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日産セレナ ハイウェイスター プロパイロットエディション

正直なところこんなに持て余すほど天井が高く、何回使うかもわからない8人乗り(!)のクルマにまったく食指は向かないのだけれど、やっぱり販売実績No.1と言うからにはよっぽどの理由があるんだろうな、という純粋な好奇心で乗ってみた。

「門扉」と言ったほうがピンとくるような大きいドアを開けると、ライバルの中ではおそらくいちばん質感が高いであろうインテリアが広がる。
デジタルメーターでインパネの高さを抑え視界に配慮した窓からは明るい風景が広がる。
従来の日産では考えられないほどソフトパッドを多用し、ステッチ(っぽい)処理をしている演出もわかりやすく効果的だ。
後方を眺めると呆然とするような空間が。
床には「電車でも通すつもりなのか」と思いたくなるほど長大なシートレールの溝が伸びている。
運転席ギリギリまでシートを寄せられる理由ってなんなんだろう……。(※あとでわかった。赤ちゃんを乗せて走るとき用なのか!考えてるなぁ……)

2列目シート中央は、これまた先代と同じように運転席と助手席の間にスライドできるしくみ。
アームレストにもなるしモノも置ける。便利……なのか? まぁ便利なのだろう。
しかしこのシート、今回から「やっと」ヘッドレストと3点式のシートベルトがついたとはいえ、幅が狭く座椅子に毛が生えたようサイズだ。
無理して「8人乗りです」とやせ我慢で宣伝するより、いさぎよく取っ払って2-3列目の乗降性と安全性を配慮して7人乗りにしました、と言い切ったほうがメーカーの見識の高さをアピールできると思うのだが、どうなんだろう?
とはいえ、2列目以降のシートもわりかしキチンとアンコが詰まっており「畳んでこそ!」と躍起になっていた時期のモノとは比較にならないレベルの標準的な座り心地を提供してくれる。
シートスライドも前後左右に自由自在。各社「あたりまえ装備」の一環だけれどもけっこう楽しいし便利だ。

走り出してみると大きな窓による広い視界は慣れていないとちょっと気恥ずかしい。金魚鉢の中で運転しているみたいだ。
シートの調整具合によっては腰から下が見えるんじゃないか。
ドアを閉めたときに感じた静粛性(セールスの人の声が格段に小さくなった)はそのまま動き出したときの静かさにつながり、平穏な気持にさせてくれる。
段差を乗り越えたときのしっかり感もなかなかなもので、開口部が大きいはずの車体でコトリと衝撃を受け止める様子は、以前試乗したエスクァイアをはるかに上回る質感だ。
曲がったときの安定感もステップワゴンと同等の(ミニバンとしては)どっしりとしたもので、急な操作でもしっかり追従してくれそうなポテンシャルを持っていそうだ。

ただ、つるりと路面の感覚を伝えずに回るステアリングと、踏み降ろす格好になるアクセルの重さがアンバランスで、運転のリズムが合わない印象があった。ブレーキの効きも甘い。
その感覚を増幅させているのが、エンジンとCVTかもしれない。「ECO」ボタンをONにすると、はっきりと発進がトロくなり、ワンテンポ動作が遅くなるのがはっきりとわかる。
セールス氏によると大半のユーザーがこのボタンを押した状態で走っているのだという。

「ECO」ボタンをOFFにした場合はどうか。
ある回転数までは前述のように平穏で、そこそこ良い乗り心地を味わえる。
しかし、ちょっとした勾配にさしかかりアクセルを踏むとCVT独特の反応遅れのあと、ちょっと古くさくて勇ましいエンジン音が高鳴り、ヨッコラショと加速が始まる。これが辛い。思ったようにチカラが出てこない。本当にモーターアシストが効いているのか疑わしくなる。
さらにアクセルを踏みこむとやっと思った通りの車速を得られるぎこちなさがまことに歯がゆい。
なるほど、渋滞の原因はここにあったか……と思わずにいられない。
素直に最近の効率が良い6速ATなどを載せていたらもっと上質な乗り味だったのではないか。

人間の脳はひとつ。同じ思考回路の配下にある腕と足でエンジンとステアリングをコントロールする以上、操作系の強弱・軽重と車体の動きに整合性が取れていない感覚を伝えてしまうのは、あまり健康な状況ではない。
なんとなく各機能がバラバラに働いている印象が拭いきれなかった。
加速するときに間髪入れずスピードが乗る、違和感のない手応えでステアリングを回せば曲がる……ミニバンとはいえ運転の楽しさや快適性、安心感をスポイルしてしまっている部分がつぶさに見えたのは非常にもったいない。

販売面で有利になるからと「ハイブリッド」のバッジを付けた結果がこれだとしたら残念だ(これはユーザーも悪い)。
この点は実力はあるのに「ハイブリッド」の称号がないだけで販売が苦戦しているステップワゴンの1.5Lターボエンジン(とCVT)の特性を見習うべきだと思う。
6〜7人乗った状態で東名高速道路・上りの大和トンネル付近の長い勾配を行くなら、素直に走行車線を走り続けたほうがいいかもしれない。

ただ誤解して欲しくないのは「クルマとしてとても劣っている」というわけではないということ。
素人がチョイ乗りしただけで良し悪しが判断できるワケがない。
内容がライバルに比べて充実しているだけに「惜しい」点がとても目立っただけで選ぶ理由は大いにある。
もちろんセレナの乗り換えユーザーにはオススメだし、トヨタのノア/ヴォクシーと比べたら絶対こっちを勧める。

なぜ今まで各社で装備されていなかったのかが不思議なくらい使い勝手の良いリヤゲートのガラスハッチや、ギリギリ下品に見えないデザイン、2色塗り分けできるボディカラーの選択肢など、言わずもがなの多彩なシートアレンジを含め大蔵大臣(死語)に対してプレゼンするときわかりやすいアピールポイントにあふれている。
ニッポン的な「ユーザーのニーズ」ってやつを涙ぐましい努力で丁寧につぶしていった良心的な点も評価できる。なるほどの貫禄だ。

一方でミニバンカルチャーを担うクルマとして「ハイブリッド」や「自動運転」「パーキングアシスト」「踏み間違い衝突防止アシスト」など、販売時に耳触りが良くユーザーを甘やかしかねない『あったら便利はなくても平気』な装備に頼り切って欲しくないのも事実。
来年にはLEAFやあたらしいNOTEに採用されたハイブリッド技術を載せた「フルハイブリッド」のモデルが登場するという。それが真打ちなのかもしれないけれど、同時並行でミニバン市場のレベルを底上げするようなバージョンアップも忘れずに続けていって欲しい。
ライバルをリードし、ユーザーの考え方を覆すような新機軸をどんどん提案するのも販売実績No.1だからこそやらなきゃいけない大切な活動なのだから。