんじゃない…知らんけど…」

神クズ☆アイドル 2巻 STAGE.13

 これにより「アサヒオタでありつつ仁淀ユウヤを推していい」という赦しを自分自身に与えることが出来た瀬戸内くん。
 推しは変えなくてもいい。増やせばいいのだ。
 この一件以来、瀬戸内くんは自身もアイドルであることは隠しつつ、仁淀オタとしても活き活きと活動するようになりました。

 そして、そんな彼の姿を見守っていた人たちもいます。
 瀬戸内くんが所属するアイドルユニット、「Cgrass」のメンバーです。

↓  Comic ZERO-SUM (コミック ゼロサム) 2022年6月号(電子書籍) ↓

 掲載誌最新号のBONUS STAGEでは、メンバーの一人である岬チヒロくんの視点でCgrass結成から今に至るまでが描かれています。
 瀬戸内くんがアサヒオタと察した直後に訃報を聞いて、誰も何も言えなくなる凍り付いた空気。そして瀬戸内くんが再びレッスン直後に走り出せるようになるまで、彼を支え続けたCgrassのメンバー。

 何かに熱中している、推しや担当がいるオタクはいつも楽しそう。
 そして楽しそうなオタクの姿を見て、嬉しくなっている誰かもいる。

 アサヒちゃんのように亡くなったわけではなくても、思いがけない理由で推しや担当の活動を目に出来なくなった経験を持つ方は多いと思います。
 突然のグループ脱退、事務所との契約解除及び引退、スキャンダル発覚、留学したまま戻って来ない……等々。
 私にも突然担当がいなくなって悲しい思いをした友人がいるので、瀬戸内くんの心情の変化がすごく嬉しかったんですよね。
 例え大切な人を失った後に同じように応援したいと思う人が増えたとしても、それは今まで好きだった誰かを忘れることにはならない。
 だから自分の気持ちに素直になって、気になる人が増えたのなら、また推し(担当)のことで泣いたり笑ったりしていてほしい。
 楽しそうに狂うオタクの姿を見守っている、私のような人もいますので……。

 神クズ☆アイドルは2022年の夏にアニメ放送も決定しています。
 最新話の後に載っていたキャストオーディションレポート漫画の内容からして瀬戸内くんのエピソードもやると思いますので、楽しみです。


この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?