![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32558252/rectangle_large_type_2_12c6fea37177654a5a78f16fb8a9588d.png?width=800)
とっつぁん
#ショートショート
とっつぁん
カメイダイ
「待てぇ〜ルパ〜ン!!今日こそお前を逃がさないぞ〜!!」
「待てと言われて待つ泥棒がどこにいるのよ〜とっつぁ〜ん!!」
今日も俺は、とっつぁんに追われていた。
振り返って、とっつぁんを見た。
とっつぁんは笑ってこちらを見ている。
「とっつぁ〜ん、なんだか楽しそうじゃねぇかぁ!」
「ルパ〜ン、これのどこが楽しそうなんだ!楽しいわけがないだろう!」
そう言って、とっつぁんはまた笑っていた———。
「それじゃあ、またな!」
俺は次元たちと別れた。
お目当てのお宝を頂戴したら、
一人でバーボン片手に悦に入る。
それが俺の楽しみの一つだ。
バーの扉を開ける。
俺はカウンター席へと向かった。
「あれれ、どうしたのよ、とっつぁ〜ん。バーのカウンターで一人で飲んじゃったりして〜」
俺を待ち構えていたかのように、とっつぁんはそこに座っていた。
俺はとっつぁんの右隣に座った。
「マスター、おすすめのバーボンちょうだい。ストレートで」
「ルパン、今日も俺はお前を取り逃した。まったく情けない話だ」
「まぁそう落ち込むなって。とっつぁん」
俺はとっつぁんの右肩をポンと叩いた。
「ルパン、お前は善人の金品を奪うようなマネはしない。俺はずっとお前を追ってきたからわかる。いつもお前は、極悪人からしか奪わない」
「あれれ〜、そうだったっけか。そんなことは気にしたことがなかったな」
俺はバーボンをすすった。
「そしてお前は奪った金品を児童養護施設に寄付しているらしいな。しかも俺の名で、な」
俺は黙ってそれを聞いていた。
「ルパン、つくづく貴様は人の心を盗むのが上手いな」
俺は一気にバーボンを飲み干した。
「マスター、お勘定」
支払いを済ませて、俺は席を立った。
「どこへ行く気だ?ルパン」
バーボンをすすりながら、右手を上げるとっつぁん。
と同時に俺の左手が持ち上がる。
とっつぁんの右手と俺の左手には手錠がしてあった。
「そりゃないぜ〜とっつぁん」
「俺は警察官だ。お前が盗みを働けばいかなる理由であろうとも、俺はお前を捕まえなきゃならん。当たり前だろう」
「なんでい、なんでい、とっつぁん。今日ぐらい見逃してくれてもいいだろう〜」
俺は隠し持っていた煙玉を床に叩きつけた。
店内には白煙がモクモクと充満した。
とっつぁんは落ち着き払って、バーボンをすすっている。
俺はその場から姿を消した———。
「待てぇ〜ルパ〜ン!!今日こそお前を逃がさないぞ〜!!」
「待てと言われて待つ泥棒がどこにいるのよ〜とっつぁ〜ん!!」
今日も俺は、とっつぁんに追われている。
俺はいつものように後ろを振り返り、とっつぁんを見た。
とっつぁんは、今日も笑っている。