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「絶対に安全な土地」は存在しない!それでも一級建築士の私が土地の歴史を調べる理由

住処を探すとき、災害等で生命や財産が脅かされないことは重要ですよね‼️
でも、残念ながら「絶対に安全な土地」は存在しません😭
そこで、まず、土地の歴史を知ることが手掛かりとなります✨
土地の歴史を知るとそこに潜むリスクを理解でき、そのリスクを回避する準備を適切に行うことができるようになります💡
こうして準備を整えることにより、安心して住処を決め生活できるようになります🏡
土地の歴史を知るとはどのようなことなのか、私が住んでいる洞爺湖町を例に一緒に考えてみましょう☺️

❶土地の歴史とは

土地の歴史とは、その土地が科学的にどのような経緯を経て形成されてきたかの履歴のことです。
ここでいう「科学的に」というのは、一定の体系的な研究成果等の根拠に基づく、ということですが、そこから先の想像を妨げるものではありません。
世の中に出回っている情報のピースは不完全ですので、それをある程度補う想像は必要となります。

❷洞爺湖町周辺の土地の歴史

②−1 洞爺湖を中心としたエリアを形作る地形

日本付近は4つのプレートの境界域になっており、太平洋プレートとフィリピン海プレートが日本に向かって移動し、日本列島の下に沈み込んでいます。プレートが沈み込んだ地下深くではマグマができ、マグマは地表に向かって次第に上昇し、地表で噴火すると火山が形成されます。
洞爺湖周辺の地形は、このプレートの沈み込み地帯の火山の噴火活動により形成されました。

日本付近のプレートと火山
  • 約11万年前の巨大噴火
    噴火の跡にできたカルデラと呼ばれる窪地に水が溜まって「洞爺湖」ができました。
    噴出した大量の火砕流は流動性に富み、噴火前の大地を数十メートル以上の厚さで覆い尽くし、洞爺湖の北西側には広大で平坦な火砕流台地を形成しました。

  • 約5万年前、洞爺湖中央部で繰り返し起こった噴火
    洞爺湖の中央部における火山活動により、溶岩が地下から押し出されて固まった「溶岩ドーム」と呼ばれる大小様々な山がいくつも形成され、「中島」と総称される無人島群ができました。

  • 約2万年前、洞爺湖の南側で有珠山誕生
    噴火を繰り返して山麓に溶岩流を流し、有珠山が成層火山として成長しました。

  • 約7千年〜8千年前、有珠山が山体崩壊
    山頂部が南西方向に向かって大きく崩れ、岩屑なだれ堆積物により麓に大小様々な丘が点在する「流れ山地形」を形成しました。岩屑なだれは内浦湾に流れ込み、出入りに富んだ海岸線を形成しました。

  • 有珠山、1663年まで噴火活動休止

  • 有珠山、噴火活動再開
    1663年に噴火活動が再開してから現在までに9回噴火し、噴火の度に異なる場所に火口を開け、地形を変えてきました。近年では30年〜50年程度の短い間隔で噴火をくり返えしている活火山です。

洞爺湖・有珠山の成り立ち (洞爺湖有珠山ジオパーク野外学習テキストを基に作成)

②−2 人々の暮らし

有珠山が山体崩壊を起こしてから1663年に噴火を再開するまでの数千年間は、火山活動の無い平穏な時期でした。

有珠山の山体崩壊による「流れ山地形」は、無数の小山や多くの窪地、湿地が織りなす複雑な地形で、至る所に湧水や沼地があり、飲み水として利用することができました。
出入りに富んだ海岸線には、コンブやワカメなどの海藻が茂り、内湾ではアマモの群落が広がりました。ここは、多くの小魚や甲殻類の繁殖地となり、魚類やイルカ、オットセイなどの海洋哺乳類がエサや繁殖の場を求めてやってきました。

長らく噴火が起こらなかった間、緑が豊かな山野と魚貝類が生息する海に囲まれた自然環境は生活を支える大切な食料確保の場となり、火山活動で生み出された自然の恵みを享受しながら、約5000年前から縄文人たちが定住するようになりました。

縄文人たちが暮らした「入江・高砂貝塚」は、世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産になっています。
この恵まれた豊かな環境で、縄文時代から現在まで長きにわたり人々が暮らしてきました。

流れ山地形 (洞爺湖有珠山ジオパーク野外学習テキストを基に作成)

②−3 洞爺湖有珠山ジオパーク

洞爺湖を中心としたエリアは「洞爺湖有珠山ジオパーク」として、日本で初めてユネスコが認定するユネスコ世界ジオパークに登録されました。

ジオパークとは、地球を楽しむ自然公園であり、地球科学的意義のある場所を保護・保全しながら、教育や観光に活用し、地域の持続可能な開発に寄与することを目的としています。

