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溝口智子
2024年6月8日 22:57
画家と百合子と大基。三人で囲む奇妙な食卓は、まるでいびつな家族のようだった。 楽しそうにはしゃぐ画家と、微笑み相槌をうつ百合子は夫婦のようにも父娘のようにも見えた。ただ黙々と箸を口へ運ぶ大基は二人の息子か、あるいは弟のようであったかもしれない。 食後の片づけを手伝おうとすると、百合子はやんわり断った。「炊事も私のお仕事なの。これから作り置きの食事も作るから、ちょっと時間がかかるけど、大
九月三日。駅前で百合子と落ち合った。 かわいらしいピンクのサマーセーターを着た百合子が大きなショッピングバッグを抱えていたので、大基はさっと手を出して預かり、肩にかついだ。バッグの持ち手がずっしりと肩の肉に食い込むほど重い。 橋田坂下のアトリエは関西の山奥にあるという噂だったのだが、百合子に連れられてきたのは市内の一等地。いったいこの一軒の家の中には何部屋あるのか見当もつかない、というくら