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とっつぁん


#ショートショート
とっつぁん
カメイダイ

「待てぇ〜ルパ〜ン!!今日こそお前を逃がさないぞ〜!!」

「待てと言われて待つ泥棒がどこにいるのよ〜とっつぁ〜ん!!」

今日も俺は、とっつぁんに追われていた。

振り返って、とっつぁんを見た。

とっつぁんは笑ってこちらを見ている。

「とっつぁ〜ん、なんだか楽しそうじゃねぇかぁ!」

「ルパ〜ン、これのどこが楽しそうなんだ!楽しいわけがないだろう!」

そう言って、とっつぁんはまた笑っていた———。


「それじゃあ、またな!」

俺は次元たちと別れた。

お目当てのお宝を頂戴したら、
一人でバーボン片手に悦に入る。
それが俺の楽しみの一つだ。

バーの扉を開ける。

俺はカウンター席へと向かった。

「あれれ、どうしたのよ、とっつぁ〜ん。バーのカウンターで一人で飲んじゃったりして〜」

俺を待ち構えていたかのように、とっつぁんはそこに座っていた。

俺はとっつぁんの右隣に座った。

「マスター、おすすめのバーボンちょうだい。ストレートで」

「ルパン、今日も俺はお前を取り逃した。まったく情けない話だ」

「まぁそう落ち込むなって。とっつぁん」

俺はとっつぁんの右肩をポンと叩いた。

「ルパン、お前は善人の金品を奪うようなマネはしない。俺はずっとお前を追ってきたからわかる。いつもお前は、極悪人からしか奪わない」

「あれれ〜、そうだったっけか。そんなことは気にしたことがなかったな」

俺はバーボンをすすった。

「そしてお前は奪った金品を児童養護施設に寄付しているらしいな。しかも俺の名で、な」

俺は黙ってそれを聞いていた。

「ルパン、つくづく貴様は人の心を盗むのが上手いな」

俺は一気にバーボンを飲み干した。

「マスター、お勘定」

支払いを済ませて、俺は席を立った。

「どこへ行く気だ?ルパン」

バーボンをすすりながら、右手を上げるとっつぁん。

と同時に俺の左手が持ち上がる。

とっつぁんの右手と俺の左手には手錠がしてあった。

「そりゃないぜ〜とっつぁん」

「俺は警察官だ。お前が盗みを働けばいかなる理由であろうとも、俺はお前を捕まえなきゃならん。当たり前だろう」

「なんでい、なんでい、とっつぁん。今日ぐらい見逃してくれてもいいだろう〜」

俺は隠し持っていた煙玉を床に叩きつけた。

店内には白煙がモクモクと充満した。

とっつぁんは落ち着き払って、バーボンをすすっている。

俺はその場から姿を消した———。

「待てぇ〜ルパ〜ン!!今日こそお前を逃がさないぞ〜!!」

「待てと言われて待つ泥棒がどこにいるのよ〜とっつぁ〜ん!!」

今日も俺は、とっつぁんに追われている。

俺はいつものように後ろを振り返り、とっつぁんを見た。

とっつぁんは、今日も笑っている。


#人生 #生き方 #短編小説