「洞爺湖有珠山ジオパーク」は「人の生活圏と、洞爺カルデラ、中島溶岩ドーム群、有珠山が極めて狭い範囲に集中している」ことが、世界的に見ても非常に珍しく、国際的に価値のある地球科学的遺産であるとされています。

❸歴史的経緯から見たリスク

土地の歴史的経緯から見て、この地域における災害リスクは、有珠山の火山活動によるものの他、地震や津波、土砂災害が考えられます。

③−1 有珠山の火山活動

火山現象にはいくつかの種類があり、引き起こされる災害の特徴が異なります。
また、噴火が起こるのが山頂の場合と山麓の場合では災害の規模や影響範囲が異なります。

  • 泥流、土石流
    土や岩石などが水と混ざり時速数十km程で谷を流れて下り氾濫する現象。
    地形的に低い川筋に沿って流れ下るため、すばやく高台に逃げる必要があります。
    川や谷間、谷の出口、低地が危険区域になります。
     降雨型泥流(土石流):降灰した場所に雨が降った時に発生
     融雪型泥流:火砕流の熱で一気に雪が溶けた時、降灰した場所に雪が降った時に発生
     火口噴出型泥流(熱泥流):火口から泥流が直接流れ出るもの

  • 降灰
    火口から高く噴き出された火山灰や軽石は上空の風で風下へ運ばれます。
    風向きや天候によって火山灰が積もる地域や量が変わります。
    有珠山上空の風向きとして、西向きの風が最も頻度が高いとされています。
    山頂噴火の場合は、火口から10km以上離れたところでも30cm以上火山灰が積もる可能性があるとされています。

  • 火砕流、火砕サージ
    高温の軽石、火山灰、火山ガスなどが混ざり合って時速100kmを超える高速で斜面を流れ下る現象。
    軽石や岩片が少ない高温爆風状の場合は火砕サージと呼ばれます。
    発生してからの避難では間に合わないため事前の避難が必要。
    大量の火砕流が洞爺湖に流れ込んだ場合、湖面に津波が発生する恐れがあります。

  • 噴石
    噴火時に直径数cm〜数10cmの岩塊が火口から飛来するもの。
    1mを超す大岩が数kmも飛ぶことがあり、建物を破壊するほどの威力を持ちます。
    山麓噴火では火口が集落に近く、噴石による被害が甚大になる可能性があります。

  • 岩屑なだれ
    火山体の一部が山麓に向かって崩れ落ちる現象。
    岩屑なだれにより大量の土砂が洞爺湖に突入すると湖面に津波が発生して湖岸一帯に影響が及ぶ恐れがあります。
    発生頻度は稀で、一つの火山でおおよそ1万年に1回程度と見積もられているそうです。

③−2 地震

北海道は、今後、北海道で想定される地震や、その被害想定について検討し、想定地震や地震による被害の想定結果を公表しています。
ここで想定されている地震のうち、洞爺湖町における想定地震動が大きい主な地震は以下のように示されています。
※( )内は、30年以内の地震発生確率(政府地震調査研究推進本部)。

  • 内陸活断層
    石狩低地東縁断層帯主部(北):震度4〜5強(ほぼ0%)
    石狩低地東縁断層帯南部:震度4〜5強(0.2%以下)
    黒松内低地断層帯:震度4〜5強(2〜5%以下)

  • 海溝型地震
    北海道留萌沖:震度5弱〜6弱
    北海道南西沖:震度5弱〜6弱(ほぼ0%)
    十勝沖:震度4〜5強(10%程度)
    三陸沖北部:震度5弱〜6弱

北海道が示している想定地震動によると、洞爺湖町内においては、洞爺湖畔の洞爺湖温泉・月浦・洞爺町・財田、内浦湾に面する入江・高砂町、その他、早月及び富丘などで地震動が大きくなる傾向にあるようです。

想定地震と地震動が大きくなる可能性のあるエリア

ゆるく堆積した砂地盤などが地震により激しく揺られると、まるで液体のように一時的にやわらかくなり、建物などを支える力を失い大きな被害をもたらします。このような現象を「液状化」と言います。
洞爺湖町内においては、洞爺湖畔、特に洞爺湖温泉・月浦・洞爺町・財田などで液状化の発生確率が高くなる傾向にあるようです。

傾斜度が30度以上の土地は、地震時に崖崩れが発生する恐れがあります。洞爺湖町内においては、洞爺湖の北側湖畔などの急傾斜地で崩壊の危険度が高いと想定されているようです。

