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トヨタ ヴォクシー S-G(8人乗り)

思わぬイップス

自意識過剰かもしれないけれど、最近ディーラー試乗がやりづらい。
特にコロナ禍になってからというもの、どうしても気持ちが萎えてしまうのだ。

クルマに対する情熱が冷めたわけではない。
厳しい社会状況のなか、ペーパードライバーを装った購入検討者でもない一般人(おれのことです)にわざわざ時間を割いてまで相手をしていただいているこの状況。
これって営業さんにとってはムダ以外のなにものでもないよな、となんだかいたたまれない気持ちになってしまったのが大きな要因。

もちろん、新型車が発売されればシートに座っていろんな場所をいじくり倒す作業は変わらず行っているけれど、試乗となると気後れしてしまう。
申し訳なさが先立って逡巡しているうちに試乗車がなくなってしまう、というパターンがずっと繰り返されている。

ああ、味見をしたいクルマは山ほどあるのに。
悪いことはしない。脳内にGPSセンサーを埋め込んで位置情報を発信する義務があってもいいから、キーを黙って渡してくれたほうがよっぽど気がラクだ。

試乗中毒にはうれしいサービス

そんなマインドのもと、とても助かっているのがカーシェアサービスだ。
こまめにチェックしていると、発売して間もないクルマがしれっと近所のスポットに配置されている。
短時間借りればワンコインちょっとで済む。ひとりだから気後れする必要もない。
クルマを所有しているにもかかわらず、自分の気持ちのモヤモヤを解消するためだけに登録し、特にトガったクルマが置いてあるわけでもないのにわざわざ会員になっている人間なんて、当局からすれば相当「アレ」かもしれないが。

いやしかし、スマホアプリを使ってルールに従って借りている限り「アレ」な会員のマインドは透けて見えない。
だから安心して今回はトヨタ・ヴォクシーを利用することにした。
ずいぶんと普通のセレクトに見えるかもしれないけれど、これだけ街中で一気に増殖したクルマは無視できない。
数年前に試乗したトヨタ・エスクァイアからの進化の度合いも確認できるし。

さすがニッポンの普通車

よっこらしょ、と少し高めのシートに座る。こちらの下半身まで見えてしまいそうなくらい広い視界が目の前に広がる。
ミニバンに乗るたびにここまで必要なのか? と思える高い天井も健在だ。狭い洞窟の奥に呆然とするくらい広大な空間を見つけたときのような気持ちになる。
インテリアの配置は奇をてらったところのない堅実的なもの。物理ボタンを主体としているから予習なしで各機能が扱えるのは嬉しい限り。

ほう! と思ったのが乗り心地とアシ周り。体幹や腰骨がしっかりしている、と言うのだろうか。
先代まではギャップを越えるとボディの上半分がギシギシワナワナと震えていたのがわかったものだけれど、もはや背の低いクルマと変わらないガッチリと鍛えられた味わいを醸し出している。
路面の凹凸のいなし方も上手。ガサガサとしたノイズの侵入も少ない。めちゃくちゃ進化していると言っていい。先代から乗り換えたオーナーは驚愕するだろう。

めざましく進化する機能

さりげなく介入してくる運転支援機能も、そのさりげなさゆえシフトプログラムが進化したなと見当違いな感心をしていたほど。
信号待ちですすっと減速を繰り出してくるたび、液晶画面に表示されるクルマのアイコンで気がついた。これかー! Toyota Safety Sense。
発進が遅れると「出遅れてませんか?」とアラートを出してくる始末。丁寧にもほどがある。
ボサっと運転しているドライバーが多い昨今、同じ路上の住人(遭遇するたびイライラしている)としてはありがたい限りだ。目覚めるほどでかい音を出して欲しい。

惜しいパワーユニット

いっぽうで、かなり改善されたとはいえ相変わらずエンジンのガサツな感触にはちょっと興醒めだ。
一定の負荷で走行している分には静かで快適。
しかし周辺のペースに合わせるべくアクセルをちょっとあおっただけで「ぼへえ」と唸りを上げる。
これはしんどい、そして惜しい!
あとでカタログを確認して驚いた。とても170PSのクルマだと思えない余裕のなさはどうなんだろう。
低排気量ターボディーゼルを普段利用している身としては、もうちょっと立ち上がりのパワーは欲しい。
静かさとパワフルさを求めるならば、ハイブリッドをどうぞというのがホンネなのだろう。

選択するむずかしさこそ醍醐味

惜しい点があるにしろ、カーシェアに供される廉価グレードでもクルマとしての基本性能の高さは十分にわかる。
見栄を気にせず、ストップ&ゴーの少ない郊外における快適な移動手段として使うのならばこれで満足できると思う。
むしろコスパ的にはアリな選択ではないだろうか。
ましてやハイブリッドモデルだったら、エンジンの「ぼへえ」を上手にフォローするだろうから、もっと上質な印象があるかもしれない。
割り切って使うならばガソリンモデルで十分だ

松坂慶子が往年の「愛の水中花」で披露していた網タイツのようなフロントグリルは好みが別れるところだけれど、それがイヤならばノアという一卵性のモデルを選べばいいだけの話だ。

ほかのメーカーに目を向けると日産・セレナ(※リンク先は旧型)とホンダ・ステップワゴンという強豪が変わらず構えている。
まるで示し合わせたように同じ価格帯でひしめいているのは驚きだが、カーナビをはじめとした細かい装備を吟味しながら比較すると若干トヨタにアドバンテージがあることに気づく。こういう点は「さすが」としか言いようがない。
トヨタ以外の両者はラインナップ上、1モデルで高価格帯を望む顧客まで抑えなければいけないから致し方ないとはいえ、改めてトヨタの盤石さを見た気がした。
真剣に購入検討するヒトビトは楽しいながらも、なかなか頭を悩ませる取捨選択を迫られるかもしれない。
それがまた醍醐味なんだけど。