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孫六銭話 谷孫六著 大日本雄弁会講談社版

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昭和五年四月二十五日印刷 定価 壱円五拾銭
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記事一覧

金儲読本 財界立直し

財界立直し

 ある日博士は非常な驚きと狼狽のままで研究室を転げ出た。

 「怪星現る」

と、一言絶叫したかと思うと、家族の者たちを一室に集めた。そして何時にない顔色で唇の色まで真っ蒼にして

 「地球が亡びるぞ、今火星からの通信によると何億年か以前に太陽を放れた一つの団塊が再び太陽めがけて驀進し始めた。太陽と衝突する日は指を以て数えられる日数である。若しこの大惑星が太陽と衝突した時の結果を想

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金儲読本 理学博士

 火星に人が住んでいる 

 これは随分長い間の嫌疑で、未だに世界中の学者が色々な研究を続けている。 

 ここに火星研究に熱心な理学博士が1人いる。人知れず火星の方に向けた望遠鏡の下で、未だに何人も発見し得ない火星の正体を確かめようと独り憂き身を費やしていた。 

 誠実な努力は如何なる場合でも酬いずにはいられない。博士の研究は月に日にその目的の曙光を認めさすようになった。「火星から信号が来た」

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金儲読本 金儲術入門

金儲術入門

 「あなたは、よく金儲けの話をなさいますが、あんなに詳しくお調べになって居られるなら、1人でおやりになっては如何です?」

 彼は皮肉そうな目つきをして、孫六の顔を見た。孫六はくすぐったいような笑いを奥歯のあたりで噛み殺しながら、 

 「やっています」と、答えてやった。 

 「してみると、もう余程お儲けになったでございましょうね」 

 彼は、孫六の応接室に敷かれてあるボロボロ

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孫六銭話  はしがき

 世の中に不思議なことがある。 

 借家をすれば家賃が出る。いらなくなれば原形(もと)の通りにして返す。金を借りれば利子を取られる。期限が来れば返さなければならない。もし、両方借りっぱなしで、家賃も利子も払わなかったら厳重に返還を迫られる。それでも返さなかったら法律上の在任とならなければならない。 

 ところがここにどう考えても不思議でたまらないものが一つある。 

 それは借りっぱなしで、し

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