洞爺湖畔はカルデラの斜面地で、過去にカルデラの縁が崩れ落ちて堆積してできた丘、洞爺湖に注ぎ込む河川の扇状地など、場所によっては地震の影響を受けやすい地盤となっている可能性が考えられます。

地震が起きた時の揺れ、液状化、急傾斜地の崩壊は、その土地の成り立ちによります。つまり、土地の歴史を知れば、その土地が地震によりどのような被害を受ける恐れがあるのか想定することができますね。

想定地震、被害想定(北海道HP)

③−3 津波

洞爺湖町の南西側は内浦湾に面しているため、太平洋沿岸地震の際に津波被害の恐れがあります。北海道が示している津波浸水予測図によると、JR室蘭線以南の地域と、同線に沿った北側の一部地域が浸水の恐れのあるエリアとして示されています。

津波浸水想定区域(洞爺湖町ハザードマップ)

③−4 土砂災害

北海道は、崖崩れや土石流などの土砂災害から住民の生命を守るため、土砂災害防止法に基づき、土砂災害が発生する恐れのある区域を指定しており、洞爺湖町のHPや北海道のHPで公開されています。

洞爺湖町内においては、洞爺湖畔の月浦・旭浦・洞爺町・財田・川東・岩屋などで指定区域が多い傾向にあるようです。

洞爺湖は噴火により形成されたカルデラ湖で、カルデラの縁は急斜面になっていることから、湖畔に指定区域が多いと考えられます。
洞爺湖北西側湖畔にある浮見堂からカルデラの斜面側に向かって、カルデラの縁が崩れ落ちて堆積した丘状の地形が形成されています。

土砂災害が発生する恐れのあるエリアと土砂災害の種類


【参考】土砂災害防止法
(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)
建設省の通達により昭和41年から行われていた土砂災害危険箇所の調査結果(1/25000)を基に、現在は土砂災害防止法に基づく「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」の指定が進められています。区域指定のための調査は5年毎に行われ、地形の変化等を踏まえ、指定区域は更新されていきます。今後、デジタル技術の進展により精密な調査が可能になると、指定区域が増える可能性があるそうです。
指定区域の詳細データは、洞爺湖町役場や北海道胆振振興局室蘭建設管理部で閲覧することができるそうです。

  • 土砂災害警戒区域
    大雨などにより土砂災害が発生した場合に、住民の生命または身体に危害が生ずる恐れがあると認められる区域。
    現に、建物が無い土地であっても、平場があるなど今後建物が建つ可能性がある土地は原則として区域指定されるそうです。
    2024年7月現在、洞爺湖町において、区域指定の地形要件はあるが、土地利用状況により区域指定を行っていない箇所は無いそうです。
    土砂災害の起き方により、土石流、地すべり、急傾斜地の崩壊に分類されます。

  • 土砂災害特別警戒区域
    大雨などにより土砂災害が発生した場合に、建築物の損壊が生じ住民等の生命または身体に著しい危害が生ずる恐れがあると認められる区域。
    現に、建物が無い土地であっても、平場があるなど今後建物が建つ可能性がある土地は原則として区域指定されるそうです。
    2024年7月現在、洞爺湖町において、区域指定の地形要件はあるが、土地利用状況により区域指定を行っていない箇所は無いそうです。
    土砂災害の起き方により、土石流、地すべり、急傾斜地の崩壊に分類されます。


洞爺湖町WEBハザードマップ(洞爺湖町HP)

北海道土砂災害警戒情報システム(北海道HP)

❹リスクへの対応

リスクを適切に把握できたら、事前に準備し、リスクへの対応を継続することで、安心して暮らすことができるようになります。

④−1 事前準備

まずは、リスクが発生した場合に取るべき行動を把握し、家族と共有しておきましょう。

  • 自宅周辺における災害による想定危険度をチェックし、防災行動を開始するタイミングを設定しておく(防災タイムラインの作成)

  • 災害の種類に応じた、自宅周辺の避難場所をチェックしておく

  • ライフラインが止まった時に自宅で過ごすために必要な備えをしておく

  • 自宅から避難が必要になった場合に、いつでも持ち出せる持ち出し品を準備しておく

これだけの準備をしておくのは大変なことですが、サポートしてくれる便利なアプリや、持ち出し品セットの販売、備蓄品のローリングストックをサポートしてくれるサブスクや定期便などがありますので、ご自身に合った方法で準備を始めてみましょう。

⛑️Yahoo!防災速報(防災アプリ)

⛑️持ち出し品セット(例)

④−2 リスクに対するイマジネーションを持ち続ける

経験したことがない災害や、いつ起こるかわからないリスクに対し、イマジネーションを持ち続け、対策を継続することは容易ではありませんね。
しかしながら、災害が起こったとき、一人一人がその災害に対するイマジネーションを持つことができていると、避難行動や避難所運営、被災後の復旧や復興が大きく変わってくるのではないでしょうか。洞爺湖町では様々な取り組みが実施されています。

🌋洞爺湖町における取り組み

  • 行政による普及啓発
    洞爺湖町では、災害に関する情報を資料やHPで公開しているほか、避難訓練、希望する団体向けの防災講話や避難所開設体験学習会など、様々な普及啓発活動を実施し、住民のサポートを行なっています。

  • 洞爺湖有珠山ジオパーク推進協議会
    ジオパークを構成する4つの自治体を中心に構成される組織で、ジオパークの活用により地域の発展を目指し活動しています。
    有珠山の噴火災害の記憶を風化させないため、災害遺構を保存し、住民が主体となった減災教育に取り組み、次の噴火災害に備えた地域づくりを進めています。
    また、火山の脅威に備える一方で、火山活動が穏やかな期間は、火山の恵みを享受し、多様な楽しみ方を提供するツーリズムの普及に取り組んでいます。

  • 洞爺湖有珠火山マイスター
    有珠山の次の噴火に備えた人づくりの制度として2008年から始まった認定制度です。
    住民が噴火災害から命を守る知恵を得て、減災を目指す精神や地域活動は「減災文化」としてジオパークの無形遺産に位置付けられており、火山マイスターは減災文化の推進役として、ガイド活動をはじめとする様々な活動を行なっています。

❺リスクだけでは無い多くの恵み

ここまで、有珠山の噴火活動によるリスクを中心について考えてきましたが、ここに暮らす人々は、自然の脅威だけでは無く多くの恵みを享受してきました。これは縄文時代から長きにわたりこの地に人々が暮らしてきたことからうかがい知れます。

🌽美味しい野菜
約11万年前に洞爺湖を形成した巨大噴火で噴出した大量の火砕流により、洞爺湖の北西側に広大で平坦な火砕流台地ができました。ここは、平坦で日当たりが良く、水はけの良い火山灰質土壌で畑作に適しています。大きな石が混じらない土は、根菜の成長に最適です。
じゃがいも、とうもろこし、長芋、大豆などの野菜が、ストレスの少ない環境で美味しく育ちます。

🐟美味しい海産物
有珠山の山体崩壊により形成された出入りに富んだ海岸の岩礁地帯は、岩が波を和らげ、コンブが岩場に根を張って茂ります。このような穏やかな環境は、餌が豊富でウニやタコが美味しく育ちます。
また、波が穏やかな内浦湾ではホタテの養殖が盛んで、湾を巡る海流はプランクトンを循環させるためホタテは沢山の餌を得て美味しく育ちます。

♨️温泉
有珠山北西側で起きた1910年の噴火によって湖畔沿いに洞爺湖温泉が誕生しました。
噴火活動により上昇し噴出せずに地下に溜まったマグマは大地を押し上げて四十三山を形成しました。このマグマから出てくる高温の火山ガスによって地下水が温められ温泉が生成されています。
洞爺湖の北岸では、火山の熱ではありませんが、近深くで高温となっている地層が熱源となり、温められた熱水が湧き上がり温泉が生まれています。浴用のみでなく、野菜のハウス栽培や家屋の暖房など多目的に利用されています。

⛏️採石産業
有珠山の山麓に広がる丘陵地は流れ山の丘で、有珠成層火山からもたらされた安山岩を含み、適度に破砕された原石は採石しやすく、建設用の骨材、道路の敷石、鉄道路線のバラストなどに使われています。

火山の恵み 美味しい野菜や海産物

❻「安全」という神話にすがらず「安心」を得ることの重要性

以上より、「安全」な土地は存在しませんが、土地の歴史を知り、そこに潜むリスクを理解し、そのリスクを回避する準備を適切に行うことで「安心」を得られることがご理解いただけたのではないでしょうか。
縄文時代から人が住んでいる洞爺湖町には、人の歴史とともに、土地の歴史が残っています。

📕参考文献
洞爺湖有珠山ジオパークガイドシリーズ
洞爺湖有珠山ジオパークマスタープラン 2019 ー 2028
洞爺湖有珠山ジオパーク散策マップ
洞爺湖町防災ガイドブック
有珠山火山防災マップ
地震被害想定等調査結果報告書(渡島・胆振・日高)H27年2月

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